JT「人がメディアとなり、高付加価値人材を引き寄せる」 自社カルチャーへの共感という採用手法

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「事業推進に必要な、高付加価値人材が確保できない」
…いま多くの企業がこのような悩みを抱えている。
企業の人材採用を取り巻く環境は、大きく変わりつつある。少子高齢化、ミレニアル世代の台頭による求職者側の意識変化、働き方改革…。
何より、企業がイノベーションを起こしていくべき時代となり、必要な人材定義そのものが変わった。これからの事業を推進する「高付加価値人材」の採用は、経営レベルにおける喫緊の課題だ。
そんな「イノベーション時代に求められる採用」をテーマとしたイベントが2018年12月に開催される。イベントに登壇する3社の人事担当者を直撃し、3回にわたって「これからの時代に、あるべき採用」を探っていく。
この第1回では、JTで2018年9月まで採用に携わってきた長塚康介氏に話を聞いた。
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長塚康介氏。日本たばこ産業株式会社 経営企画部 次長(元 人事部 次長) 大学卒業後、2003年に株式会社サイバーエージェントに入社。 広告代理事業本部にて、営業・メディアバイイングなど、マネージャーとして幅広い業務に関わる。 2010年に日本たばこ産業株式会社に入社。 営業、SCM(サプライチェーンマネジメント)の部署を経て、2016年から人事部にて新卒採用に従事。2018年10月より現職。
JTのカルチャーを知る「共感者」を増やすという採用
──まずは、御社の採用方法についてお聞かせ願えますか。
JTでは、今も昔も採用に関する情報発信の場としてオフラインを大切にしています。このやり方は、売り手市場になったからといって変えていません。むしろ、この時代においては逆張りになっているかもしれません。母集団を集めるためにワンデイインターンに傾注している企業様も多いと聞きますが、弊社では応募者の方と密に話せる場を作り、JTのコアな「共感者」を増やすことを大切にしています。
弊社の新卒採用では、応募者の方とOne on Oneのコミュニケーションを可能な限り持つようにし、互いの良いところも悪いところも深く赤裸々に話すことで相互理解を深め、入社後のアンマッチを防ぐようにしています。
当たり前ですが、エントリーシートや履歴書で送られてくる情報と、直接会った時のアンマッチ率は、やはり凄く高いです。だからこそ、「直接顔を合わせる」という場を大事にしています。対話を通じて「その人がいかにJTとカルチャーフィットする人材か」・「JTがその人にとってカルチャーフィットする会社か」を相互に見極めるのです。ただ、直接顔を合わせる社員が、深い自社理解をしているということは大前提だと思います。
採用の成果とは、「5年、10年と長いスパンで活躍してもらうこと」
──母集団をやみくもに増やすより、一対一の密度の高いコミュニケーションでより自社にマッチする人材を探すということですね。紹介による採用も多いと伺いましたが、その点について具体的に伺ってもよろしいでしょうか。
紹介だけで年間数百人の学生と、1回1時間程度の時間を割いて面談させてもらってます。それはもう就職の文脈とは関係なく、純粋な対話の場と割り切っていますが、その時間が業務としては一番多いですね。
──そのお話だけを伺うと、成果に繋がるかどうか分からない業務に労力を割いておられるようにも思えますが、いかがでしょうか。
採用の成果とは、たた単純に人を採用することではなく、「採用した後に5年、10年と長いスパンで活躍してもらうこと」だと思っています。ですから、JTでは仮に目標採用人数が100人だったとしても、100人採ることには固執せず、「1人でも、自社のカルチャーやビジョンやミッションに共感し、活躍できる人材に来てもらう」という姿勢で採用に臨んでいます。
しかし、その一見非効率的に見えるやり方こそ、成果に繋がっているというのが実感です。JTに入社せず、他の企業に入社した方でも、「お前にはJTが合っていると思うから一度話を聞いてみなよ」と言って後輩を紹介してくれることも多々あります。採用人数という観点で見ると、応募件数が爆発的に増えることはありませんが、JTのコアな「共感者」を増やすという目的からすればちっとも無駄な活動ではないと考えています。
JTのカルチャーや価値をきちんと理解し、発信してくれる人の存在を今までも、これからも大切にしていきたいですね。彼らから伝わる情報の方が、よっぽど現実味がありますから。
JTのコアな「共感者」が企業の魅力を発信してくれる
──「共感者」の存在について、詳しく伺ってもよろしいでしょうか。
先ほどお話したように、コーポレートサイトや自社の採用イベントの他に、JTのカルチャーに好意を持ってくれた学生がその魅力を後輩や友人に語ってくれているんです。
たとえば、自社のインターン募集をした際、全体の6割が知人の紹介でした。当然、もともとJTの製品が好きだった方や就活中にたまたま情報を見かけた方もいらっしゃるんですが、紹介で人から直接伝わった情報をきっかけに応募してくるケースが主流になっています。
私たちは海外の採用もしていますが、そこでも大規模なキャリアフォーラムのようなマス向けのイベント参加を減らす一方、複数の大学に直接足を運んでリクルーティングしています。先月もチームメンバーが海外の大学に足をはこんだのですが、その際もJTにカルチャーに共感してくれた現地の学生が知り合いを集めてくれたり、学内を案内してくれたりしました。
──JTのファンになった「共感者」が、まるでメディアのように会社の魅力をどんどん発信してくれるということなのですね。そのような採用が主流になった経緯について教えてください。
これは、ブランドと同じで「歴史」ではないかと思います。今日発売した商品のCMを今日打ったからといって、ブランドが即出来上がるわけではないですよね。1人の人にその商品を好きになってほしいと努力して、それが2人になり、3人になり、少しずつ増えていく。それと同じように、過去の採用担当者達が対話を重視した活動をし続けてきた結果が、今に繋がっていると思います。ですから、JTの採用面接を受けたあと、一度違う会社に就職した方が、「もう一回JTを受けたい」と面談にいらっしゃることもよくあります。私たちの企業を理解し、共感してくれる人を増やしていく活動に重きを置くことが大切であると、実感しますね。