「欲しい人を採用する」ための採用革新~実践企業の取り組みとは―Owned Media Recruiting SUMMIT vol.2 レポート(3)


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2019年3月に開催された「Owned Media Recruiting SUMMIT(オウンドメディアリクルーティングサミット)vol.2」。会の後半は、「採用は最強のコミュニケーションコンテンツである」と題し、企業文化に沿った独自性の高いリクルーティングを行う企業の担当者によるパネルディスカッションが行われた。
株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括曽山哲人氏をモデレーターに、
・株式会社スープストックトーキョー 取締役副社長 江澤身和氏
・パナソニック株式会社 採用ブランディング課 課長 杉山秀樹氏
・株式会社LIFULL 執行役員 Chief People Officer 羽田幸広氏
の3人が登壇。
さらに基調講演を行った、神戸大学大学院 経営学研究科准教授 服部泰宏氏もコメンテーターとして加わった。
「採用ホームページのデザインや内容に独自の世界観があり、お三方から醸し出されている雰囲気を含めて統一されている」と服部氏。
3社はどのように自社の世界観をコンテンツに落とし込み、一貫した企業イメージを生み出しているのだろうか。そして、それをどのように採用につなげているのか。
登壇者自身も新たな気付きの連続にメモを取るなど、学びの多い活発なディスカッションとなった。
採用で最も重視している「基準」とは
まず、「採用の基準」をテーマにディスカッションが始まった。会社の規模、事業内容、ビジョンは3社3様だが、共通する部分・異なる部分はあるのだろうか。
■スープストックトーキョー

「スープストックトーキョーの新卒採用は、例年20人以上を目標に置いている」と話す江澤氏。同社では新入社員の初めの配属先が実店舗になるため、「店舗にいるだけでどれだけお客様や店舗を明るくできるか」が重要だと考えており、採用の評価基準は「表現者であること」。そこで「表現者採用」を掲げているという。
「1時間の最終面接のうち前半20分を応募者の方に委ね、限られた時間のなかで自分の思いをどれだけ他人に伝え、気持ちを上げることができるか、そのパワーや熱量を見ています」(江澤氏)
面接方法は、以下の3つのコースから選択してもらうという。
(1)指定した絵本の朗読
(2)自分の好きなものを全力でプレゼンする
(3)“応募者の舞台(アルバイト先など)”に行く
(1)は指定の絵本を気持ちを込めて朗読してもらい、表現力や共感を生める人なのかどうかを見る。江澤氏はもちろん絵本の内容を知っているが、朗読する人によって、話に引き込まれる度合いがまったく違うという。(2)は「アイドル」や「アーティスト」、「自分の出身地」などテーマは自由。自分の好きなものを通じ、どれだけ他人に共感や興味を持ってもらえるかがポイントだ。また(3)は実際に「モデル」をしていた応募者の撮影現場に赴くなど、その候補者自身が活躍する場(学校やアルバイト先は問わず)で、どのように表現できているかを見極める。
表現者採用を実施している根幹にあるのは、「世の中の体温を上げる」というスープストックトーキョーの企業理念だという。その人が「誰かの体温を上げることができるか」「誰かを笑顔にさせたり、楽しませたりすることが好きかどうか」。通常の面接だけでは計り知れないものを見極めたいのだと、江澤氏は話す。
■パナソニック

新卒約700人、キャリア採用も約600人という規模の採用をしているパナソニック。リクルーターや面談員、先輩社員を含めると、社内だけでも1000人以上が動くという。
「求める人物像として挙げる要件は、『志』『尖った強みを持っていること』『変革を自ら起こしていけること』の3つです」と杉山氏。採用規模が大きいため、詳細な基準を設けてもすべての人の目線を合わせることは非常に難しい。しかし、経営理念が社内で徹底して浸透させられていることにより、一貫した基準で採用できているのだと語る。
「ブランドスローガンの『A Better Life, A Better World.』という言葉や、創業者・松下幸之助の言葉が、日常の雑談のなかにも出てくるんです。無意識に言葉が出てくるくらいの浸透があってこそ、この規模の採用ができるのだと思います」(杉山氏)
会社のなかに共通言語を浸透させて、長期的な採用力を高めるために、自社のカルチャーを新しい社員にいかにインプットするかが大切だと杉山氏。そのため1ヵ月間の新入社員研修のうち最初の2週間は、みっちりと経営理念を学ぶ。またキャリア採用研修でも、4日間は理念についてのディスカッションを行うという。
■LIFULL

