社員が自社の“らしさ”を発信、GMOペパボがオウンドメディア活用で目指す採用スタイル

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サーバーやドメイン、プロバイダなどのインフラからネット広告、ネット金融、仮想通貨など多様なインターネット関連事業を展開するGMOインターネットグループ。そのグループ企業として、ホスティングやEC支援事業、ハンドメイドマーケットをはじめとするクリエイターによる作品の発表・販売といったクリエイターの活動支援をメインに事業を手がけているのがGMOペパボだ。
同グループは様々な企業が集まって形成されているが、それぞれの企業が個性を持つことから、新卒者採用・中途採用ともに各社で対応というスタンスを取っており、自社の取り組みに関する情報発信は欠かせない。GMOペパボのHR統括部が約1年半前から力をいれて取り組んでいるのが、オウンドメディアの活用だ。
求職者から「どういう仕事があり、どんな人が働いているのかわからない」という声があったが、積極的なメディア活用により、詳しい業務内容やパートナー(社員)の想いに加え、企業カルチャーなどにも事前に触れてもらうことが可能になったという。そんな取り組みを続けているGMOペパポ 常務取締役CFO HR統括部部長 五十島啓人氏に、人材採用における情報発信の意義と今後の展望について聞いた。

1999年東京都立大学経済学部卒業。求人採用広告営業を経て、2004年現有限責任監査法人トーマツに入所し、主に会計監査やIPO支援業務に従事。2008年公認会計士登録。
2014年GMOペパボ取締役就任、2017年常務取締役CFO就任(現職)。HR統括部長としてHR方針策定から戦略立案に携わる。2019年GMOクリエイターズネットワーク取締役就任。
クリエイター支援という旗印を掲げ、同じ想いを共有する仲間と協働する
——GMOインターネットグループといえば、インフラを含めインターネットに関連する幅広い事業を手がけている一大グループです。GMOペパボはそのグループ企業の1社となりますが、採用活動はどのように進めているのでしょうか。それぞれの企業が独自に採用を展開しているのか、それともグループ全体で共通の採用方針があるのでしょうか?
一般にグループ企業といっても様々な成り立ちがあります。GMOインターネットグループは、その多くが外から入ってきた別会社で、これらが集まってグループを形成していることから、私達はそれを“梁山泊(*注1)経営”と呼んでいます。そのため各社のカラーやスタンスを重視する風潮があり、採用においても基本的に各社で進めていくスタンスを取っています。
ただし採用イベントや説明会などはグループのシナジーを活かして合同で参加する場合もあります。
*注1:梁山泊(りょうざんぱく)
中国の山東省済寧市梁山県に存在した沼沢。中国の伝記小説『水滸伝』(すいこでん)はこの沼を舞台に書かれた英雄豪傑譚で、個性豊かな英雄たちが梁山泊に集い、奸臣と戦うという物語の内容から、「優れた人物たちが集まる場所」、「有志の集合場所」の例として使われる
——採用は独自に動いているとのことですが、現在ではかつての社会にあったような「1社で勤め上げること」の価値が薄れつつあります。現在、GMOペパボとしてどのような人材を採用したいと考えているのでしょうか?
