採用サイトリニューアルでコンテンツを絞った、アダストリアのオウンドメディアリクルーティング戦略

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「グローバルワーク」や「ニコアンド」といったファッションブランドを中心に、ライフスタイルの提案をしている株式会社アダストリア(以下、アダストリア)。新卒、中途、アルバイトからの登用という3つの形態で、毎年約400〜500人の社員を採用している。その際、アダストリアの魅力を伝えるのに大きな役割を果たしているのが、採用サイトやSNSといったオウンドメディアによる情報発信だ。2019年11月に採用サイトがリニューアルされるタイミングで、同社人事部の富永泰輔氏、西山かれん氏、金村侑希氏に、アダストリアの採用戦略について語ってもらった。

西山 かれん氏(中)関西大学商学部商学科を卒業後、株式会社アダストリアの前身である株式会社ポイントに新卒で入社。関西のグローバルワーク大型店に配属され、店長に昇進後、リニューアルオープンを経験。その後、新卒採用担当として人事部へ異動になり、店舗での経験を活かしつつ、採用から入社までのサポートと教育を担当している。
金村 侑希氏(左)東海大学文学部広報メディア学科を卒業後、生活雑貨をメインとするSPA企業へ新卒で入社。神奈川県、大分県にて販売スタッフを経験し、後に株式会社ポイントと統合する株式会社トリニティアーツへ入社。人事部にてアルバイト採用などを経験し、現在は店舗の中途採用をメインに担当。
採用サイトリニューアルでコンテンツを取捨選択し、アダストリアらしさを強調
――この度、採用サイトをリニューアルされましたが、どのような点に注力されたのでしょうか。
西山 今までは網羅的に情報を掲載して間口を広げて情報発信していたところを、「Play fashion!」というスローガンに表れているアダストリアの企業理念に、マッチした人材へ響くようなサイトに変えています。そのため、コンテンツの中身を整理して減らしました。代わりに、新しく採用のためのコピーを考え、それを表現したキービジュアルを制作し、よりインパクトを強め、サイトを訪れた方がワクワクするような見せ方にしています。アダストリアは人をとても大切にしており、魅力的な社員が多いと思っているので、その魅力が伝わるよう、ビジュアルの撮影も社員をメインにしています。
――代表取締役会長兼社長である福田三千男氏は、過去のインタビューで、人材は多様なことが重要だけれども、企業理念を共有していることも大切だと語っています。採用に関する情報発信において、企業理念の役割をどのように考えていますか。
金村 「Play fashion!」というスローガンから話をすると、弊社はファッションを洋服だけでなくライフスタイルと捉えて、お客様に商品やサービスを提案しています。お客様にワクワクする気持ちを届けていくうえで、まずは社員が弊社のミッションである「ファッションと人生を楽しみ、個性にあふれた世界をつくる。」ことを大切にしています。
また、西山が申し上げたとおり11月の採用サイトリニューアルに合わせて、採用のためのキャッチコピーを作っています。それが「世界が変わるのを、私は待っていられない。」です。自分から変えていくんだ、という気持ちを強く持った人材を求めていることが、見ている人に伝わればという願いを込めました。
――アダストリアのビジネスもどんどん変わっていくなかで、まさに今の時代に合ったキャッチコピーですね。
富永 お客様に楽しんでもらう環境を作ったり、ワクワクするものを提供したりするためには、自分たちから動かないといけません。「Play fashion!」というスローガンだと、その思いを届けられていないのではという思いがあったので、採用のためにキャッチコピーを考えました。
ちょっと大きな話になりますが、服は当たり前に毎日着ますが、アパレルを働く業界として選ぶかというと、そうとは限らないと思います。ただ、アダストリアは、服だけでなくファッションを切り口にライフスタイルをビジネスにしているので、服を売るだけでなく、その先のワクワクまでを提供しているかを見てもらいたいという思いがあります。
そのため、採用の競合も、同業他社だけではなく、同業他社以外の会社も意識しています。アダストリアは若い人の間でブランド認知度が高いので、アパレルを志望する求職者にはある程度選んでいただけていると考えています。ただ、同業他社以外に勝っていくためにも、「何を」「どのように」伝えるかを見直す必要があり、採用サイトのリニューアルに至りました。
