デザイン経営実践企業の具体的な採用手法とは ─ Owned Media Recruiting SUMMIT vol.3レポート(3)

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2019年6月に開催されたOwned Media Recruiting SUMMIT(オウンドメディアリクルーティングサミット)vol.3。基調講演 、パネルセッション1に引き続き、会を締めくくるのは、『デザイン経営企業における採用手法』をテーマにしたパネルセッション2だ。
スピーカーは、フリマアプリ『メルカリ』を運営する株式会社メルカリ 執行役員CHROの木下達夫氏、そして『Soup Stock Tokyo』などのブランドで知られる株式会社スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道氏、モデレーターは、株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括の曽山哲人氏が務め、デザイン経営を実践している代表的な企業2社の、具体的な取り組みが披露された。
「自社が大切にしている価値」ミッションやバリューを言語化する
セッションは、「自社の価値観」についての問いかけからスタートした。
経済産業省・特許庁が発表した『「デザイン経営」宣言』において、「デザインは、企業が⼤切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営み」と定義されている。
企業が大切にしている価値は、ミッションやビジョン・バリューなどに表される。メルカリ・スマイルズの両社は、その浸透を重視してそれぞれの形で企業活動を行っており、デザイン経営の実践企業として学ぶ点は多い。
まず曽山氏は、メルカリ木下氏に「ミッション・バリューを、どう採用につなげているのか」と問いかけた。
木下氏は、「僕自身がメルカリに入った理由もそうですが」と前置きした上で、こう続けた。
「『新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る』。ミッションに『世界的な』とあるように、日本だけに留まらず世界中で愛されるサービスをつくるということに共感した人が入社しています」。
メルカリのこのミッションは、メルカリ創業よりも前に、山田進太郎氏(代表取締役会長兼CEO)が掲げた言葉だ。同氏が世界一周旅行をした際、物質的な貧富の差に関係なく、スマートフォンが世界中で普及する可能性を感じ、『テクノロジーを使ってCtoC(個人間取引)を実現できないか』と考えたことが発端となっている。
さらに、ミッションをもとに様々なプロダクトを推進していく上で大切にすべきこととして、3つのバリューも明文化されている。『Go Bold—大胆にやろう』『All for One—全ては成功のために』『Be a Pro—プロフェッショナルであれ』だ。これらのバリューは、「プロダクトが好きだからこの会社にいるというだけではなく、会社の価値観に共鳴する気持ちも大事にしたい」という、取締役社長兼COOの小泉文明氏の思いから、生まれたのだという。
採用においては、ミッションはもちろんバリューへの共感も重要視していると、木下氏は話す。例えば、『Go Bold—大胆にやろう』については、採用面接時に「あなたがGo Boldだったことは何ですか?」、「自分から仕掛けてリスクをとった経験は?」などといった質問を重ねていくことで、その人にとっての『Go Bold』を紐解いていくのだと言う。
「100人いれば100通りの『Go Bold』があっていい。周囲を巻き込んでいくような、いわゆる派手さがあってもいいし、地道に着実に変化を起こしていくことも『Go Bold』なんです」と木下氏。一人ひとりの『Go Bold』を対話を通じて見つけていく中で、会社にフィットするかどうかを見極めるという木下氏の話に対し、「ミッションやバリューは見極めのフィルターとなり、自社に合わない人は引っかかるわけですね」と曽山氏は感嘆した。
次に曽山氏は、遠山氏に問いかけた。
「スマイルズは、『スープのある1日』というストーリーを描いたことから、会社がはじまっています。大切にしたい思想が根底に流れているように思いますが、どうですか」。
遠山氏は、以下のように答える。
「スマイルズでは、ミッションとかビジョンなどの言葉は使っていないですが、『世の中の体温をあげる』ということは言い続けています。これがおそらくミッションに近いものだと思います」。
さらに、スマイルズらしさを言語化した『5感(低投資高感度・誠実・作品性・主体性・賞賛)』を大事にしているとし、こう続けた。「2003年に作った『5感』を伝える映像は、現在も採用時や研修、会議などで流すことがあります。パワーポイントに音を乗せただけのプリミティブなものですが、当時も今も、変わらずに大事なことです。ミッション・ビジョンというのは、そういう普遍的なものですよね」。
