「最大のアセットは人」。グローバル企業へ変貌したマクロミルが“理想の人材”に訴求する採用情報発信

INDEX
マクロミルは、ITを活用したマーケティングリサーチのなかでも、特にネットリサーチ(インターネット調査)で圧倒的な知名度と実績を誇る会社だ。
2015年スコット・アーンスト氏を代表取締役社長 グローバルCEOに招聘。ヘッドクォーターは東京に置きながら、アメリカ、オランダ、韓国をはじめとしたアジア諸国など、全世界に40以上の拠点を持つグローバル企業へ変貌を遂げている。
グローバル・マーケティング・リサーチ・カンパニーとして、全世界の拠点で共通の「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を掲げ、自社ホームページや採用プロセスを通じて、積極的な対外発信を図っている。グローバルカンパニーへ変化していく上で、良い採用を実現するための取り組みについて、執行役副社長でありグローバルCHROの岡慎一郎氏と、人事部人材採用ユニットマネジャーの倉島進氏に話を聞いた。

岡 慎一郎氏(右)。大学卒業後、1991年に東芝入社。一貫して約10年人事部門に所属した後、2002年に米国ユナイテッド・テクノロジーズへ転じ、シンガポールをベースにASEAN地域およびAPAC地域の人事責任者を担う。2008年、IBMへ入社後は、日本IBMのビジネスコンサルティング部門人事担当理事、ニューヨーク本社のタレント・デベロップメント・ディレクターなどを歴任。2013年に日本へ帰国してからは、日本コカ・コーラで人事ディレクターを務め、2015年9月には経営および組織全体のグローバル化を目指すマクロミルにグローバルCHROとして招聘され、現在に至る。
倉島 進氏(左)。大学卒業後、教育業界に従事した後、エンジニアに特化したスカウト型人材紹介会社にて、ミドル層のエンジニアのハンティング業務に携わる。その後、採用コンサルティング部門に異動し、新卒採用・中途採用の採用戦略策定から実行まで、採用コンサルティング業務に従事する。2012年マクロミルに入社後は中途採用、新卒採用・人事企画を中心とした人事業務を担い、2019年1月から採用責任者として人材採用マネジャーに。
人材像が異なる新卒、中途、グローバルの採用では「バリュー」を共通語に
――グローバルという観点における、マクロミルの採用の実情から話を聞かせてください。
岡 前提として、マクロミルは製品を作って売っているわけでもなく、いわゆるサービス業とも違い、人の知見を提供している会社です。つまり、我々のアセットはデータと人です。そのため、人材の採用や育成が会社の命運を握っていると言っても過言ではないのです。これは全世界共通の見解です。
その上で、国内と海外で異なる2つの人材獲得戦略を走らせている実情があります。たとえば国内でいうと、新卒採用・中途採用をそれぞれ異なる観点を持って積極的に行なっています。新卒採用では、企業文化の継承を重視していますが、中途採用では、急激な市場変化に応えていくため、新しい知見を持ってテクノロジーを駆使するなど様々な経験を積んでいる専門知識を持った人材を増やすことで、組織を活性化したり既存社員へポジティブな影響をもたらしたりすることがプライオリティーとなります。
一方、日本以外の国における採用活動では、インターンはありますが新卒採用という概念はほぼありません。日本の中途採用と近いかもしれませんが、一人ひとりの業界知識やこれまでの経験、お客様とのリレーションシップをどのように構築してきたか、などを重視した採用活動を行なっています。
――先ほど岡さんから、新卒採用には企業文化継承を期待しているというお話がありましたが、中途採用や海外拠点・グループ会社の社員には、ミッション・ビジョン・バリューへの共感は求めますか。特に、海外の社員とは多少のギャップも生じそうなものですが。
岡 マクロミルグループは生い立ち、国籍が異なる会社で構成されていますが、スタートアップから始まり、スピード感をもって大きな成長を遂げてきたことは、大きな共通点だと思います。また、ビジョンやバリューは、ほぼ全世界にまたがる拠点から様々な職位、在籍年数のメンバーを日本に集め、そこでしっかりと議論してもらったうえでまとめたものですので、国内外問わず、グループ全体での理解浸透を図っています。
