「自社」を発信することが、求職者との信頼関係を生む ーOwned Media Recruiting SUMMIT vol.1 レポート(3)

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2018年12月に開催された「Owned Media Recruiting SUMMIT(オウンドメディアリクルーティングサミット)vol.1」会の後半は、採用において独自性の高い取り組みを進める企業の採用担当者による、パネルディスカッションが開催された。
株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括 曽山哲人氏をモデレーターに、
・ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田由香氏
・JT(日本たばこ産業株式会社) 経営企画部 次長 長塚康介氏
・株式会社マネーフォワード 執行役員 社長室長/人事部長 服部穂住氏
の3名が登壇。
業種も企業風土も異なる3社が、採用でもっとも大切にしているものとは何か。自社についての情報発信は、どのような考え方をもとに実践しているのか。さまざまな意見が交わされた。
どのような「採用基準」で候補者を見るか
パネルディスカッションは、事前に会場に向けてアンケートを実施し、とくにリクエストの多かったテーマに触れながら進行。まずは一番リクエストが多かった「採用基準」について、曽山氏が各社の状況をヒアリングした。
■ユニリーバ・ジャパン

島田氏が採用においてもっとも重視しているのは「パッションがあるかどうか」だという。
「本当に『これが好き』というものについて目を輝かせて話ができるかどうかです。モチベーションやパッションといったものが人の違いを作ると思っています。モチベーションは“(故意に)上げる”ものではなく、勝手に“上がっちゃう”もの。そういうことに時間を使っている人であるかどうかが大事だと考えています。」
また、例えば日本独自でやりたいことがグローバルの規定などによって実現できない場合、文句を言うだけでなく、「ではどうするか」という一歩を踏み出せるかどうかも重要な要素だと話す。
■JT

2018年9月まで採用に携わってきたJTの長塚氏(現・経営企画部次長)は、「採用基準はない」という。
「基準を作ったら同じ人が集まってきてしまう。だからルールは作りません。ただ、多様性は大事ですが、ある程度の“同質性”は必要だと感じています。社内では“最小同質性”という言葉を使っています。」
ここで言う同質性とは「一緒に働きたい」と感じさせる人の良さ・資質のことだ。その人の良さを自分なりに言語化できているか、また言語化しようと努力をする姿勢などを意識して見ているという。
■マネーフォワード