今の社会は、以前に比べて選択肢が増えていると感じます。正に「1社で勤め上げる」のではなく、「何社も渡り歩く」という価値観が生まれているようにです。
この前提に立って、GMOペパボとして「なぜ会社で働くのか」というそもそもの出発点を見直してみると、「1人では、できることに限界がある」、「同じ目線で、同じ気持ちを共有できる仲間と一緒に取り組むこと」の2つがポイントではないかと思い至りました。
では「気持ちを共有できる仲間」とはどういう人か。私たちGMOペパボは、社員を「パートナー」と呼び、様々なサービスを展開しています。これらのサービスは「クリエイターを支援する」という旗印のもと、同じ想いを共有するパートナーと一緒に作ってきたものです。私たちは、新卒、中途に関わらず、そういう想いを持つ方々と一緒に働きたいと考えています。
そのためか、長く働いている人や活躍している人を見ていると、やはりクリエイターに共感できる人、自分自身も何かしらの形でアウトプットをしている人が多いです。公私共に新しいことにチャレンジしたり、趣味を持って発表したりしている人ですね。エンジニア、ディレクター、デザイナーなどいろいろなパートナーがいて、取り組んでいることも音楽や写真など様々です。ほとんどのパートナーが「自分自身で新しいものを創っていて、ほかの人も応援したい」という想いでつながっています。
——社内で活躍する人は、共通して「自身もクリエイター的な活動をしていて、クリエイターを応援したいという思いがある」という話がありました。採用において、その点を重視しているのでしょうか。
中途採用では即戦力を求めますので、業務の技能レベルをメインにお伺いしています。とはいえその人のパーソナリティーも知りたいので、面接では結果としてそういう話になることはありますね。特にルールとして明示されているわけではありません。
当社では、パートナー全員が「わたしたちが大切にしている3つのこと」をもとに行動しています。
(1)みんなと仲良くすること
(2)ファンを作ること
(3)アウトプットすること
オウンドメディアでの情報発信で、将来の仲間の「顔」を見せていく
——GMOペパボはオウンドメディア「ペパボHRブログ」を運営し、人材採用や社内体制について様々な情報発信を行なっています。このオウンドメディアの概要や目的、そして採用活動にどのように貢献しているのかお聞かせください。
ペパボHRブログは、『会社と仲間の「いま」をお届けします。』というコンセプトで、人事や採用に関する様々な情報を発信しています。GMOペパボの場合、サービスの種類、エンジニアの雰囲気などの情報は比較的容易に見つけられると思うのですが、採用において重視している点や、エンジニア以外のパートナーの顔が見えづらいという課題がありました。それを解決するべく開設したのが、ペパボHRブログです。エンジニアやサービスだけではなく、いろいろな切り口で当社の魅力を見せていきたいという想いで始めました。
記事のテーマも絞っています。たとえば「仕事」「現在稼働中のプロジェクト」「福利厚生」「会社のイベント」などの分類でバランスよく記事を掲載しています。
ここ半年は「ペパボHRブログの認知を上げる」ことを念頭に置いて運営しており、成果は出てきたと感じています。実際に入社者へのアンケートで、約3割の方に「ブログを見ました」と回答いただきました。また副次的な効果として、ブログの記事をきっかけに取材の申し込みをいただくなど、結果として会社の認知が広まったケースもあります。
——ブログ開設の時期と、現在の運用体制を教えてください。
現在のブログは開設から2年ほど経過したところです。その後あるパートナーが「メディアを運営し、編集長をやりたい」と手を挙げたところから更新を強化しました。当初は費用対効果について懐疑的な意見もありましたが、まずはスモールスタートで成功体験を重ねながら、徐々に大きくしていくことにしました。
最初は「ブログをスタートしました」という形で、記事の更新も「時間のある時に」という感じでしたが、1年経った頃から「認知向上」を目的に、「週1回の更新」へと体制を強化しました。写真撮影も社内公募して協力者を得ることができましたし、今後さらに拡大していきたいと考えています。
記事公開については、基本的にはイベントや新サービスリリースのタイミングに合わせて、こちらからそれぞれの担当者に声をかけて執筆してもらうというケースが多いです。中には自分から「ブログに出たい」といって手を挙げるパートナーもいます。
また、「ミスマッチが原因で離職する」という視点で考えると、ペパボHRブログを始めてから、その割合が減少した肌感はあります。まだ明確な因果関係があるとは言えませんが、理由の一つとして、「社内にいながら知らなかったことを知ったり、新たな発見をするきっかけとしてブログが機能している」ということがあるかもしれません。
また、HRブログがあることで「なるほど、このイベントは確かにこんな感じだったな」と、新たな視点での発見につながることがあります。あるパートナーにとっては普段の日常も、別のパートナーから見た視点で知ってもらう効果もあると思います。
感度と密度をより高めた情報の交換がエンジニア採用の鍵
——オウンドメディアという観点でいえば、社内エンジニアが運営している「ペパボテックブログ」もありますね。このメディアはエンジニア採用にどのように貢献しているのですか。また、エンジニア採用についてはどのような体制なのか教えてください。