マクロミルのバリュー
- Think New, Think Deep
- Act Now, Act Together
- Be true, Be Open
- Own It, Enjoy It
バリューに関してお話すると、たとえば海外のメンバーたちは、仕事をする上で「Agility」という言葉をよく使います。俊敏にいろんなことに対応する姿勢を持つという意味で、上記の「Act Now, Act Together」にも含有されています。他社との競争に勝っていくためには、クライアントの要望に素早く最後までしっかり対応することが必須ですから、国内にもしっかり根付いています。また、社内外に対して良いことも悪いことも正直にはっきり表明する「Be True, Be Open」のカルチャーも国内・海外で共通していて、ある程度浸透していると言えるでしょう。
なお、これらのバリューは、面接で重視しているものの一つであり、1次面接の時点から、「このバリューを体現しているような経験があるね」といったように一つの指標にしています。
全社を巻き込んだ採用情報発信によって、知名度不足をカバーする
――マクロミルはBtoBのビジネスを展開されているので、BtoCの企業と比較すると求職者から認知してもらったり、理解してもらったりするのが難しいと思います。その難しさを解消するために、何か取り組んでいることはありますか。
倉島 おっしゃる通りです。残念ですが、求職者や大学生が転職や就職を考えた時に、すぐマクロミルが思い浮かぶことはほぼないと思っています。
たとえば、知人が勤めているとか、エージェントから紹介を受けたとか、何かしら最初の接点があった上で、初めて目にしていただく社名なのかなと思っています。そのタイミングで「マクロミルってどういう会社なのか?」という興味を持っていただけるはずなので、会社のカルチャーや人についてしっかり理解してもらえたらと考えています。また、事業内容が理解しづらいという声もあるので、しっかり伝えていきたいです。そういった思いで、採用サイトを充実させています。
岡 学生さんの場合も、説明会に来てくれたり、採用サイトを見てくれたりすれば、マクロミルへの志望度はグッと上がるので、やはり接点を持つまでが課題です。
――採用サイトを充実させるに当たり、特にポイントとされていることはありますか。
倉島 パフォーマンスを出している社員のインタビューなど、彼らを前面に出すことをベースにしていますが、その中で価値観の多様さを表現しているつもりです。というのは、パフォーマンスの出し方も様々で、人との協力があってこその成功もあれば、効率重視、その反対に、時間をかけて、というケースだってあります。いろんな仕事の仕方があっていいし、多様な人たちが活躍している状況を伝えられたらと思っています。
岡 マクロミルはがむしゃらに働いているイメージがあるようで、「体育会系で徹夜してなんぼ!」のような風土に見られることもいまだにあります。過去はそういうこともありましたが、今は全然違います。価値観は様々で、働き方も様々だよねということを伝えたいですね。私自身、いろいろなメンバーがいていいと思っています。経営陣をはじめ、マネジャーたちには「自分と同じタイプの人材を採用したり、重用したり、自分の後釜にするな」とよく伝えています。「考え方・行動様式も違うし、突拍子もない発言をすることもあるけど、何か光る部分がある」というメンバーもいていいと思います。
――採用サイトには、エンジニア職とデータアナリスト職の特設採用サイトが設けられています。なぜ特化されたのでしょうか。また特化されたことで、どんな効果が現れていますか。
倉島 エンジニアとデータアナリストは、みなさんご存知の通り、最も採用が難しい職種の一つです。だからこそ、エンジニアやデータアナリストの方が求める情報をより詳細に伝える必要があると考え、特設サイトを作成しました。たとえば、マクロミルは中途採用市場においては営業やリサーチの会社という印象が強く、エンジニアとして働くイメージを想起してもらいづらい、という現状があります。
