ジョブ型雇用

2021/06/18

日本で長年一般的な採用プロセスとされていた「新卒一括採用」の見直しが一部の企業で始まっています。そうした状況で注目を集めているのが、欧米のスタンダードといわれる「ジョブ型雇用」。必要な職務に応じて、それを遂行できる能力やスキル、経験を持つプロを採用する雇用方法です。

「ジョブ型雇用」とは?

「ジョブ型雇用」とは、入社後に行ってもらう仕事をできるだけ明確化して人材を雇用する考え方を指します。企業は求める職務内容や条件をジョブディスクリプション(職務記述書)に明記し、求職者はその内容に自らのスキルや希望が合致するかを判断して応募します。雇用後は職務記述書の内容を遂行し、厳密な意味での「ジョブ型雇用」においては、原則としてそれ以外の業務を行うことはありません。

欧米においてはこの「ジョブ型雇用」が一般的とされており、日本のように大学卒業時に新卒採用を行う企業は日本よりも少なく、大学卒業後の学生もインターンシップなどを経て、業務遂行能力を一定身につけた上でこの「ジョブ型雇用」により採用されるケースが多く見られます。

対して、多くの日本企業は専門性ではなく潜在能力(ポテンシャル)を重視して「新卒一括採用」を行い、入社後の仕事内容は明確化せずに、どの仕事をしてもらうかは「無限定」で採用をします。こうした雇用の在り方は「メンバーシップ型雇用」と言われています。総合職として人材を採用し、業務を通じて適性を見極め、年齢が上がるごとに昇給させることで、会社を長年支える人材として育て終身雇用するのが基本的な考え方です。

「ジョブ型雇用」が広まっている背景は?

企業文化をよく理解し、同僚や会社へのロイヤルティの高い人材を長期に渡り確保する制度として、「メンバーシップ型雇用」はここ日本で長年広く採用されてきました。

しかし、経済成長の鈍化や少子高齢化に伴い終身雇用が難しくなってきた状況や労働市場の流動化、IT化が進む時代に必要な専門職人材の育成の必要性の高まりといったものに加え、経団連がSociety5.0時代における雇用システムとして提示した(※1)などの理由から「ジョブ型雇用」に注目が集まっています。

また、ダイバーシティ(多様性)への取り組みの重要性も増しています。育児や介護などを理由とした時短勤務や在宅勤務、そして外国人労働者の受け入れに伴う制度の見直しや拡充などについても検討が必要となってくるでしょう。そうした状況下では、その時々によって柔軟に仕事内容を変えていく「メンバーシップ型雇用」よりも明確に仕事内容を確定させる「ジョブ型雇用」が適しているケースもあり得ます。

さらには2020年春以降、コロナ禍により定められた場所で決められた時間、業務を行う「従来の働き方」を見直そうという動きも強まっています。こうしたことから、働き方改革の一つの手段として、「ジョブ型雇用」は今後ますます注目されていくと考えられるでしょう。

こうした流れを受け、日本でも「ジョブ型雇用」の導入を検討する企業が増え始めています。

(※1)日本経済団体連合会(2020)「2020年版 経営労働政策特別委員会報告」

ジョブ型雇用の拡大とメンバーシップ型雇用の限界 ――ニューノーマルの時代に読み解く、ジョブディスクリプションの本質 vol.1

「ジョブ型雇用」のメリット/デメリット

上記のように、社会の変化への対応という側面もある「ジョブ型雇用」ですが、メリットだけではなくデメリットもあります。企業側、求職者側それぞれの視点から見ると以下のようにまとめられます。

●企業のメリット

  • 専門職志向の人材を採用しやすい
  • リモートワークやテレワークとの相性が良い
  • 必要に応じて採用するため、余剰人材を雇う可能性が低下する

●企業のデメリット

  • 会社へのコミットメントが低下し、転職されてしまうリスクが高まる
  • 必要なときに人材が採用できるとは限らない
  • 他のポジションへの異動が難しい

●求職者のメリット

  • 得意分野を活かすことができる
  • 自分が身につけたいと考えているスキルを磨きやすい
  • 業務範囲外の仕事を求められることが少ない

●求職者のデメリット

  • その仕事に必要なスキルがなければ就職が難しい
  • 該当の職務がなくなった場合、当初提示されていたものと異なる業務を行う可能性がある

■参考記事
日本でも浸透する? 大手企業で導入が進む「ジョブ型雇用」の仕組みとメリット・デメリット

「ジョブ型雇用」が正解とは限らない

新たな考え方ということもあり注目されている「ジョブ型雇用」ですが、全ての企業の課題を解決するものではありません。従来のメンバーシップ型雇用もジェネラリスト育成に適しているなどのメリットが存在します。

一律に「ジョブ型雇用」に向かうのではなく、自社の課題や所属する業界の状況などを見極め、最適な雇用方法を選択する必要があるでしょう。

ジョブ型とメンバーシップ型――トップランナーが語るニューノーマル時代の採用【オウンドメディアリクルーティング研究会】(後編)

監修:株式会社 人材研究所

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