採用マーケティング

2021/06/18

近年はマーケティングの世界において、モノやサービスが提供する機能や効能だけでなく、それらを利用することで得られる精神的な価値が重視されるようになっています。採用においても同様に、年収や仕事内容の魅力だけでなく、企業のミッション・ビジョン・バリューといったブランドがますます重要になってきています。
本稿では、採用における「マーケティング」の考え方と、その実践方法について解説します。

採用における“マーケティング”とは?

マーケティングの領域ではこれまで、モノやサービスの供給の状況と消費者の需要の関係性に合わせて、常に必要とされる考え方の転換が生じてきました。

モノを大量に安く作って売れば売れていた時代から、競合や類似品が生まれるようになり「顧客志向を追求し差別化をしないと競合や類似品に負ける」という流れからターゲティングの重要性が言われるようになりました。

それも成熟し、モノやサービスが溢れるようになってくると、機能だけでなく、それらの利用がもたらす精神的な価値に焦点が当たるようになります。加えて、ソーシャルメディアの普及により、消費者の自己実現を満たせるような設計も必要となり、企業のマーケティング活動はモノやサービスの購入後のプロセスまで考えることが求められています。

そして、こうした転換は、採用の世界においても同様に起きつつあると考えられます。

近年では年収や仕事の内容の魅力だけでなく、企業のミッション・ビジョン・バリューへの共感なども、会社選びにとって重要な要素となるなど、求職者の仕事に対する価値観の変化により、新卒採用においても中途採用においても、大企業や有名な企業だけでない多様な選択肢が生まれてきています。

加えてこちらもソーシャルメディアの普及に伴い、企業側も社員一人ひとりの素直で率直な発信が企業のブランドを作り上げ、企業の公式発信と合わせて採用力を決めるといったケースも見られるようになっています。

こういう流れのなかで、採用の領域においても、しっかりとしたターゲティングを行い、企業としての姿勢を訴求する発信の設計が必要となってきています。

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「採用マーケティング」の実践方法

そうした中でまず必要になるのは、自社の採用ターゲットと採用基準を明確にすることです。「誰に対して、どう思われたいか」を言語化しましょう。

いきなり「社内の動きを紹介するブログを作ろう」「先進的なイメージを持ってもらうために、採用サイトをオシャレにしよう」などの「手段」から入るのではなく、目的やゴールイメージを定め、そのイメージを作るためにはどのような施策が必要かといったプロセスを設定し、しっかりと社内で共有することが重要です。

目的・ゴールが共有できたら、「求める人材が入りたいと思える会社」になるためにはどうすれば良いのかを定義します。この時、「自社の現状」「訴求できるポイント」「改善すべき点」「訴求の計画」に沿ってまとめることが有効です。

その際に考えるべき項目の例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 存在意義:ビジョン・ミッション・会社が社会に与える影響など
  • 価値観:バリューを体現するエピソードや制度・社内外の広報活動など
  • 経営陣:どんな人か・なぜ創業/参画したかなど
  • 個性:メンバー紹介・なぜ入社したか・キャリアパス・やりがいなど
  • 雰囲気:オフィス環境・会社の雰囲気・評価指針や人事制度など
  • 事業内容:プロダクトの概要・ビジネスモデル・ユーザの伸び・注目度・今後の展望など
  • 市場環境:市場の状況・課題・注目度・今後の動向や展望など

それぞれ、項目ごとにバラバラに伝えるのではなく、ゴールイメージと整合させながら、一つのストーリーとしてまとめ上げると良いでしょう。

ストーリーについて社内で合意がとれたら、全体目標となる「ありたい組織像」から、先に挙げた「自社の現状」「訴求できるポイント」「改善すべき点」「訴求の計画」において分解した要素ごとに、中間的な目標を設けつつ、達成までのロードマップを作成します。そしてそれに沿って実施していくなかで、ターゲットの反応を見ながら改善を繰り返していくことが大切です。

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実践にあたっての注意点

「誰に対して、どう思われたいか」を伝えるストーリーをまとめる際、注意したいのが「企業視点で伝えたいことだけ伝える」ようになっていないかというポイントです。

会社概要などをベースに事業領域や沿革、社員数などを紹介すると、「必要な情報を伝えている」と感じるのですが、求職者目線では「なぜその事業に取り組んんでいるのか」「競合と比較した時の優位性は何か」「社員はどんな価値観なのか」といった疑問が解消されません。常に求職者目線に立って発信内容を考えることが重要です。

その際、例えば以下のような項目に沿って整理することが有効です。

・会社や市場の概要説明
上記のように、会社概要資料の情報だけでなく、会社のミッションやビジョン、その事業に取り組む背景、市場が抱える課題や伸びしろの大きさなどについて、噛み砕いて説明しましょう。

・プロダクトや事業の紹介
これも単純に概念やどういうものかを説明するだけでなく、プロダクトやサービスの提供を通して、どのように課題を解決しようとしているのか、顧客の声といった具体的な説明を公開できる範囲で伝えましょう。

・市場内での競合優位性
市場の中での自社のポジションについて、類似する企業の位置などと比較しながら、マップなどを活用してわかりやすく説明しましょう。

・待遇や環境の魅力
魅力的な社員、成長できる環境、カルチャー、働きやすさ、給料・賞与の水準など、訴求できるポイントを整理して伝えられると効果的です。良いところだけなく、改善していきたいポイントや、それをどのように改善するつもりかなど、なるべくオープンに紹介できると良いでしょう。

 

監修:株式会社 人材研究所

 
 

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