LIFULLの採用人数は、例年新卒で30〜50人、中途は50〜100人。採用基準は「ビジョンフィット」「カルチャーフィット」を第一にしているという。
「経営理念を実現するために我々の会社はあります」と羽田氏。
この理念のベクトルと個人のベクトルが合致している場合のみ採用に至るという。
「ベクトルがない人、たとえば『成長したいです』というだけの人は採用しません。中途採用も、『ビジョンやカルチャーがフィットしていないけれどもスキルがある人』と、『ビジョンやカルチャーがフィットしているがスキルが達していない人』がいれば、後者を採用します」(羽田氏)
徹底してビジョンフィット、カルチャーフィットにこだわっているのは、かつて会社が急成長した際、即戦力を優先して企業文化が乱れてしまった失敗に対する反省からだという。
企業理念を表す言葉の選び方と共有方法
3社とも応募者の能力やスキルの前に、なによりも企業の理念や文化と合っているかどうかに重点を置いていることがわかった。
「各社、他人の言葉ではなく自分の言葉で人材について語られていますね。これは当たり前のようで意外とできていないこと。言葉の持つパワーがあります」と、服部氏。さらに「それらの言葉をどのように選んだのか」、「その言葉はどのように社員と共有しているのか」について質問を投げかけた。
■スープストックトーキョー
「『世の中の体温を上げる』という企業理念は、母体のスマイルズの理念である『生活価値の拡充』の説明文として創業者の遠山正道が使っていたもの。2016年に分社化した際、あらためてスープストックトーキョーの理念としました。選んだポイントは、日常的に使えてわかりやすいという点です」と江澤氏。「この仕事は誰の体温を上げるためにやっているのか」などと、社員のみならずアルバイトパートナーの間でも日常的に使われているという。
■パナソニック
パナソニックは家電のイメージが強いが、杉山氏は「我々は『A Better Life, A Better World』を実現していく会社」だと語り、すべてこの軸に沿った活動をしているという。その言葉のルーツにあるのは、創業者・松下幸之助が掲げた経営理念だ。社員にはそれぞれ大切にしている松下の言葉があり、経営理念とそれらの言葉が社内の共通言語として機能しているという。
「ブレない軸があるからこそ、迷ったときはそこに立ち戻って考えることができます」(杉山氏)
■LIFULL
LIFULLは経営理念のほか、社是、ガイドラインをそれぞれ設けている。
「会社が急成長してさまざまな人が入社した時期に、言葉で社員の意識を統一し、それを外部に向けて発信して、ベクトルが合う人に来てもらおうと、4ヶ月間ほど議論してつくりました」(羽田氏)
以来、経営理念と社是は変えていないが、ガイドラインは事業のフェーズによって改正を加えているという。
「有志の社員を集めて話し合い、全社員向けのアンケートも2、3回実施しています。たとえば3代目のガイドラインは、1年半かけてプロジェクトメンバーが議論し、役員に提案しました。新しいガイドラインが始まる段階で、すでにある程度内部に浸透している状態です」と羽田氏。さらに、「ガイドライン浸透度アンケート」なども実施し、浸透度が低い部署は浸透を支援するなどの取り組みを行っているという。
情報を発信する上で意識していること
では、求めている人物像や企業風土などを発信する上で、どのようなことを心がけているのだろうか。また、その発信する情報によってどのような母集団の形成を意図しているのだろうか。
■スープストックトーキョー
発信チャネルとして、コーポレートサイト・採用ページ・SNSの3つを軸とし、それぞれメッセージ・内容のポイントを変えている、と江澤氏。
