組織のビジョンを発信し、「腹落ち」を促せ ~イノベーションに貢献する採用の在り方ーOwned Media Recruiting SUMMIT vol.1 レポート(2)


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企業の成長の原動力として「イノベーション」の重要性が謳われて久しい。しかし多くの日本企業は、それを思うように起こせず頭を悩ませている。
「日本においてイノベーションを考える上で、最も変わるべきは『人事・採用』です」。そう語るのは、早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄氏だ。イノベーションは「知と知の新しい組み合わせ」でこそ起きるものだが、その本質が理解されていないケースが多いという。
いま企業がイノベーションを起こすために、人事、そして採用はどうあるべきなのか。
2018年12月に開催された第一回Owned Media Recruiting SUMMIT(オウンドメディアリクルーティングサミット)基調講演で語られた、同氏の見解をレポートする。
>>第一回レポートはこちら「イノベーションが求められる時代の人材採用とはーOwned Media Recruiting SUMMIT vol.1 レポート(1)」
なぜ日本企業はイノベーションを起こせないのか
講演冒頭、入山氏は「世界的に見ても圧倒的にイノベーションが求められる時代に“入ってしまった”」と前置きした。同氏はイノベーションに対する日本企業の焦燥感を日々感じているという。
「年間200から300の講演依頼をいただくなか、その7、8割がイノベーションをテーマとしたものです。それだけ多くの日本企業がイノベーションを起こせずに悩んでいるということでしょう」。
しかし、イノベーションとは「AmazonやGoogleが起こしてきたような大きなイノベーション」だけを指すのではない。
「新規事業を生み出すこと、新しい企画を出すこと、あるいは日々の業務改善もイノベーションです。企業は恒常的にこうしたイノベーションを積み重ねて変化していかねばなりません。例えば先日倒産したアメリカのシアーズのように、10年前は優良企業と言われていた会社でさえ、変化を怠ると簡単につぶれてしまうのが、いまの時代です」。
では、どうしたら恒常的なイノベーションを起こすことができるのか。
「イノベーションの本質は、知と知の新しい組み合わせです。いまある既存の知と、別のいまある既存の知を新しく組み合わせる。これがイノベーションの根本的な原理です」。
人は「0」からは何も生み出せない。しかし、既にあったけれども繋がっていなかった「何か」と「何か」を繋げることで、新たな価値・アイデアを生み出すことができるという。ただ、それには1人の人間では限界があると入山氏はいう。
「これは認知学の問題ですが、人間はどうしても、いま自分が目の前で認知できるものだけを組み合わせる傾向があります」。
それは採用においても顕著だという。
「経営学の科学的分析においても、採用担当者は自分と似た人を採用してしまう傾向があることがわかっています。新卒一括採用をしている多くの日本企業は、ずっと似たような人が集まり、何十年と留まっている。目の前の「似た知」と「似た知」の掛け合わせはもうやり尽している。そういうところからは、もうイノベーションは生まれてこないのです」。
イノベーションに絶対不可欠な「知の探索」
この状況から脱却するための手段が「Exploration=知の探索」だと入山氏は語る。自分たちの持っていない知を、なるべく遠く、幅広く探索し、自分たちが持っている知と組み合わせるのだ。
「そして、これは“儲かりそう”だと思ったら、徹底的に深掘りする『Exploitation=知の深化』を行います」。
「知の探索」と「知の深化」、この2つをバランスよくこなせるAmbidexterity(両利きの経営)ができる企業ほど、イノベーションを起こす可能性が高いという。しかし、企業はどうしても「知の深化」に偏りがちだ。なぜなら「探索」は時間も金もかかり、新しい組み合わせだからこそ、失敗も生まれやすいからだ。
「イノベーションを望むなら、失敗を受け止めることができる組織を作らなければなりません。予算・ガイダンスに縛られると短期的思考になり、結果的に中長期的なイノベーションが起こせません」。
この「知の探索」を支える上で人事・採用は重要な役割を果たすという。
1つはこの「失敗を受け止める力=評価制度」だ。成功か・失敗かという単純な紋切り型の評価を止め、定性的な評価を取り入れていくことが必要だという。
2つ目は「人を動かす」ということだ。欧米では主に「オープンイノベーション」を指すが、入山氏は、日本においてより優先すべき人の動きは「転職」だという。
「日本では、1つの組織に所属するとなかなか動かない。でも、人が動けば、まさにそこで知と知を新しく組み合わせることができるのです」
政府が提唱するダイバーシティ(多様な人材の積極登用)も、本来はこの「知と知の新しい組み合わせ」を目指したものだ。これに加え、今後は個人内の多様性(イントラパーソナル・ダイバーシティ)も重要性を増すという。
「人材の中には個人で多様な知見を持ち合わせている人がいます。いわゆるマルチキャリアの人は、
その人自身の中で新しい知と知の組み合わせを起こしている。イノベーティブな人材、知の探索型人間というのは、こうした人材です」。
ネットワークが重要な時代。必要なのは自社に対する「腹落ち」を促すこと
このように「知の探索」が進むこれからの時代は、企業の境界線が“ぼやける”と入山氏はいう。
「すでに働き方改革が始まって副業が普通になっている。これからの組織はどんどんネットワーク型になるでしょう。いままでだったら内と外の境界線に『採用の入り口』を設けて『採用』すればよかった。しかし、これからはいろんな人とゆるやかにつながるネットワークが重要になります」
そして、そのようなつながりで大切なのが「腹落ち(納得性)」だ。
「圧倒的に先が見えない現代。正確な分析に基づいた将来予想などというのは不可能です。このような時代に大切なのは、『自分の働きがどのように社会に貢献するのか』という組織の方向性に対する『腹落ち』です。だから企業はビジョンをしっかりと伝えて、腹落ちした人と一緒に前に進むということが重要なのです」。
この腹落ちを「センスメイキング」という。ビジョンが腹落ちしていれば、「知の探索」で多少の失敗があっても、方向性さえ間違っていなければ進むことができる。
「腹落ちを促すには、自分たちの姿を伝えないといけない。つまりメディアを持つしかない。オウンドメディアをリクルーティングに活用することは不可欠でしょう」と入山氏。
「会社が自分たちの思いを発信し、腹落ちした人を採用する。そしてネットワーク社会の中で一緒に前に進んでいく。そのような形で、ぜひイノベーション・変化をし続けてほしいと思います」と呼びかけ、入山氏は白熱した基調講演を結んだ。