自社の価値観にもとづいて、求める人材を定義する
続いて曽山氏から挙げられた質問は、ミッションをはじめ自社の価値観を大切にしている両社だからこその『求める人材』について。まず遠山氏に『Soup Stock Tokyo』立ち上げ時の採用について問いかけた。
1999年に誕生した『Soup Stock Tokyo』1号店は、遠山氏自らが店長を務めた上、自身で求人広告のコピーも採用もすべてを行った。遠山氏が今もよく覚えているという求人広告は、四角い枠の真ん中に『Soup Stock Tokyo』のロゴを置いたシンプルなもので、メッセージは『誰にも似てない』というワンフレーズのみ。何の店かということも明示していない求人広告は話題を呼び、まさに誰にも似ていない面白いメンバーが揃ったという。
このようにスマイルズは採用のユニークさでも知られる会社だが、採用時に見ている、求める人材のポイントは大きく二つだという。一つは『動力がある人かどうか』。そしてもう一つは『(遠山氏よりも)魅力的な人かどうか』だ。
『動力がある人かどうか』とは、「例えれば、汽車の先頭車両なのか、先頭車両に続く貨車なのかどうかということ」と、遠山氏は話す。先頭車両であれば、自分で石炭をくべて前に進んでいける。しかし、貨車であれば、同じ汽車の一部ではあるが、先頭車両に引っ張ってもらわなければ動くことはできない。
「状況に応じて、自ら動いて進んでいけるかどうかが大切なんです」と、遠山氏は強調した。
また『(遠山氏よりも)魅力的な人かどうか』については、「やっぱり、チャーミングな人と一緒に働きたいじゃないですか」と言い、「例えば、岐阜弁とイタリア語が堪能でも、ありとあらゆる貝殻を集め続けているでも、なんでもいいんです。色んな場所に連れ回したくなる、色んな人に紹介したくなる人であって欲しい」と続けた。
わかりやすい例として『ルパン三世』のストーリーを挙げ、それぞれが個性的な魅力を発揮していることで、リスペクトし合うチームになっていることが理想的だと話した。
面接でのコミュニケーションを通じて、自社の価値観をより具体的に伝える
続いて曽山氏は、「求職者と、どのようなコミュニケーションを取っているのか」と、メルカリ木下氏に問いかけた。木下氏は、採用面接で応募者に二つのことを伝えるという。
一つは、『Trust & Openness / 性善説』であること。メルカリは信頼を前提としたオープンなカルチャーであり、一人ひとりが自分で考え動くことが求められる。これまで管理型の組織におり、指示を待つことに慣れている人にとっては違和感が大きいケースもある。そこで、上司が部下に対して細かく指示をだすような「マイクロマネジメント」は期待しないよう、予め伝えておくのだ。 「互いに自立した大人として、Trust & Opennessでコラボレーションするのが、メルカリ流」と、常に話しているという。
もう一つが『カオスを楽しむ』。「メルカリは『課題解決遊園地』だと話しているんです」と、木下氏は笑う。課題はたくさんあるけれども、それを遊園地のように楽しもう。そうやってカオスを楽しめる人なら、ぜひ仲間になって欲しいというメッセージだ。
「自社のスタンス」を持って、面白い人事施策を仕掛けて欲しい
セッションの最後、遠山氏は「もっと新たな人事制度を考えていこう」と聴講者に呼びかけた。
「『新しいこと』というと新規事業に関心が向きがちですが、変化を作りやすいのは、実は人事制度。働き方改革に注目が集まっている今だからこそ、人事に関する新しい提案をどんどんしていけばいいと思います」。守りのセクションと思われがちな人事こそが、世間のムーブメントを味方につけて、どんどん面白いことを仕掛けて言って欲しいというメッセージだ。
また木下氏は、「人事発案で様々な提案を、というのは非常に面白い」と賛同した上で、「様々な提案を有効なものにするためにも、きちんと軸を持てるか、自社のスタンスを、経営陣としっかり握っておくことです」と話した。
「メルカリ人事の最近の取り組みとして、『Culture Doc』の策定があります。組織・人事に対するすべての考え方を整理し一本の軸を定めたもので、この軸をベースに、様々な施策の見直しや新設を行っていきます。一番やってはいけないのは、『他社がやっているからうちもやりましょう』という考え方。ありたい姿がまずあって、そこからどういう仕組みを設計していくかが重要です」。
「自社が大切にしていることを明確に打ち出し、その軸をもとに企業活動をする」という意思が明確に表れた両社。彼らの話から、『デザイン経営』における採用とは、自分たちの価値観をしっかりと明文化し、それに共鳴してもらえる人材を見極めていくことだと学ぶことができた。
3時間半に渡って繰り広げられたOwned Media Recruiting SUMMIT(オウンドメディアリクルーティングサミット)vol.3は、デザイン経営を体現する2社から様々な気付きを得て、幕を閉じた。