JTと同じく「採用基準はない」と話すのは、マネーフォワード服部氏だ。
「変化が激しいこの時代に採用基準などを決めることは、逆にリスクになってしまうのではないかと考えています。」そこで、自社の不変的なことだけ明文化し、そこに共感してもらえるかどうかを大切に考えているという。
「会社として僕たちが大事にしているミッションとビジョンとバリューとカルチャー、この4つについてだけは明文化しています。もし当社に採用基準的なものがあるとしたら、この4つに共感してもらえるかどうか、そこがポイントになると思います。」
自社の企業価値をどのように伝えるか
応募者が「どんな人か」を見極めることはもちろん大事だが、同時に「自社はどんな考えを持った企業か」を相手によく知ってもらう姿勢も大切であるというのが、パネリスト3者の共通意見だ。
■ユニリーバ・ジャパン
例えば、ユニリーバでは新卒向けに「24時間365日の通年採用」を実現した「ユニリーバ・フューチャー・リーダーズ・プログラム」を実施している。これは、「就職活動」という枠にとらわれず、「自分の強みやどんな人生を送りたいかを常に考えて欲しい」という思いから生まれたものだ。
ゲーミフィケーションによる選考やデジタルインタビュー、課題を設定して対応方法などを見るなど、より自社にあった人材を見極める方法で精度を高めているが、何よりユニークなのは「落ちた人にもなぜ落ちたかをフィードバックする」という点。
「求職とは自分の人生を考えることです。ユニリーバの採用に触れたことで、たとえユニリーバに来なかったとしても、『私は何をやっていきたいんだろう』と考えるステップにしてもらいたい」と島田氏は話す。
■JT
「企業力とは、会社側が従業員に提供できる価値のこと」と長塚氏。共感し得る「企業哲学」こそ、入ってから活躍してもらうための重要な価値だ。それをどのように伝えていくべきかに心を砕いているという。
「単に言葉で伝えるだけでは嘘くさくなってしまう。そこで例えば、茂木健一郎先生や波頭亮先生を講師とした『突き抜ける人財ゼミ』というものを企画しています。『就活なんて(形だけのものは)やめてしまえ、でも自分がやりたいことはちゃんとやれよ』と、僕らが言っても説得力がない事を、先生の言葉を通して語ってもらう。採用には直結しないかもしれませんが、学生が自分の人生に向き合う機会を提供できることにJTとして意義を感じています。」
また、何より実際に会い、相手の人生に寄り添う時間を作ることも相互理解には欠かせない。長塚氏が管轄する採用チームだけでも年間1500時間以上、学生との会話に時間を割くという。
■マネーフォワード
人と会うことを重要視するのは、マネーフォワードも同じだ。自社開催の採用イベントでは可能な限り多くの社員に参加を促している、と服部氏は話す。
「イベントに参加すれば候補者の顔が見えるし、場に立てば自分で候補者を口説かなければならない。すると社員にとって採用が自分ゴト化していくんです。」
「採用は全社でやるもの」と同氏。その際、全社での情報共有を重視しているという。
「ミッション・ビジョン・バリューを社内イントラに発信し、共有しています。社員数が増えてくると、隣の部署で何をしているのか見えなくなる。そうすると、自社のことなのに『会社紹介』ができなくなってしまいます。ですから社外に情報を発信するとともに、社内に共有し、理解を促すことも重要だと考えています。」
「自社を理解してもらう」ことを大事にする
75分にわたるディスカッションの終わりに、曽山氏は、各社が「母集団形成」において気をつけていることは何かを問いかけた。
■ユニリーバ・ジャパン
以前は、“候補者が併願する競合他社”との差別化をどう図るかということにフォーカスしていたという島田氏。しかし今、状況が変わってきていると言う。
「ユニリーバの伝えたい『ビーユアセルフ(自分らしく、あなたらしくあることを、我々は一番大事にしている)』というメッセージを伝え続けた結果、今、その競合他社との併願をする人がほとんどいなくなったんです。」
現在の求職者は、カルチャーの違い、風土の違いを見極めて応募していることを実感するという。
「今は、候補者を“取りに行く”のではなく、会社が大切にしているバリューとパーパスをきちんと打ち出し、それに関心を持ってくれた人たちを大切にしようと考えています。まだまだ遅れているところはありますが、動画や自社サイトなどを活用し、メッセージを伝える工夫をしています。」
■JT
昔は、他社に先駆けて就活生に会いに行こうとしていたと長塚氏。しかし島田氏の話と同様、「自分たちの特長・社風は何か」を伝えることに専念するようになったという。
「いまインターン応募者の6割が先輩の口コミをもとにやってきます。昨年採用試験を受けた先輩が、その体験をもとに、JTの価値やカルチャーを言語化し、『お前に合う会社かも』と後輩に伝えてくれている。それはとてもありがたいことです。」
現在は、自分たちの価値を伝達することに注力しているという。
■マネーフォワード
「いちばん大事なのは相互理解」と服部氏。
「入社前後のギャップをなくす事が大事だと思っています。100人規模がすぐに200人規模になる、そのような成長段階にある企業だからこそ、会社の状況を常にアップデートし正しく伝えるということが大切。母集団形成よりも、ミスマッチを減らすことを考えています。」
また経営陣が採用にコミットし、「人こそがすべて」であることを言い続け、ことあるごとにミッション・ビジョンを語る。これも採用を成功させるうえで重要なファクターだという。
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「SNSが普及しているいま、採用面接での嫌な体験などは瞬時に情報として発信されます。逆に言うと、いいことにも光が当たる。候補者との本質的な信頼関係構築が求められている」と曽山氏。
そのためには、相手をよく理解するとともに、「自分たちがどのような企業であるか」を伝えていくことが重要であると、改めて確認するディスカッションとなった。