実際は、エンジニアとして自身のキャリアアップにつながるような最新技術を使うこともあれば、スケールの大きいプロジェクトにも携わることもあるなど、エンジニアにとってチャレンジングな環境は確実にあります。ただ、それが知られていないので情報発信しなければと考えたことが、特設採用サイトを作ったきっかけです。
結果として、「新しい技術に取り組んでいるから」といった理由で入社するエンジニアがここ1〜2年で増えてきました。我々の情報発信だけが寄与しているわけではありませんが、応募や入社のきっかけになっているケースも徐々に見えてきています。
――採用ページのなかの求人票が詳細に描かれていることも、特徴の一つだと感じました。
倉島 ありがとうございます。実はけっこうこだわっています(笑)。求人票はただの情報シートではなく、マクロミルから求職者へのメッセージそのものだと考えています。募集する職種ごとに各現場に作成してもらっていますが、求職者にとって、実際に働くイメージがわく業務内容になっているか、求める要件は何か、必須要件と歓迎要件が明確に分けられているかなど、かなり細かく書くことを求めています。現場から求人票を受け取った後に、そのポジションの何が訴求ポイントか、どんな独自性があるのかといったことを担当者と話します。
現場は当然ながら理想を伝えてきてくれます(笑)。ただ、そういう人材はマーケットにはごく少数しかいない貴重な存在で引く手数多のはずなので、効果的な情報発信の方法を考える必要があります。その点でも、求人内容の記載を通じて職場・会社・仕事の魅力を深掘っていくことは、非常に意味のある取り組みだと思います。面接の場で伝えるべき魅力要因の整理にもつながります。
岡 マクロミルで最も重要な資産は「人」です。だからこそ、採用に関しては現場のリーダーたちにオーナーシップを求めます。「あなたの責任で相手を魅了してくれ」と伝えます。人事は当然全力でサポートしますが、現場が説得して一緒に働きたいと思ってもらわなければ採用はできないですから。
新卒採用も中途採用も、現場のマネジャーを総動員した採用活動をしていますし、ピーク時には役員も何時間も面接に費やす会社です。採用はまさに全社イベントですね。
「単独で」ではなく「協働する」ことで、新しい採用施策を模索していきたい
――最後に、今後人事として取り組んでいきたいことを聞かせてください。
岡 最終消費者を含め、お客様の要望が多種・多様化するなかで、これまでと同じことをしていたら持続的な事業の成長は絶対に実現できません。そのため、外部からの人材採用だけでなく、コンソーシアム構想も考えています。
簡単に言うと、コンソーシアム構想とは、独自の強みを持つ複数の会社または団体とパートナーシップを組み、人材や知識・経験をそれらのパートナーから、必要に応じてその都度調達してくるもの。時代が激変し、スピード感を持った対応を求められるなかでは、弊社単独ではなく、パートナーシップによってどう対応していくかも非常に重要になってくると考えています。
倉島 採用という点にフォーカスすると、採用ブランディングは強化しなくてはいけない重要な取り組みです。その一つの方法として、採用ページのほかに新たなオウンドメディアを作るのも主流ですが、極端な表現をすれば、何かメディアを作れば一気に認知向上を上げられる、という図式は成り立ちにくい状況だと思っています。
採用ブランディングを考えたとき、マクロミル1社だけで仕掛けないといけないわけでもありません。自社採用を自社メディアで発信してイベントを企画してという、自社完結するスタイルを超えて、たとえば他社さんや専門家とコラボレーションして、いろいろアプローチができれば面白いのではないかとも思います。弊社内においても、人事だけで完結せず広報をはじめとした他部署とも協力しながら、マクロミルを知っていただく様々な仕掛けを考えて、結果として採用につながってくれればと考えています。
新卒も通年採用とする企業が増えていますし、学生さんも100社エントリーしたなかから自分に合う会社を探すのではなく、最初からここだと決めてエントリーしてくるなど、採用マーケットも変化し続けています。そのなかで、マクロミルとしてどう存在感を出していくのかを考えてアクションし続けたいですね。