まず1つめのコーポレートサイトは、メッセージや姿勢をより明確に示すため、テキストを中心とした作りに。2つめの採用ページは、入社後のギャップを避けるため、社員や企業のありのままの姿を見せることを意識している。3つめのSNSは、できるだけタイムリーにそのときどきの状況に合った内容を発信。
加えて、店舗をメディアと捉えたコミュニケーションも強く意識している。2019年の年始には、全69店舗それぞれの店長メッセージを掲載したリーフレットとポスターを作成し、各店頭に置いた。直接的に採用を目的としたものではないが、「店作りに対する店長一人ひとりの思いを伝えたい」という、ブランドコミュニケーションの一環だ。
「ブランドの“ファン”でいてくださることはありがたいのですが、それだけでは採用には至らないこともあります。私たちの理念と、その人が大事にしているものが重なっていて、当事者意識があるからこそ課題感も持っている。だからこそ、弊社で働きたいという思いを持っている方を採用したい」(江澤氏)
メッセージを色濃く発信し、自分たちの考えを明確に提示することにより、ある程度応募者が“ふるい”にかけられるという。
「たくさんの方に来ていただくことよりも、私たちの姿勢に共感してくださる方に出会うことが最優先」と江澤氏は語る。
■パナソニック
マルチチャネルでいかに日常的な情報接点を作っていけるかということを意識しているというパナソニック。
「これまで“働く場としての魅力”や“そこにいる人の想い”が伝わるような体温を感じる発信がなかったので、オウンド内外にそうしたコンテンツを用意し、FacebookやTwitterを活用して届けるようにしました。指標はSNS上のエンゲージメントを見ています」と杉山氏は話す。
採用における発信のKPIは、「どのくらい募集につながったか」が重視されやすく、自社に引き込むための“企業色が強い”コンテンツ発信になりがちだ。しかし、KPIをエンゲージメントにしたことで、どの発信がエンゲージしているか、どのトピックがトレンドになっているかがわかった。そのデータがあったからこそ、企業側の都合に寄った独りよがりな発信をなくし、「ミッションドリブンな会社=パナソニック」というメッセージを伝える発信に集中する方針に舵を切れたという。
杉山氏は、「ベンチャーは発信に積極的だが、大手企業の体温を感じるような発信はまだまだ足りていない」と話す。具体的にどれくらいの差があるのか、エンゲージメントを軸にしたことで発見でき、気付きも多かったという。
■LIFULL
オウンドメディア「LIFULL STORIES」では著名人などのインタビューを掲載しているLIFULL。既成概念にとらわれず、自分らしく生きている人のストーリーを掲載することで、あらゆるLIFEを応援する姿勢を表現しているという。
「社員インタビューも、『思い』や『やりたいこと』を語ってもらうようにしています。サイトで理念を強く押し出すことを意識し、そこに合う人だけ来ていただきたい。1人募集するなら、1人と会って採用できればいいのです」と羽田氏。情報発信をすることがスクリーニングの役目を果たしているのだ。
また求人媒体への出稿についても、いわゆるメジャーではなく、ベンチャー志向の強い人が集まっている“マニアックな”求人媒体を敢えて選ぶことが、自社の思いに近しい人に来てもらえる一手になっているという。

「かつては皆に均等にリソースを割く時代だった。しかし、今は誰のために、どんなリソースを割くかをしっかり考えないといけない時代になっている。『とにかくたくさん来てください』ではなく、誰のために大事な時間とお金を使うかが問われている」。最後に服部氏はこう締めくくった。
自社で活躍できる人はどんな人なのか、欲しい人材像を明確化し、そこを見極める採用を行うこと。また、企業のカルチャーやビジョンをしっかりと伝えられる、的確な情報発信を行うこと。
自社の採用をどのように革新するべきかを考えさせられる、学び多いディスカッションとなった。