急速に拡大するアマゾンジャパン 「一人ひとりがリーダー」という信条を実現する採用とは

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経営資源として「人材」の価値が高まる昨今、自社の文化にフィットし、長く活躍できる人材をいかにして採用するかは、組織を作り維持する上で重要な鍵となっている。その方法のひとつとして、オウンドメディアを活用した自社の主体的な情報発信は欠かせない。
急速な事業拡大を続け、積極採用を行うアマゾンジャパンにおいて、自社の情報発信は採用にどのような役割を果たしているのだろうか。アマゾンジャパン合同会社 人事統括本部 人事部 部長 篠塚寛訓氏に、アマゾンジャパンにおける採用の取り組みと、オウンドメディアにおける情報発信、特に「ジョブディスクリプション」について話を聞いた。
中途採用を中心に、年間1,000人単位というハイスピード採用
――まず、Amazonにおける採用の概況について教えてください。グローバル全社において、2020年末までに100万人規模まで拡大する予定だそうですが、その採用計画の中で日本も積極採用を図っているのでしょうか。
現在、日本のAmazonには正社員が6,000人以上在籍しており、2018年9月には、今後年間1,000人を目安に積極的に採用していくことを発表しました。グローバルの採用計画の一部に寄与するという形で、日本もかなり速いペースで企業規模を拡大しています。
採用は中途の即戦力採用が中心で、新卒採用は具体的な数字は公表していないものの、割合としてはほんの一部です。それでも新卒採用をするのには2つの理由があり、1つは将来のコア人材を育てたいためです。いろいろな部署にローテーションすることで、Amazonにとってのオールラウンドプレイヤーを育てたいと考えています。2つ目の理由は、日本に根を張っていく企業として、新卒を育てることは社会貢献であると考えているためです。
――採用サイトは、グローバル採用サイト、コーポレート部門、オペレーション&カスタマーサービス部門など複数に分かれていますね。何か理由はありますか?
本来であればすべてグローバルの採用サイトに集約されていることが理想です。しかし、日本と他国では求職者に発信したいメッセージが異なりますので、グローバルの許可を得て日本独自の採用サイトを立ち上げているという状況です。
また、同じ日本国内においても、採用したいターゲット層によってどのようなメッセージが琴線に触れるかは異なりますので、それも複数の採用サイトを持っている理由です。
「リーダーシッププリンシプル」に沿って面接を行う
――どのような素質を持った人材を採用したいと考えていますか。
Amazonには14の項目からなる「リーダーシッププリンシプル」という信条があります。これはグローバル共通のもので、採用選考においてはこの信条に沿って仕事をしていただける方かどうかを大前提として判断しています。入社後もこの軸に沿って評価をしていきます。
14の項目に強弱はないとしてはいますが、やはり「Customer Obsession (お客様にこだわる)」という「お客様目線できちんと仕事ができるか」を問う項目を特に重視しています。また、仕事に対して「責任は上の者がとる」と考えるのではなく、自分自身で考えてコミットし、オーナーシップを持つことが求められます。
14の項目をどの部門でも共通の採用基準とし、ハードスキル以外の要素を見極めています。
――面接において求める人材であるかを見極めるために、実践していることはありますか。
ポジションによって異なりますが、Amazonの基本的な面接プロセスでは、一次面接通過後はすぐに最終面接となることが多いです。「ループインタビュー」といって複数の面接官が選出され、1対1の最終面接を3~4回程度行います。面接官はリーダーシッププリンシプルに沿って面接し、Amazonが求めているレベルに達しているかどうかを見極めます。
さらに、その部門以外の社員が第三者の目線で面接をする「バー レイザー(Bar Raiser) 」というしくみがあり、ループインタビュー終了後、バーレイザー主導で面接官全員と合否会議を行います。そこで、きちんとリーダーシッププリンシプルに沿った人材が採用されているかどうかを話し合います。
ジョブディスクリプションは出会いのきっかけ
――オウンドの採用サイトでは、ジョブディスクリプションをかなり細かく記載されていますね。ジョブディスクリプションは、誰がどのように作成しているのでしょうか。
