優秀な人材の獲得に向けて、「オウンドメディアリクルーティング」を実践するための5ステップ


INDEX
「オウンドメディアリクルーティング(以下、OMR)」は、自社の運営するメディアを軸にして求職者へ主体的に情報を発信し、共感を喚起するリクルーティング手法だ。
2019年3月に行われた「Owned Media Recruiting SUMMIT vol.2」の特別講演では、Indeed Japan シニアディレクターの岡安伸悟氏が「『高付加価値人材』を獲得する攻めの採用手法『オウンドメディアリクルーティング』の実践」というテーマで講演を行った。
「『オウンドメディアリクルーティング』を実践したいが、どのように進めていいかわからない」という多くの採用担当者の声に応えたものだ。
求人情報をはじめ、さまざまな接点で自社に気づいた求職者は、より深く知るために必ず企業のウェブサイトをチェックする。その企業にどんな魅力があり、他企業とどう異なるかを、さらに知りたいと思っているのだ。その際に自社の魅力をしっかりと伝え、他社との差別化を図ることができる、自社メディアの運用は欠かせない。
岡安氏は初めに、オウンドメディアリクルーティングを実践する「5つのステップ」を紹介した。
1.採用したい人材像の明確化
2.自社の魅力となる強みの整理
3.検索キーワードに基づくジョブディスクリプションを作成
4.自社の魅力を伝えるシェアードバリューコンテンツを発信
5.オウンドメディアを中心に他施策とも連動
上記図版のように、5つのステップは1→3と2→4の2つの系統に分類できる。岡安氏の講演では、まず1、2のステップで自社分析を行い、次に3、4のステップで自社分析を元にオウンドメディアのコンテンツを作り込む順番で説明された。さらに5のステップでは、SNSやリファラル採用など他施策とも連動することで相乗効果が生まれることが語られた。
1.採用したい人材像の明確化
1のステップでは、採用したい人材像を整理し、明確化する。「整理できていないと、求職者に届けるメッセージがブレる、求職者に会社を知ってもらう方法がズレる、募集要項が曖昧で想定と異なる人からの応募が発生する、といったことが起こりやすい」と岡安氏。
岡安氏は採用したい人材像の整理にペルソナを活用することを提案する。欲しい人材がどんな人か、どんな企業に魅力を感じているかなど、採用に携わる関係者全員が共通認識を持ちやすくなるからだ。その結果、求職者を惹きつけるキーワードやジョブディスクリプションなど訴求するメッセージに一貫性が生まれるという。
・経歴
・経験
・目標
・モチベーション
・行動
ペルソナ作成のための項目には、上記のようなものがある。これらの項目を埋めていくと、自社がどんな人を採用したいのか、人材像を浮き彫りにできる。
また別のアプローチとして、以下のような例も有効だと、岡安氏は話す。
・社内の優秀な人材に共通する資質を見極める
・社内の優秀な人材がどのような採用チャネルを活用したか知る
・同僚や採用担当マネジャーに考えを聞く
・優秀な人材に考えを聞く
・業界特有の採用トレンドを注視する
2.自社の魅力となる強みの整理
2のステップでは、設定したペルソナのニーズを踏まえて自社が提供できる価値は何かを考える。
自社の魅力因子を分析するために、岡安氏は4つのPを元に考えることを提案する。
・「Philosophy(理念・目的)」
・「People(人・風土)」
・「Profession(仕事・事業)」
・「Privilege(特権・待遇)」
また、他のオススメの方法として、以下のような例も挙げられた。
・企業理念をしっかり伝えている新卒採用のメッセージングを、中途採用にも応用する
・企業理念や社訓をブレイクダウンしたり、その背景をあらためて探ってみる
いずれのアプローチでも起点にあるのは、視点を変え、求職者目線でどんな魅力づけや差別化ができるかを考えることだ。そのために岡安氏は、ネット上で話題になった「正義の味方と悪の組織」の例を引用して説明した。
「正義の味方と悪の組織が求人募集をするとします。『あなたはどちらの組織に応募しますか』と問われたとき、通常は『正義の味方』だと思われるでしょう」(岡安氏)。
しかし、それは魅力づけの内容によって大きく変わるという。「では、それぞれこんな特徴があると言われたらどうでしょうか」と岡安氏は続ける。
『正義の味方の特徴』
・自分自身の具体的な目標を持たない
・相手の夢を阻止するのが生きがい
・単独か少人数で行動
・常に何かが起こってから行動する
・受け身の姿勢
・いつも怒っている『悪の組織の特徴』
・大きな夢や野望を抱いている
・目標達成のため研究開発を怠らない
・日々努力を重ね夢に向かって手を尽くしている
・失敗してもへこたれない
・組織で行動する
・よく笑う
特徴だけを見ると、正義の味方より悪の組織のほうが魅力的に見える。すなわち、「正義の味方だから人気があるわけではない」と岡安氏。
