実践企業はどのようにジョブディスクリプションを作成し、効果を上げているのか ─Owned Media Recruiting SUMMIT vol.4 レポート(2)

INDEX
2019年9月に開催されたOwned Media Recruiting SUMMIT(オウンドメディアリクルーティングサミット) vol.4。基調講演に続き行われた2つのパネルセッションでは、オウンドメディアリクルーティング実践企業をパネリストに迎え、その実践方法や効果などを、より具体的な視点で学ぶ時間となった。今回は「実践企業が語るオウンドメディアリクルーティングの効果~Job Description編』の様子についてレポートする。
パネリストとして登壇したのは、株式会社ユーザベース カルチャーチーム Head of Culture & Talent 西野雄介氏、アマゾンジャパン合同会社 人事統括本部 人事部 部長 篠塚寛訓氏。モデレーターはIndeed Japan株式会社 Senior Manager, Talent Attraction 小西航太氏が務めた。
一時間強のセッションでは、以下4つのディスカッションテーマをもとに、実践企業はどのようにジョブディスクリプションを作成し、オウンドメディアリクルーティングを推進しているのか、またそれによって得られる効果について意見が交わされた。
各社の採用におけるオウンドメディアの位置づけ
最初に、各社オウンドメディアをどのような位置づけで捉えているのかを語り、セッションがスタートした。
■ユーザベース
ソーシャル経済メディア「NewsPicks」、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」など、経済サービス事業を展開しているユーザベース。現在はグローバル展開も推し進めているという。
オウンドメディアは、コーポレートメディア「UB Journal」を設け、『挑戦する人を後押しする』というテーマのもと、社員インタビューを軸に各チームの挑戦や、組織カルチャーなどに関する記事を掲載している。「現場のメンバーがどんな仕事をしているか、どんな思いで働いているか、率直に語ることを心がけている」と西野氏。「UB Journal」を読み込んで面接に臨む候補者とは、質の高い面接ができているという。また、インナーコミュニケーションを活性化させる役割も果たしていると話す。
「私たちが知らないタレントを持っている社員がいる可能性がある。タレント発掘という役割も果たしています」(西野氏)。
■アマゾンジャパン
年間1,000人単位のハイスピード採用を行っているというアマゾンジャパン。採用サイトで詳細なジョブディスクリプションを掲載しているほか、ブログ「Day One」でもAmazonのカルチャーや考え方、メッセージをコーポレートPRから発信している。企業規模が大きくなるほど「自分がやりたい仕事ができるかどうか」ではなく、ネームバリューで応募してくる求職者も少なくない。そのため、「正しく判断してもらうためにも、正しい情報を積極的に出していきたい」と篠塚氏は語る。
そして、オウンドメディアの利点は「自社の管理下でやりたいようにできること」だと篠塚氏。「オウンドメディアは自分たちでコントロールでき、求職者が何を見て応募してくれているか、ニーズを早め早めにキャッチして調整できます」と、求職者のニーズを探る役割も果たしていると話す。
モデレーターを務めるIndeed Japanの小西氏も、「2年ほど前にテレビCMを積極的に放送して社名認知度を高めたが、働く場としての認知は低かった。改めて働く魅力を伝えたい」と、自社がオウンドメディアに力を入れている理由を語った。
人材要件定義とジョブディスクリプション作成のプロセス・体制
2つ目のディスカッションテーマでは、「ジョブディスクリプション」を、各社どのように作成しているのかが紹介された。
■アマゾンジャパン
「ジョブディスクリプションは、基本的にハイアリングマネージャーが作成します。そこから承認プロセスを回し、リクルーターとファイナンスのチェックが入ります。職種によってはPRもチェックに入りますが、基本的にはリクルーターがその部分を加味しながら対応しています」と篠塚氏。
ジョブディスクリプションには、社内に「このようなポジションを用意したい」と説明する意味と、社外に「こんなに魅力的なポジションがある」ことを伝える2つの意味があると語る。
「特に、社外に対して魅力的に書くことが難しい。我々が採用したい人は何に興味があるのかを考えながら、リクルーターもハイアリングマネージャーも熟考していますね。たとえばグループ内の2つの部署で同じ職種の募集をしている場合、『候補者はなぜ部署Aではなく、部署Bに応募をしたのだろう』など、社内で比較をして参考にすることもあります」(篠塚氏)。
■ユーザベース
ユーザベースは、ジョブディスクリプション作成用フォームを設けているという。
「採用背景、そのポジションをとりまく現在の課題、組織構成、組織内での役割分担、採用によって短期的・中期的に叶えたいもの……と細かい質問が設けられており、それに答えていけば詳細なジョブディスクリプションが完成するようになっています。最終的にどの情報をジョブディスクリプションに反映させるか、どの情報をコミュニケーションの材料にするのかは、リクルーターが判断して使います」と西野氏。
そして求職者側からの「職種の提案」も受け付けているという。「自分の要件に合うポジションの募集は無いが、ユーザベースで働きたい」という強い思いを持っている人に対しては、自らの専門知識や経験で、新たにポジションを提案できる環境を整えていることも、ユニークな取り組みだ。
