【デザイン経営時代の人材採用 vol.2】デザイン経営でエンジニア採用を強化 〜ラクスルのオウンドメディアリクルーティング〜

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米ウーバーに代表されるような「シェアリングエコノミー」の考え方をBtoBの業態に持ち込み、急成長を遂げているラクスル。デザイン思考を経営レベルで浸透させ、BtoB業界向けの革新的なサービスを開発してきた同社は、人材採用においても、デザイン思考を活用した「求職者」視点での採用活動で成果を挙げている。同社のデザイン経営論と人材採用戦略を聞いた。
ラクスルのメインの事業は、稼働率の低い印刷機を持つ印刷会社とユーザーとをマッチングし、印刷会社の設備稼働率を高めつつ低コストを実現した印刷サービスだ。印刷会社とユーザーの双方にメリットのあるプラットフォームを運営する。現在はさらに物流業界にもシェアリングの考えを導入し、自社ではトラックを保有せず、空きトラックを持つ提携運送会社に仕事を依頼するサービス「ハコベル」を展開している。
失敗をデザインする
BtoB業界に革新を起こすサービスを開発する同社が、サービス開発のコストとスピード、そして開発の精度を高めるために行ってきたのが、開発部門を中心とする社内のあらゆる業務に「デザイン思考」を浸透させることだった。「ゲームやアプリといったBtoCのサービスと異なり、我々が提供するようなBtoBのサービスは自分自身が生身のユーザーになり得ないケースが多い。だからこそデザイン思考が基本とする『UCD(ユーザー中心設計)』の考え方を取り入れて、顧客が本当に何を望んでいるか、そのインサイトを高い精度で見いだすことを徹底しなければならない」。デザイン思考の推進役として活躍するラクスルの泉雄介・取締役CTO(最高技術責任者)は同社のサービス開発の思想をこう説明する。そして、そのサービス開発の肝が「失敗をデザインすることにある」と表現する。
「以前の職場で、20人規模のエンジニアと巨額の予算を付けて開発したデジタルヘルスケアのサービスが全く使われなかったという苦い経験をした。自分たちの仮説だけを頼りに新サービスのソフト開発を漫然と行うことは、ニーズがあるかどうかもわからない場所に莫大な人材やコストを投入しかねないギャンブルとなることを身を以て体感した」。
サービス開発が博打にならないためにはどうすればいいのか。泉CTOが取り入れたのが、ユーザーの観察やインタビューを徹底して、潜在的なユーザーニーズのインサイトを探すこと。そして、そのインサイトに基づいて作られたサービスのプロトタイプを可能な限り早く作成して、ユーザーへの検証を実施し続けることだった。「自分たちの予測が正しいのか間違っているのか、開発するサービスにニーズがあるのかないのか、実際に使えるサービスになっているのかそうでないかをいち早く確かめる作業を徹底して繰り返すことを、社内の仕組みとして取り入れた」。
デザイン思考を活用して「事前に失敗しておく」というプロセスを正しく設計することで、間違いに早く気づいて最小のロスで最大の結果を生み出すことができる。同社の事業は、そもそもが、これまでどの企業も行なっていない新しいサービス。デザイン思考は、不透明な事業の見通しを可能な限り高め「未来の解像度を高める」ことを可能にするものなのだ。
友達を誘うように求人する
「失敗をデザインする」ことの根底にあるのは、ユーザーの視点に立ってサービスやプロダクトを考えること。同社はこのUCDの思想を企業内のさまざまな活動に取り入れており、それは人材採用の現場でも効果を発揮している。
この場合、UCDでいう「ユーザー」に当たるのは「求職者」だ。「例えばエンジニアを採用する場合は、現場の要望を元にどのような技術に精通していて、参加させたいチームにふさわしいパーソナリティーはどのようなものかなど、まずペルソナを細かく設定する。その上で、どうしたらそんな人材が入社してくれるかを逆算しながら採用コミュニケーションを行なっていった」。
こうしたペルソナの設定は、エンジニアの転職に対する価値観をさぐり当てるのに役立った。そしてその結果出た結論の1つが「社員が自分の友達を勧誘したくなるような採用環境づくり」だった。
例えばオフィス環境。公園のようなリラックスした雰囲気の内装。グループやペアでプログラミング作業やデザイン開発、アイデア出しができるような多彩なフリースペースを用意。社員の働く環境を整えて開発の効率を高めるのが第一の狙いだが、企業の魅力を高めて「一度遊びに行ってみたい」と求職者に思わせ人材獲得につなげる意図もある。

さらに、こうした恵まれた環境で社員が自分のスキルを発揮していることを伝える道具として、ブログを中心としたオウンドメディアによる情報発信を強化した。同社が持つ採用ブログは3つある。企業の理念や事業の概要、社員の働く環境や日常を伝える「オフィシャルブログ」。そして、エンジニア向けに、実際のプロジェクトの現場でどのような仕事をしたのかを、実際にそのプロジェクトに関わった社員自らが記事を書く「テックブログ」。ここでは社内のエンジニアの働き方や、どのような教育が行われているかを臨場感を持って詳細に伝えている。3つ目は、同様の内容を、社内のデザイナーがデザイナーの求職者向けに発信する「デザインブログ」の3つだ。
自身のスキルを社業にどう生かしているのか、またその会社でどのようにしてスキルを磨いているのか。こうしたエンジニアの日常を、働いている社員自身が淡々と発信する。そこに求職者は、まるで友達に誘われて会社の活動を覗き見しているかのようなリアリティを感じ、企業への共感を熟成させていくという。ネット世代は、情報の信頼度に対して敏感な人が多い。正直に脚色なく、自分たちがやっていることをそのまま伝えることが、結果的に最も関心を引くことになり、仮に弊社に入ってもらってからも「こんなはずではなかった」というミスマッチが少ないのだという。
競争の激しいエンジニアの獲得競争を生き抜くために、求職者の立場に立ってどんな情報が欲しいかを検討した結果、同社がたどり着いた回答の一つが、採用したい職種の属性に合わせた、きめ細やかなオウンドメディアによる情報提供だったのだ。
制作:日経ビジネス
※2019年6月7日 日経ビジネス電子版に広告として掲載されたもの