金村 「Play fashion!」やワクワクといったキーワードは、社員に染み付いていると思います。実際、私生活の趣味と仕事がつながっていて、ボーダレスに働いている社員が多いですね。
――人材の流動性が高く、採用してもやめてしまう人が増えているなか、企業理念やカルチャーが合うことは重要だと思います。その点について、面接ではどのように判断しているのでしょうか。
金村 インターネットを使った情報発信は必須だと思っていますが、最後の決め手はリアルだと考えています。面接において求職者と社員がコミュニケーションするなかで、求職者が、社員一人ひとりの体現しているカルチャーとマッチするかを確認しています。それは、社員一人ひとりに企業理念やカルチャーが染み付いているからこそできることです。そのため面接も、社員の誰に任せても大丈夫だと考えています。
西山 弊社ではミッションを実現するために定めた「ADASTRIA STANDARD」というものがあり、企業文化を「答えを探し続ける、という答え。」と定めています。それは、採用のキャッチコピーである「世界が変わるのを、私は待っていられない。」とも通じる部分があると思います。弊社はこれまで約65年にわたり、お客様の“今”の答えを探し変化を続けてきたからこそ、ここまで大きくなれたと考えています。それが文化として染み付いているので、そこに共感してくれたり、自分もそうなりたいと思ってもらえたりするかを面接でも判断しています。
それは、アダストリアで働きたいと思ってもらうために行っている、採用サイトにおける情報発信でも同じです。内定者も、その点が自分と合っていたと言ってくれたり、入社後にそんなことを自分もしたいとイメージを持ってくれたりする場合が、多いと思います。
企業理念に共感してくれる人へ届けるための情報発信を、現場で考えて実践する
――オウンドメディアを通じた採用広報を始められたのは、いつ頃からでしょうか。
金村 実は、初めは、採用広報という意識を持って取り組んでいませんでした。企業理念に共感してくれる人を採用するためには、どう情報発信していったらいいのか、どんな採用サイトにすれば自分たちの思いが伝わるだろうか、ということを考えた結果として今の形になったのだと思います。それが時代にマッチしてきて、今は採用広報という言葉に自然に置き換えられるようになり、採用広報を意識するようになりました。
たとえばInstagramも、採用広報として使い始めたのではなく、求職活動をしている今の若い子たちは何に興味を持っているのだろうと考えているうちに、自然な流れで出てきました。内定者にも採用サイトを見てもらい、就職活動するに当たりどういうことを考え、どこを見て、どういう手順でやっているのかをヒアリングしながらコンテンツを作り込んでいます。
富永 僕らのなかでは、求職者に会えればアダストリアの魅力を理解してもらえるのではないか、と考えています。ですので、会社説明会や面接に来てもらうために、様々な情報発信をしています。そのなかの一つとして、Instagramのライブ機能を使ったインスタライブを昨年からやっています。インスタライブを使って、アダストリアのことをどう知ってもらうか、どう会社説明会に来てもらうか、どう選考に参加してもらうかを考え実施した結果、多くの学生から反響をもらうことができました。
――インスタライブはどのようなことをしたのですか?
西山 弊社の各ブランドにおいて、現場で活躍する公認インフルエンサーが多くいるのですが、そのなかの数名を呼んで、リアルな現場の雰囲気を話してもらったり、視聴者の方からの質問にリアルタイムで回答してもらったりしました。また、内定者にエントリーシートの解説や選考の様子なども話してもらいました。ライブにした理由は、双方のコミュニケーションをどれだけ多くやれるかが大切だと考えているからです。
説明会は開いていますし面接も必ずありますが、採用活動が長期化しているなかで、求職者とどれだけ接点を持てるかが課題だと思っています。
オウンドメディアリクルーティングにより高まった、求職者とのマッチング精度
――あらためて、新卒、中途、アルバイトからの登用に関して、採用人数や、採用施策における位置づけを教えていただけますか。
富永 年間で、新卒が約200人、中途が50〜100人くらい、アルバイトからの登用が150〜200人くらい、合計で400〜 500人といったところです。各ブランドの認知もあって、応募人数は多く集まっています。あとはどのようにして弊社に合う人材を見つけて選べるかという点と、採用された人たちがいかに早く活躍できるかに課題があると思っています。
――オウンドメディアを使って採用のために情報発信をすることで、面接に来ていただく方とのマッチング精度が上がった印象はありますか?
