実践企業がシェアードバリューコンテンツ作成時に心がけていることは? ─Owned Media Recruiting SUMMIT vol.4 レポート(3)

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2019年9月に開催されたOwned Media Recruiting SUMMIT(オウンドメディアリクルーティングサミット) vol.4では、基調講演のほか、実践企業がオウンドメディアリクルーティングの効果について語る、2つのパネルディスカッションが行われた。今回は『Job Description編』に続き、「実践企業が語るオウンドメディアリクルーティングの効果~Shared Value Content編』をレポートする。
パネリストは
・サイボウズ株式会社 人事本部部長 兼 チームワーク総研 研究員 青野誠氏
・ソフトバンク株式会社 人事総務統括 人事本部 副本部長 兼 採用・人材開発統括部 統括部長 兼 未来人材推進室 室長 源田泰之氏
・株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括 曽山哲人氏
の3名。
また、モデレーターを人材研究所 代表取締役社長 曽和利光氏が務めた。各社シェアードバリューコンテンツをどのように制作しているのか、またその効果や感じている課題などについて、具体的な内容が話し合われた。
シェアードバリューコンテンツはどのような効果を生み出すか
まずは各社の紹介とともに、オウンドメディアリクルーティングへの取り組み方、またシェアードバリューコンテンツがどのような効果をもたらしているかについて話し合われた。
■サイボウズ
社員数は約800人、例年、新卒採用とキャリア採用にてそれぞれ30〜40人ずつを採用しているというサイボウズ。2012年にオウンドメディア「サイボウズ式」を立ち上げた。そもそもは企業の考え方を社外へ伝える取り組みとしてスタートしたが、採用に与える影響は大きいという。
「社員が『出たい』と手を挙げてくれるメディアに育ちました」と青野氏。自社に誇りをもって働くことに寄与するとともに、社員がSNS上で記事を積極的にシェアすることによって、間接的にリファラルリクルーティングにもつながっている。
「もともとは紹介会社経由の採用が多かったですが、直接応募での採用が増えてきました」(青野氏)
また離職率も低減している。2005年には28%あった離職率が、2012年以降は5%以下をキープ。もちろん他の施策の影響もあるが、入社前後のイメージのギャップを減らし、採用後の定着を図る意味で、オウンドメディアの効果は高いと感じているという。
■ソフトバンク
ソフトバンクグループ全体で従業員数約7万7,000人、ソフトバンク株式会社単体でも約1万7,000人と、企業規模の大きいソフトバンク。海外採用拡大など“攻め”の施策を進めるなか、2018年12月に採用ホームページを刷新した。それまでバラバラだった新卒、中途、販売クルー、障がい者採用のページを一本化し、コンテンツを充実させたのだ。
「2年前まで中途採用は年間数十人程度。そのときは8割以上が紹介会社経由でした。ここ2年間は年間500人規模の中途採用を行っていますが、紹介会社経由の比率が半分を切り、リファラルとスカウト採用がそれぞれ15%に。さらに、近年伸びているのがホームページ経由の採用で、全体の15〜20%。まさにオウンドメディアの効果が出ていると思います」(源田氏)
コンテンツ内容も、応募者・採用者などにヒアリングやアンケートを行い、求職者が求めているコンテンツを意識して作成。その結果、採用ホームページのPV数は前年比255%、直帰率は前年比49.2%と大きく改善された。
「採用ホームページのオウンドメディア化によって、明らかに『情報を見てもらえている』と感じています」(源田氏)
■サイバーエージェント
サイバーエージェントは、社員インタビューや、企業文化、自社の取り組みなどを掲載するオウンドメディア「FEATUReS」、また新卒採用に関する情報を発信する「サイブラリー」を運用している。
曽山氏は、コンテンツ制作の方針として「顔を出す」「マルチエントリー」「情報は深く」という3つのポイントを挙げた。
「顔だけでなくなるべく名前も出す。どんな人が働いているのかを知ってもらうことが重要です」(曽山氏)
そして、最近は職種や事業内容から仕事に興味を持つケースが多いため、マルチプルにエントリーの口を多く設け、サイバーエージェントで働くイメージを持っていない人にも情報が届く工夫をしていると話す。
さらに、興味を持った人がその仕事について深く知ることができるように、コンテンツを用意。たとえば広告営業に興味を持った人に対し、先輩社員のインタビュー記事だけではなく、業界での自社の位置づけを紹介するページなど、受け皿となるページを用意しているという。「検索サイトで調べさせるのではなく、自社で用意していることが大事」と曽山氏。
こうしたコンテンツ制作の結果、「言行一致の口コミ」「社員のSNS拡散」「社外に応援者が増える」という3つの大きな効果を実感したと曽山氏は話す。
「会社がやっていることと社員の感じていることが言行一致していると、社員を通じて口コミが広がりますし、社員がSNSで記事を拡散してくれます。その様子を見て『サイバーエージェントの社員はいい感じだね』と、社外の応援者が増えるのです」(曽山氏)。
オウンドメディアリクルーティング導入時に抱えていた課題とは
では、オウンドメディアリクルーティングを導入するにあたってどのような背景があったのだろうか。そのとき抱えていた課題について3人は率直に語った。
■ソフトバンク
ソフトバンクは、世間が持つイメージと実際の自社事業にギャップがあることが課題だったという。