ジョブディスクリプションは、基本的にそのポジションのハイアリングマネージャーが作成します。書き方に関しては、統一のジョブディスクリプションを使っている部門もあれば、ハイアリングマネージャーごとに自由に作成している部門もあり、その他、人事が提案をしている部門もあります。職種などによって何が重視されるかが異なるため、統一されたルールはありません。ただ、書かれたジョブディスクリプションは人事も確認します。特に新しいポジションに関しては、広報も確認し、事実と異なる点がないかを厳しく見ています。
――「問いかけ」からはじまるジョブディスクリプションが多いのが印象的です。
特にルールとして決まっている訳ではありませんが、「自分で考える」というAmazonの文化が表れているのだと思います。一方通行ではなく、応募する仕事について応募者自身にしっかりと考えてもらい、双方がマッチする採用をしていきたいという思いが、問いかけという形で文章に表れているのだと思います。
――ジョブディスクリプションを明確に記載することの重要性をどのように考えていらっしゃいますか。
ミスマッチによる入社後のトラブル回避につながるという意味で、とても重要だと思っています。また、ひとつひとつの求人にジョブコードが紐付けられており、入社後の人材開発、給与、評価軸などの人事管理を適切に進めていくためにも大変重要なため、明確に記載する必要があると思っています。
――ジョブディスクリプションに対する応募者の理解、熟読度などはいかがでしょうか。
ジョブディスクリプションを見て応募してくださる方はかなり増えてきています。ただ私達は、ジョブディスクリプションはあくまで最初のきっかけづくりでしかないと考えています。それ以降のプロセスで、人事、ハイアリングマネージャー、面接官が正しい情報を提供していくことによって、応募者の方々が入社するべきか否かの正しい判断ができるようになると思っています。
具体的な情報を発信することで、仕事に対するイメージを明確に持ってもらいたい
――ジョブディスクリプションの基となる人材要件定義は、どのように行っているのでしょうか。
職種とジョブレベルによって、どんな仕事をするかを明確に定めています。たとえば同じリクルーターという職種でも、求職者側に立つリクルーターと、ビジネスのマネジメント側に立つリクルーターでは、求められるスキルセットが異なるため、議論して細かな調整をしています。
また、ジョブディスクリプションは、そのスキルセットを持つ方にAmazonが魅力的に見えるか、伝えたいメッセージが誤解なく伝わるかどうかを重視しています。
たとえば、Amazonは部門によってはいわゆるワークライフバランスの線引きが難しいところがあります。グローバル企業のため上司が海外にいて、夜や早朝にメールが届くこともあるため、この事実だけを伝えると「大変そうだな」と思われるかもしれません。
しかし、私達が重視しているのは効率です。すぐに返信する必要があれば返信しますが、そうでなければ「日中出社してから返信しよう」と判断すれば良い話で、それは個人の判断に任されています。つまりワークライフバランスの線は引きにくいものの、ワークフレキシビリティはあるのです。
私自身、週に1回は自宅で働きますし、子どもの学校行事などは積極的に参加しています。そういう働き方の良さが伝わるような情報発信を心がけています。
――現在採用に感じている課題、今後チャレンジしていきたいことはありますか。
まず大きなチャレンジは、常に採用のバーを上げていく必要があるということです。この背景には、「今いる社員よりも優秀な人材を採用する」というAmazonの基本的な考え方があります。これだけのスピードで常に優秀な方を求めて採用を続けていくと、将来的に採用できる人材がいなくなるのではないかという不安はありますが・・・。
課題は、採用サイトが複数ある点です。求職者の方からするとAmazonは1つの会社なので、それらをどのように統合していくかを考えています。
創業当初、Amazonは創業者兼CEOのジェフ・ベゾスがガレージで自ら梱包していたインターネットの本屋で、その当時の起業家精神を大切にしています。一人ひとりがリーダーシップを持ち、毎日が「Day One」つまり「初日」だということを忘れないようにしたいという思いを強く持っています。しかし、会社が大きくなると「大きい会社だから安心」と考えて応募する方が増える懸念もあります。
ジョブディスクリプションやオウンドメディアによる情報発信は、そうした応募者のスクリーニング機能も果たしていると思います。ただ漠然と「Amazonに入りたいから」ではなく、ぜひ「Amazonでこの仕事をしたいから」という思いを持って応募いただきたいと強く願っておりますので、今後も求職者の皆様に仕事に対するより具体的なイメージ、関心を持っていただけるよう、適切な情報発信をしていきたいと思います。
――ありがとうございました。