デザイン経営が求められる時代に、採用はどうあるべきか。─Owned Media Recruiting SUMMIT vol.3レポート(2)

2019/08/13
デザイン経営が求められる時代に、採用はどうあるべきか。─Owned Media Recruiting SUMMIT vol.3レポート(2)

2019年6月に開催されたOwned Media Recruiting SUMMIT(オウンドメディアリクルーティングサミット)vol.3。基調講演に続いては、経済産業省・特許庁が発表した『「デザイン経営」宣言』の取りまとめに参画した有識者たちによる、パネルセッション1が実施された。

パネリストとして登壇したのは、基調講演に引き続き株式会社Takram代表 田川欣哉氏、そして経営コンサルティングファーム A.Tカーニー日本法人会長 梅澤高明氏、クリエイティブ・カンパニー 株式会社ロフトワーク 代表取締役の林千晶氏の3名。
またモデレーターはIndeed Japan株式会社 代表取締役の高橋信太郎氏が務めた。

田川氏、梅澤氏、林氏は旧知の仲で、お互いの声がけで共に同じプロジェクトを手がけることもあるという。そんな3名が醸し出すリラックスしたムードの中、デザイン経営と採用の様々な課題について話が展開された。

求職者を“処理する”ような採用プロセスは、人間中心主義のデザイン経営とは真逆のあり方

求職者を“処理する”ような採用プロセスは、人間中心主義のデザイン経営とは真逆のあり方

パネルセッション1のテーマは「デザイン経営視点で語る採用」。この壮大なテーマを理解しやすくするために、まずはテーマをブレイクダウンして「採用プロセスとデザインの関係は?」という視点から議論が始まった。

田川氏は最初に「デザインには2つの種類がある」という前提を語る。一つはいわゆる「スタイル(姿・形・型など)」を作るデザイン。もう一つは、ユーザー(人間)を中心に据え、彼らの抱える課題を解決し、長く良い関係を作るデザインだ。
より本質を捉える後者の視点で見れば、「いわゆる日本的な採用メカニズムは、非常に非人間的だ」と、田川氏は問題意識を述べた。

「同じ日・同じ時間に、同じような黒いスーツを着た人たちを、同じ場所に呼び寄せる。それは、せっかく応募してきてくれた“一人の個性ある人”に対し、まるで満員電車のような一律の採用プロセスに乗せ、『ぎゅうぎゅうですが、仕方がないんです。移動してください』と言っているようなもの」。
田川氏は、企業側にこの“仕方がない”という感覚があることを強く感じるという。また企業側が求職者への対応を、“処理する”と表現する例があることへの違和感も述べた。

それを受けた梅澤氏は、田川氏のメッセージに頷きつつ、「一般的に横行している採用プロセスは、デザイン経営でいうところの『人間中心デザイン』とはまさに対極にある」と重ねる。そして自社の採用を例にしてこう続けた。

「非常に優秀な方が数多く応募してくれるが、オファーを出す方はそのごく一部だし、オファーを出しても入社いただけない場合もある。しかし、採用には至らなかった方々も数年後には、どこかの企業の幹部になっていることが多いんです」。

それはつまり、「将来お客様になることが大いにあり得る、ポテンシャルを秘めた相手を、“処理する”ようなプロセスはあり得ない」というメッセージだ。

求職者を“処理する”ような採用プロセスは、人間中心主義のデザイン経営とは真逆のあり方

さらに、「お客様になる可能性がある求職者の人たちへ、持ち帰ってもらいたいエクスペリエンスがあるとしたら、それは何か?」という高橋氏からの問いかけには、「様々な経営コンサルティングファームがある中で、地道な仕事を含めて、クライアントのためになることに全力投球しているファームだという印象を持って帰ってもらいたい」と語った。

梅澤氏のメッセージから見えたのは、「自分たちの会社はこうだ」と認識し、表明するという姿勢。それを受けて田川氏は、「これからの採用は、経営者から一番の若手社員まで、採用プロセスに関わる全員が、はっきりと誇りを持って、自分たちの会社のことをクリアに語れるかどうかが肝になる」と強調した。

「自分たちのコアの価値は何なのか?」という自分たちへの問いかけが最初にあり、同業他社と比較して何が違うのかがわかるレベルまで、解像度高く理解していることが、すべての起点になるということだろう。

また林氏は、「自分たちの会社はこうだ」という表明がなかった時代の事例として、「私、面接ってホテルでやると決まっているものだと思っていたんです」と、自身の就職活動経験を、笑いを交えて振り返った。
当時は就職活動の面接会場といえば高級ホテル。もちろん時代背景が大きく違うという点はあるが、等身大の自社の姿を感じてもらう重要性が認識されておらず、「大量の人数を同時に一つの場所に集めて面接する」ことに疑問を抱かれなかった時代の表れと言えるかもしれない。

さらに林氏は、「デザイン視点で採用を捉えたときには、『働く場所を伝える』ということも重要だと思います」と続けた。「働く場所で採用面接をすれば、求職者は会社の様子を感じられますよね」。

ミスマッチを防ぎ、互いに納得できる採用を実現するためには、実際に入社後に自身が働く場所を知ってもらうことが重要である、という意味だ。この考え方が主流になりつつあることを表すように、実際ロフトワークにも、『自社らしい職場環境をつくる』という仕事のオーダーが増え続けているというエピソードも付け加えられた。

自社風土が伝わるオウンドメディアにより、採用のヒット率が格段に上昇

自社風土が伝わるオウンドメディアにより、採用のヒット率が格段に上昇

続けて林氏は自社採用を例に挙げ、「新卒一括採用は辞めた方がいい」という、自身の持つ問題意識も投げかけた。というのも、ロフトワークは過去に新卒採用を実施した際、5名の募集に対して1,000名を超えるような応募があったのだと言う。さらに、応募者に対して課題を提示したり、提出を受けたものをチェックしたりなど、非常に苦労しながら内定を出しても、最後の最後に断られるケースも多かったという。