同様に、人気のある大企業やユニークなベンチャー企業でなくても、視点を変え、求職者にとって魅力的な情報発信でれば、その企業の魅力づけができ、差別化できる。だからこそ、「その方法をみなさんと一緒に考えていきたい」と岡安氏は力説する。
3.検索キーワードに基づくジョブディスクリプションを作成
3のステップでは、設定したペルソナを踏まえてジョブディスクリプション(職務記述書)を書く。
従来の募集要項は簡単な仕事内容や給料などの記載に留まっていた。それに対し、ジョブディスクリプションは、職務内容、職務の目的はもちろん、目標、責任、権限の範囲、関わりのある社内外の関係性、必要とされる技術・知識、資格、経験、学歴など、詳細な情報を記載する。下記図版のように「仕事の役割」と「必要な能力」を“見える化”するのだ。
ここでも重要なのは求職者の視点に立つことだ。
「ステップ1で明確にしたペルソナを意識して、求職者が検索窓にどんなキーワードを入れるかを逆算してジョブディスクリプションを書きます。求職者目線、求職者ファーストでしっかりとジョブディスクリプションを書けるか、求職者が読んだときに『ちゃんと向き合ってくれている』と感じられるかどうかが大事」(岡安氏)
精緻なジョブディスクリプションを用意することで、求職者とのミスマッチが減り、出会いの機会が増えていくという。
4.自社の魅力を伝えるシェアードバリューコンテンツを発信
4のステップでは、シェアードバリューコンテンツによって自社の価値観や魅力を伝えることで、求職者の共感を喚起する。
シェアードバリューコンテンツは、以下のようにカルチャーコンテンツとパーパスコンテンツの2つに大別される。
●カルチャーコンテンツ
カルチャーコンテンツは、社員インタビュー、プロジェクトストーリー、オフィス環境、組織データのインフォグラフィックス、福利厚生・社内制度、キャリアプラン、日常的な社内のイベントなど、社員がどのように会社をリスペクトしているか、その会社においてどのような仕事環境で仕事をしているかを表すものだ。
「カルチャーコンテンツは、テキストだけでなくビジュアルで訴えていくことも効果的」と岡安氏。例えば、デザイン性の優れたオフィスの写真などがわかりやすい。また、組織データもテキストで書かれているケースが多いが、視覚的にわかりやすいインフォグラフィクスを用いることで、他社との差別化を図れるという。さらに、社内の日常や社員の声を直接伝えるブログも活用する企業が増えてきた。
●パーパスコンテンツ
そして、パーパスコンテンツは、企業トップのメッセージ、経営理念の紹介、自社のミッションやバリューの解説、会社の方向性についての経営陣インタビューなどで構成される。これらは多くの企業がすでにホームページを使って紹介しているだろう。
「シェアードバリューコンテンツは、企業の方向性をわかりやすく伝えるストーリーテリングと、よいことも悪いこともさらけ出す透明化を意識するといいと思います。もう一つ大切な点は、意味報酬。社会にどんな貢献ができるか、この会社に入ることでどのような存在になれるのかなど、やりがいや仕事の意義・働きやすさを伝えられるといいでしょう」(岡安氏)
5.オウンドメディアを中心に他施策とも連動
5のステップでは、1から4のステップを踏まえたうえで、SNSやリファラル採用など他施策とも連動させ、オウンドメディアリクルーティングの効果をより高める。
採用したい人材像を明確化した精緻なジョブディスクリプションと、自社に必要な人材や文化、理念を正しく理解し、共感を喚起できるシェアードバリューコンテンツ、これらが含まれるオウンドメディアを中心に据えることで、求職者に選ばれる企業になるだけでなく、他の採用チャネルとの連携を効果的に行うことができるのだ。
例えば、「リファラル採用」というチャネル。自社の社員がオウンドメディアの内容を読み込みことで、自分たちの会社の活動を改めて認識し、社員自身が自社の魅力を発信する“メディア”となることができる。
また、「人材紹介会社」を介した採用も同様だ。ジョブディスクリプションやシェアードバリューコンテンツを用意することで、エージェントに対して、本当に採用したい人材像と自社の魅力について的確に伝えられる。
さらに、SNSなどもオウンドメディアのコンテンツを拡散するメディアとして活用することができる。
「今後は、オウンドメディアがあらゆる採用チャネルの軸となるでしょう」と岡安氏。
「私たちは『We help people get jobs.』というミッションに基づき、求職者ファーストで情報を提供していきたい。そのためにオウンドメディアリクルーティングという“これからの採用のあるべき姿”を推奨、提唱していきます。ぜひとも採用活動に生かしていただければと思います」
岡安氏はこのような言葉で締めくくり、セッションを終えた。