全員 あります!!!
金村 私は店舗、販売スタッフの中途採用をメインにしていますが、採用者数の半分以上が採用サイトから応募いただいた方でした。中途採用だと、応募いただいた後にエントリシートを出していただくなど、選考過程でいくつか課題があるのですが、その提出率も一番高かったです。また、選考の通過率も一番高い結果となりました。採用サイトを読み、企業の理念に共感したうえで、いろいろ情報を見て応募してくれているので、やはりマッチしやすいのだと昨年実感しました。
最近ではIndeedさんのような求人検索エンジンも増えてきて、これまでのように求人媒体だけでなく、仕事の探し方自体が変わってきています。求職者が最終的にたどり着くのが企業の採用サイトになっている印象があるので、採用サイトでアダストリアの思いを伝えることに力を入れています。絶対アダストリアがいいとか、この企業理念のもとで働きたいとか、求職者に強い思いを持って選考に臨んでいただいていることが、マッチング精度の向上につながっているのだと考えます。
富永 求職者から表面的なことを聞かれることも、少なくなってきたように感じます。より踏み込んだ質問をしてもらっているので、求職者の興味や関心が高く、アダストリアで働きたい気持ちが変わってきている実感があります。
他部署との横断的な取り組みで、社内の採用に対するコミットメントを高める
――採用のための情報発信をする場合、他部署と横断的に連携することが増えると思います。オウンドメディアを通した情報発信を実践することで、会社全体で採用を盛り上げていこうという雰囲気が高まってきたりはしていますか。
金村 採用サイトをリニューアルするとき、若い世代に刺さるビジュアルにするため、社内のクリエイティブチームと連動しています。また企業広報とは、会社として適切な言葉を使っているか、言い回しが統一されているかを確認しながら進めています。
西山 人事部だけではアダストリアの良さを伝え切れないので、各ブランドの部長をはじめ様々な部署の方に一緒にやりましょうとお願いしています。みなさんとても忙しいのですが、採用は大事だから協力しようという雰囲気があると感じています。弊社では一部のスペシャリストを除いて、採用後は店舗に配属されるので、各ブランドがどんな人材を求めているのか現場社員にヒアリングを重ねています。
金村 採用を人事部に任せきりにするのはなく、各部署の社員が自分たちで説明会や選考に携わることで、自分の部署に入ってほしいという思いも強くなります。その結果、新しい社員の育成についても関わりが深くなるので、今後も他部署の社員を巻き込んでより良い会社にするための採用施策を、会社全体としてやっていきたいと考えています。
――中長期的に採用を考えたとき、今後取り組んでいきたいことはありますか。
西山 会社全体で採用した人材を育成し、その人に活躍してもらうシステムを作っていきたいと思っています。
富永 採用して配属したら、後は営業部にお願いします、ではなく、教育研修も会社全体を巻き込んで実践していきたいと考えています。採用した方が入社後に活躍できるまで責任を持って取り組んでいくのが、チーム全員の願いです。
金村 弊社では、セール期や繁忙期に本部の人間が店舗へ販売応援に行きます。以前も、自分が面接をして中途採用した方がいる店舗に入ったことがありました。その際、忙しいなかでも活躍している姿を自分の目で見られて、採用担当者としてすごく嬉しかったです。また、相手の方に「あのときは面接してくださってありがとうございました」と言ってもらいました。そんなお互いにとってハッピーな採用ができればいいですし、そのためにも、よりマッチング精度が高い採用ができるよう情報発信を続けていきたいです。