「この方法ではダメだ。会いたい人に出会えていない可能性がある」と感じた林氏は、新卒一括採用という形での採用プロセスをやめることを決断。新卒・中途問わず、通年で採用を行い、求職者に対してはいつもオープンな状態をつくることにした。ちなみに、新卒一括採用を辞めて以降も実績は落ちておらず、毎年3~4名はコンスタントに新卒社員を採用している。

高橋氏が、「今のお話のポイントは、ロフトワークさんが通年採用にあたり、どういう情報発信をしているのかが重要なのでは」と問うと、「“採用サイト”は敢えてつくっていません」と林氏。
「でも、会社のホームページはリニューアルしました。それは、お客さんのためのサイトではなくて、ロフトワークにはどんな人がいて、どんなことを大切にしているのか。つまりロフトワークがどんな会社かが、よくわかるものにしたんです。仕事の問い合わせは全然増えなかったのに、採用の問い合わせが増えました(笑)」。

林氏によるとコンスタントに月に平均して20人程度の応募があるという。まさにオウンドメディアリクルーティングに成功している事例と言えるだろう。

すると田川氏も、自社の事例を披露してくれた。
「1年前からポッドキャストを始め、月曜日に2本公開するというペースで続けているのですが、もう400回を数え、さらには月間の再生回数が5万回を超えるようなメディアに育っています」。
しかも、Takramにエントリーする求職者の大半が、ポッドキャストを聴き込んだ上で面接にやってくるという。

自社風土が伝わるオウンドメディアにより、採用のヒット率が格段に上昇

田川氏やTakramメンバーの肉声を通じて、人となりや会社の空気感が伝わることにより、今やTakramの採用を支える重要なツールになっている。
「採用に効果があると思ってはじめたわけではなかったけれど、結果的にTakramの風土を伝えるメディアになっています」。

ロフトワークもTakramも、「自社」が伝わる情報の発信により、採用に大きな効果をもたらしていることがわかる。エントリー数が多くともミスマッチな人材が多い場合は、徒労が増えるだけだ。オウンドメディアにより、より出会いたい人にだけ出会えていることはつまり、田川氏の言葉を借りれば「ヒット率が上がった」と言えるだろう。

採用とは単なる人事業務の一部ではない。会社のアイデンティティが表れる、重要なアクション

採用とは単なる人事業務の一部ではない。会社のアイデンティティが表れる、重要なアクション

「話は尽きないですが」と、最後に高橋氏が3人へ求めたのは、「経営者に対するメッセージ」だった。採用とは、単なる人事業務の一部ではなく、経営マターのミッションとして捉える必要があるという想いが込められている。

田川氏は、「自分たちがやってきたことは間違っていたんじゃないかという前提に立ち、採用プロセスを一度すべて棚卸ししてみて欲しい」と言った。その上で、例えばプランAとプランBが考えられるならば、「両方試してみて、何が最適な方法なのかを見極めて欲しい」と続けた。

仮説を立てて実際にやってみると、多くの気づきが返ってくる。そうすればまた、その気づきをもとに仮説をブラッシュアップできる。
「数回繰り返して、ぴったりくるものを探すというのがデザインを考える上でのセオリー。それを採用プロセス全体にも応用してみて欲しい」と付け加えた。

林氏は、「あなたの会社の一番の強みはなんですか?と問いかけたい」と言った。企業は結局、人。「人をどうやって雇うのか、どう自社に合う人材と出会い採用していけるのかを本気で考えるべきです。企業の採用活動が新卒社員を採るための活動とほぼイコールだった時代は、とうに終わっている」と続けた。

梅澤氏は、「デザインは、細かく要素分解して課題解決するような手法とは、逆のもの」と前置きをした上で、「全体性を重視するデザイン経営のアプローチで考えると、採用だけに閉じて課題解決しようとするのではなく、採用後の配置・定着、処遇、キャリアパスなどを採用対象のグループごとに設計し、人材に関わるシステム全体として変革していくことに取り組んでいただきたい」とメッセージを送った。

そして「最後にいいですか?」と田川氏。それは「各社それぞれが、『採用』に代わる言葉を考えませんか?」という提案だった。

採用とは単なる人事業務の一部ではない。会社のアイデンティティが表れる、重要なアクション

採用とは、“採って用いる”と書く。それもすでに、求職者に対しては失礼な表現ではないだろうか。「このイベントのテーマである『オウンドメディアリクルーティング』とは、引力とか磁力のイメージ。発信することで、自分たちと相性のよい人だけを、たくさんの人の中から見つけ出して、引き寄せるようにエントリーしてもらいたいわけじゃないですか」と笑った。「投網と磁石とか。自分たちが腹落ちするものなら、なんだっていいんです」。

田川氏による「採用という言葉に代わる言葉をイメージしてみて欲しい」という大きな問いかけにより、参加者一人ひとりが自社の採用の様々を思い浮かべながら、パネルセッション1は終了した。

https://indeed-omrj.com/post-0050
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この連載の記事一覧
  1. 「デザイン経営」を一から紐解き、採用とのつながりを考える─Owned Media Recruiting SUMMIT vol.3 レポート(1)
  2. デザイン経営が求められる時代に、採用はどうあるべきか。─Owned Media Recruiting SUMMIT vol.3レポート(2)
  3. デザイン経営実践企業の具体的な採用手法とは ─ Owned Media Recruiting SUMMIT vol.3レポート(3)
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