【デザイン経営時代の人材採用 vol.3】オウンドメディアを活用して、顔の見える職場を自らデザイン 〜スノーピークが実践する、ブランド起点の採用戦略〜

2019年4月に経済産業省と特許庁が発表した「知財功労賞」で、デザイン経営に優れた企業として特許庁長官表彰を受賞したスノーピーク。
10年で売り上げが4倍と急成長する中で、同社の理念に沿った高い創造性を持つ高付加価値人材を採用するため、昨年から採用改革を進めてきた。その軸になるのが、オウンドメディアを活用したコミュニケーション戦略だ。
アウトドア製品やアパレルの製造・販売のみならず、アウトドアという「体験」そのものを提供する同社にとって、デザインは事業の根幹そのものだ。事実、同社には経営やマネジメント層にデザイナー経験者がかなり多いという。同社の山井太社長自身、これまで100アイテム近くの商品を自らデザインし、調達から営業まで行なっていた人物でもある。
父親の会社でオートキャンプのビジネスを立ち上げようと入社した山井社長。もともと外資系の商社で高級ブランドの販売を手がけていた山井社長。ものづくりだけではなく「売り方」にもデザインを取り入れ、ブランド作りを行ってきた。本社の敷地に美しいキャンプ場を作ってキャンパー憧れの聖地にし、ファンイベントなどを積極的に展開。自社の店舗やウェブアプリ、ウェブサイトやカタログまで、コミュニケーションも自社でデザインし、アウトドアライフの楽しみ方までも提案することで、スノーピークのブランドづくりに成功した。
そしていま、同社のブランド作りを通じて培った付加価値創造のノウハウはさまざまな場面で役立っている。キャンプ場作りを地域の活性化に役立てたり、これまで提供してきたキャンプの楽しみ方のノウハウを企業研修・福利厚生に活用したり、自然と共生できる心地よいマンションの共用空間をデザインしたりと、「コト」のデザインまで手がけている。
「人が気づかないその地域や場の価値を見つけて、スノーピークらしくバリューアップする。我々の実態は、アウトドアをテーマにしたデザイン会社と言っていいかもしれない」(同社の青栁克紀・執行役員人事管理本部長CHO)。
そうした中で同社のスタッフには「クリエーティブであること」が求められる。この2つの資質を持つ高付加価値人材はどうあるべきか、同社は「スノーピークウェイ」と呼ばれる理念を持っていたが、これを元に「心の三か条」「行動の六か条」とよばれる行動指針を昨年設定。クリエーティブであるためにどのような心構えを持って、毎日の仕事に挑むべきか、判断に迷った時にどう行動すればいいのかを具体的に指し示す価値基準を設定した。
就職情報サイトは使わない
この行動指針を検討すると同時に、実は同社は2018年から採用のプロセスを大きく変えている。新卒採用においてクリエーティブパーソンの見極めは難しいが、面接において「一辺倒の質問だけはしない」ことを実践したり、二次面接として、求職者と一緒にバーベキューやキャンプする「アウトドア検定」を取り入れたり、工夫を凝らしている。
「仲間を思って行動できるか。次にどんなことをするのか指示を待つのではなく自分で行動を考えられるか。刻々と変わる自然に臨機応変な対応が取れるか。我々が目指す行動指針に沿った人物かどうか、面接で受け答えするだけではわからない姿を長時間一緒に過ごすことで見極めていく」ことを狙っている。
また、採用コミュニケーションの面でも「これまで利用していた外部の就職情報サイトの利用を全部やめ、自社が運営するオウンドメディアを活用した情報提供一本に絞る」という試みを昨年から始めている。
この狙いは2つある。あえて情報の発信源を絞り込むことで「本気で弊社で働きたいと思い、自ら情報を取って来られる人だけに面接に来てもらう」ことを狙った。
「社員の満足度調査を行うと、この会社で働くことに満足している社員の7割近くが、今の活躍できている理由を『仲間との関係が良好だから』と回答している。創造性の高い仕事は、こうした仲間との協業作業から生まれることを考えると、同じ熱意を持って仕事に取り組める人材であることは、採用の必須条件になる」。
さらにオウンドメディアでの採用に絞った狙いはもう1つある。「会社の理念、どのような事業があり、そこでどんな働き方をしてほしいかを自分たちの言葉で伝えたい」からだ。
特に「働いている人たちの顔をしっかり見てもらうこと」が重要だという。「実際に働いている社員へのインタビューをウェブサイトに掲載し、その社員に話を聞くことができたりなど、より深いコミュニケーションの手法を、オウンドメディアを通じてできないかを考えている」。
ウェブサイトを使った情報発信だけではない。今後中途採用者向けには、スノーピークに少しでも関心を持ってくれた人が、気軽に会社にやってきて社員のワークスタイル、ライフスタイルを知ることができる場作りも、今後積極的に行っていく考えだという。
「現在の会社に不満があるから転職する、仕事がないから求職するという人よりも、本当に欲しいのは、今の会社で満足活躍しているけれども、それでもスノーピークで働いたらもっと面白そうだと思ってもらえるようなポジティブな人。こうした人に向けての、魅力ある採用コミュニケーションをどうデザインしていくかが、今の課題だ」。
そこでは、自らでデザインしたコミュニケーションメディアで、自らの言葉で仕事を語ることが欠かせない。
制作:日経ビジネス
※2019年6月14日 日経ビジネス電子版に広告として掲載されたもの