「ソフトバンクというと携帯電話の会社というイメージが強かった。しかし、今後の成長のためには、PayPayなど新規事業に力を入れていく必要がありました。そのためFinTechや医療系などさまざまな経験のある方や、新卒も携帯電話以外にも興味のある方に来てもらう必要がありました」(源田氏)
そこで、新規事業に携わっている社員のリアルな情報をどんどん発信し、ソフトバンクの事業、働き方への理解を深めたという。
■サイバーエージェント
ソフトバンクと同様の課題を抱えていたのがサイバーエージェントだ。
「採用に限らず、会社の経営として『伝えたいことが伝わっていない』という課題がありました」(曽山氏)
広告営業から始まった企業のため、世間もそのイメージを強く持っていた。しかし他にも伝えるべきさまざまな面がある、という思いから2016年に「FEATUReS」を立ち上げた。
それまでも、代表取締役社長の藤田晋氏や社員個人のブログが採用のプラスになっていたが、バラバラに分断された形で存在していた。「FEATUReS」を立ち上げたことで、核となる記事からそれらのブログにリンクを張り、回遊しやすくすることができたという。
■サイボウズ
一方、サイボウズは、事業のためにオウンドメディアを開始。「サイボウズがチームワークを支援する会社である」という認知度を高めていくことが、事業の成長にも繋がると判断した。人事制度改革などを実施して離職率が下がった時期だったため、自社の取り組みも積極的に記事化した。
「自社の取り組みが社外からも評価されることが、採用や定着に繋がりました」(青野氏)
共感を呼ぶには自分たちがどんな文化を持ち、どんな考え方で事業展開しているのかをまず発信する必要がある。「サイボウズ式」でそれらの価値観を発信することで、自然と共感する人が集まる効果があった。
「ただ、そこには新たに“会社の考えに共感するだけ”の人が来るという問題も発生しました」と青野氏。働き方についての自社の考え方をプロモーションした結果、「フレキシブルな働き方をしたいから」などの理由だけで応募をしてくる人も一定数いたという。
「そこで、『サイボウズで何をやりたいのか』ということを、必ずエントリーの質問項目に加えることにしました」(青野氏)
項目を増やしたため応募者は減ったものの、質の高いエントリーを得られるようになり、書類通過率が上がったという。
どのような内容を発信するべきか。それによる応募者の質の変化は?
サイボウズ青野氏の話を受け、「オウンドメディアで発信する内容」と「応募者の質の変化」の関係について、さらに詳細に話し合われた。
曽山氏は「情報発信の際、生々しい仕事の厳しさも出すことが大事」と話す。「そのリアルな情報が、求職者側・企業側双方にとってのフィルターになります。仕事は楽しさと厳しさのセット。発信の際、その点は意識しています」(曽山氏)
源田氏は、コンテンツ内容によって応募者の質が変化したことを実感しているという。
「『テクノロジーによって新しい未来を切り開く』など、“ぼんやりときれい”なメッセージだと、『大きいことがしたい』というだけの応募者が多かった。その思いは大事だが、母集団だけが増えても意味がない」。
そこで、社員の目線から、どんな働き方をしているのか、どんなことを乗り越えどんな経験ができているのか、リアルな部分を伝えるようにした結果、現在のソフトバンクの事業内容を理解した上で、具体的にやりたいことを持った応募者が増えたという。
ここで源田氏が1つ問いを挙げた。
「オウンドメディアが採用に役立っていることは間違いないですが、最終的には対面で会って伝えることが一番効果的なのではとも思います。皆さんは、オウンドメディアに対してどれくらいの期待感を寄せているのでしょうか」。
それに対し曽山氏は、「情報を全部出さないといけない時代であり、そこにオウンドメディアこそが担える役割がある」と答える。
「対面には時間の限りがあり、また求職者は対面で聞きづらいこともあります。『Webに情報が隠れているのではないか』と探せるようにしてあげるのも一つのもてなしだと考えています」(曽山氏)
さらに、オウンドメディアを見てもらった上で求職者と会えば、会話が深いものになると語る。
「いま採用における発信で大切なのは、『exposure(さらけ出し)』『esteem needs(承認欲求)』『emotion(感情)』の価値。裏表のない情報発信をしているか、自分が働いて活躍できる会社か、一緒に働いて楽しい仲間がいるか。この3つを伝えていくことが大事だと思います」(曽山氏)
これから始めようという採用担当者へのメッセージ
最後に、これからオウンドメディアリクルーティングを始めたいという担当者へのアドバイスが語られた。
「最初から『オウンドメディアを制作する!』と意気込むと、決済などの負担が大きい。まず、採用担当がSNSを始めてみるといいと思います。その際には、顔が見える形で、企業名のロゴを使うにしても“人のにおい”が出るようなアカウントにするとよいと思います」(曽山氏)
「オウンドメディアでできるだけリアルな働き方や会社のバリュー、ミッションなどの情報を提供することでミスマッチを防ぐ効果が出ています。それは結果的に求職者にとってもいいこと。これを日本の会社全体で進めていけば、求職者の企業選びの目線はもっとよくなると思います」(源田氏)
「日々採用の現場で実感するのは、今の若い人は『なんのために働くか』を重視していること。その『なんのため』を定義することにオウンドメディアの役割があると思います。その前段階として自分たちの価値は何か、社内で見つめ直すところから始めなければならない。そこに共感する仲間を集めていくという流れが、大事だと思います」(青野氏)
オウンドメディアリクルーティングに対する3社の想いや課題感など、まさに“さらけ出し”を実践し、リアルな話が展開されたパネルセッション。シェアードバリューコンテンツは、「理念への共感」を呼ぶものでありつつ、リアルな部分を伝え、採用のミスマッチを防ぐものでもあるということが、深く理解できる内容となった。