エンジニア採用については、エージェント経由やリファラル採用もあります。また当社の強みとして、プログラミング言語RubyのコミッターがVPoEを務めていたり、エンジニアが積極的にイベントやカンファレンスに登壇していることで多くのエンジニアに注目していただき、イベント経由で採用に結びつくこともあります。
ペパボテックブログは採用や人事とは関係なく、エンジニアチーム主体で運営されているメディアです。技術の進歩は速く、世の中のサービスが様々な技術の上に成り立っています。日常的にそうした領域にふれているエンジニアの方は概して情報感度が高いと思っています。それは当社のエンジニアも同じなので、当社のエンジニアが出す情報を外部のエンジニアがキャッチする可能性も高いのではと考えています。そういう意味で、アウトプットする大切さを実感していますね。
——エンジニア採用に関しては、メディア以外にも、求職者が社内の人とランチしながら情報交換できる「ペパランチョン」というリアルのコンテンツがありますね。これはどういう役割があるのでしょうか。
ペパランチョンは、ランチをしながら当社のパートナーとざっくばらんにお話しする場として設けているのですが、エンジニア採用での出番が圧倒的に多いですね。エンジニアはやはり、自分のことを知ってほしいし、自分の目線で知りたい情報があると思うので、Webやイベントのような一方通行ではなく、双方向のやり取りが必要なのかもしれません。また、求職者がエンジニアの場合、パートナーを指名して「この人と話したい」というリクエストをいただくことも多いです。
採用において、リアルな場で交流することの有用性はあると考えています。求職者がいきなり志望企業を訪ねるのは、かなりハードルが高い行為ですが、そこを越えて来ていただける方は採用に結びつきやすいです。
ジョブディスクリプションの充実で、応募が増えてギャップは減った
——採用サイトには、募集している職種に関してかなり細かい説明がなされています。このジョブディスクリプションは、採用において大きな役割があるのでしょうか。
ジョブディスクリプションを分かりやすくすることで、その職に興味を持っている人にダイレクトに刺さる効果を実感しています。新卒者採用において、過去に「総合職」という漠然とした職種名で募集をかけていて、実際にどういう仕事をするのかイメージが掴みにくく、応募が少なかった時期がありました。こちらが求めているものを明確にしたほうが、ピンポイントになったとしても適した人の応募が増えるのではないかと思います。
ただ、新卒のエンジニアは中途に比べてそれほど詳細には定めてはいません。中途の場合は即戦力重視なので、ジョブディスクリプションは新卒者向けのものよりも詳しくなります。
——職種やその内容を詳らかにすることは、入社後のミスマッチや、企業イメージのギャップ解消にどの程度役立っているのでしょうか。
単に会社に興味があるだけで、具体的に何をするかイメージしにくい方にとって、職種をきちんと分けて明記することは非常に役立っているでしょう。また入社後のミスマッチに関しては、パートナーの配属にも気を配るようにしています。新卒者の場合、当社に対して一定のイメージを持っていると思うので、“当社らしい”サービスを手掛ける部署に配属すると活躍するケースが多いですね。
働く環境や企業価値の向上が、さらなる情報発信につながる
——現在、採用チャネルにはどのようなものがあるのですか。
紹介会社経由の採用もありますし、リファラル採用、それに先ほど説明したような、イベントやWebを通じた採用があります。紹介会社からの採用は全体の半分以下で、その割合は近年変化がありません。また、採用告知を行うとチームのメンバーが自分のSNSを通じて拡散し、それで広がるケースがあります。
また、制度を作る側からすると、「今はこういうチャネルで採用活動をしている」とパートナーに知っていてもらうことは必要なので、たとえばSlackで「リファラル採用をやっています」と告知したり、取材いただいた記事を拡散したりしています。ブログで社内認知を広げつつ、実際の採用活動につなげている形です。
——今後の採用方針を教えてください。
10年前は「何でもやる」ゼネラリスト系の採用が多かったのですが、今は展開するサービスの数を絞り、スペシャリストとして活躍するパートナーが増えています。そのため全体的にスペシャリスト採用に寄っています。必要な人材の特性は、企業フェーズの移り変わりに応じて変化すると思います。なので、各フェーズに応じた人材に刺さるように、情報発信の内容も変化していくでしょう。
いずれにせよ、採用やIRの基本は「社内のバリューを向上する」「それを正しく伝える」ことに尽きると思います。それを踏まえて人事全般の話をすると、「GMOペパボに入社すると成長できる」という環境を用意し、それを確実に外部に伝えていくことが必要だと考えています。
これから人材が減少するなか、女性がさらに活躍していくということが予測されます。そうすると、ライフスタイルに合わせてリモートワークを認めるなど、環境整備が必要になってきます。それ以外でも、モチベーション向上の仕組みなど、人事環境全体をより良くしていく取り組みも考えないといけません。
そういう変化をパートナー自身が理解して、自分の会社や仕事をもっと好きになってもらいたいと思っています。彼らが「会社のこういう良さを伝えていこうよ」と能動的に動いていくようになることが理想です。