ジョブディスクリプションの表現方法や効果測定、チューニング
では、書いたジョブディスクリプションは求職者に正しい情報を伝えることに貢献し、欲しい人材の採用に機能しているのだろうか。その機能のさせ方については、西野・篠塚両氏ともに「常にチューニングをする必要がある」と答える。
■ユーザベース
ユーザベースは、ジョブディスクリプションのチューニングに、候補者のアンケートを活用しているという。
「一次面接の後に『どういうメディア、コンテンツを見て応募したのか』『転職の際、どういう情報がもっとも有効か』などのアンケート調査をしています。アンケートの情報を常に可視化することで、ジョブディスクリプションのチューニングに活かすのです」(西野氏)。
それでもなかなか良い候補者が現れない場合は、ハイアリングマネージャーとともに、考え得るペルソナを挙げるという。
「ペルソナのストーリーを作ります。たとえば弁護士資格を持った方を採用したければ、その方が弊社で働きたいと思う理由をいくつか考え、そのペルソナごとにストーリーを並べ、ジョブディスクリプションのチューニングにつなげていきます」(西野氏)。
■アマゾンジャパン
篠塚氏は「どこまでスタイライズ(定型化)すべきかを考える」と語る。
「ジョブディスクリプションのどこをスタイライズして、どこでオリジナリティーを出すかを考えます。スタイライズすると各ポジションの共通点や違いがより見えやすくなるため、たとえばAのポジションの条件には1つだけ合致しない候補者に対して、共通条件が多いものの1点だけ条件の異なるBのポジションを紹介するなど、候補者に対する新しい選択肢の提案がしやすくなります」(篠塚氏)。
また、アマゾンジャパンはダイバーシティを強化する取り組みを行っており、「女性に受け入れられやすい言葉選び」にも配慮しているという。
「海外の例ですが、ジョブディスクリプションの表現をチェックする他社サービスがあります。たとえば『作る人』を表す場合、『ビルダー』という言葉を使うよりも『メーカー』の方が女性に好まれると提案されるのです。このような言葉の印象には気をつけています」(篠塚氏)。
Indeed Japan小西氏も「職種名が与える印象は大事」だと話す。
「たとえば、営業職は『アカウントエグゼクティブ』と表現していますが、『広告営業』のようにわかりやすい表現に変える場合もあります。職種名はまず求職者の目に触れるところなので、仕事がイメージしやすくクリックしやすいものを心がけています」(小西氏)
実際、ある職種名の表現を変えたところ、クリック数が倍になり、応募率が加速度的に上がったという。
ジョブディスクリプションを重視することによって生まれる効果とは
では、ジョブディスクリプションを丁寧に作りこみ、オウンドメディアで発信することにより、各社どのような効果を感じているのだろうか。
■アマゾンジャパン
ジョブディスクリプションを詳細に記述し、さらに採用活動の状況によってチューニングを加えていく、その効果は大きいと篠塚氏。
「何より、入社後のトラブルが減ると思います。会社によっては、“玉虫色”にしておきたい部分もあるということもあるかもしれませんが、そうすると入社後に必ず『聞いていたことと違った』となってしまう」(篠塚氏)。
企業側も、どういう人を採用しなければならないかについて頭の整理ができ、双方にメリットしかないと考えているという。
■ユーザベース
「採用とは違う側面でもジョブディスクリプションを活用している」と話すのは西野氏。
「社内でのキャリア開発、キャリア支援でも使っています。たとえば、3年後、次のステップとしてどのポジションに行きたいか、何を成し遂げたいか、先を考えてもらうときにジョブディスクリプションを見せることがあります」(西野氏)
これに、小西氏も大きくうなづいた。
「自分のポジションの一つ上をめざすときに、ジョブディスクリプションを見れば、何を頑張ばそこに辿り着けるのかイメージしやすい」(小西氏)
かつては“先輩の背中を見る”ものだったが、文面化されることで、より納得感が増すのではないかと話す。
もっとも、ユーザベース、Amazonともに、オウンドメディア運用のさらなる改善の必要も感じているという。
「オウンドメディア経由で来てくださる方は、弊社のカルチャーや仕事内容に対して興味を高めて来てくださっており、モチベーションの部分では良い。ただ、スキル面でのマッチングが高くなっているかというと決してそうとは言い切れない。どちらもバランスよくカバーできるようなコンテンツづくりがこれからの課題」(西野氏)
「たくさんの方にご応募いただくのですが、ただ多くの方々を集めてお断りすることはしたくない。コンテンツの精度を上げ、受ける前に『自分にフィットするかどうか』を候補者ご自身で判断していただけるような内容を入れていかなければならない」(篠塚氏)
最後に、オウンドメディアの認知をあげるために社内・社外で取り組んでいることについては、両者ともに「コンテンツをSNSなどを介して広めていくこと」と答えた。社員の自社理解を促進するため、リファラルのきっかけとしてもオウンドメディアは有効であり、「社内に向けた認知も大事」と小西氏も同意する。
オウンドメディアリクルーティングでジョブディスクリプションを詳細に記述することは、採用への効果はもちろん、社員のキャリア形成や自社理解にも繋がる。そのさまざまな効果が実践企業から具体的に聞ける貴重なセッションとなった。