100超のサービスを展開するヤフーが辿り着いた“全方位型オウンドメディア採用”の全貌

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1996年のサービススタート以来、国内のインターネット業界を牽引し、現在では「広告」「eコマース」「決済金融」の3分野を軸に、100を超えるサービスを運営しているヤフー株式会社(以下、ヤフー)は、「リアルへの進出」「リアルとの融合」をインターネットの次なるステージと定め、デジタル変革を推し進めている。
デジタル社会を牽引していくために大きく変わろうとしているヤフーは、新たなステージへ踏み出すに当たって、どんな“人財”を求め、求める“人財”を採用するためにどのような情報発信をしているのか。同社コーポレートグループ ピープル・デベロップメント統括本部 コーポレートPD本部長 金谷俊樹氏に、話を聞いた。

複数種類のオウンドメディアを連動させながらヤフーの風土を発信
――ヤフーは、採用サイトと「linotice(リノティス、ヤフー採用公式ブログ)」という2つの採用オウンドメディアで情報発信をしています。採用のために、読み応えのあるコンテンツを発信することになった経緯を教えてください。
linoticeを立ち上げたのは2016年。そのころ、今まで採用してきたチャネルからですと、質の面でも量の面でもいい採用ができなくなったと強い危機感を感じたことがきっかけです。新しい採用ツールがいろいろと出始めて、感度が高い人はそちらに流れてしまいました。何を利用すればいいのか、最終的に応募者をどこで受け止めればいいのかと思ったときに、linoticeを立ち上げようと考えました。
また、社内のエンジニアの満足度を高めるという観点においても、情報発信の必要性を感じました。彼らの心が揺さぶられるのは、社外から褒められたときです。そうであれば、褒められる材料を提供していこうと考えました。
それに伴い、採用サイトもリニューアルしました。それまではシンプルな中途採用のページと、リッチな新卒採用のページという、よくある2本立てでした。2016年10月3日から新卒一括採用を廃止し、新卒、既卒、第二新卒など経歴に関わらず30歳以下なら応募できるポテンシャル採用として、キャリア採用と同じく通年での採用を行うことにしたのです。その際、採用サイトもまとめたほうがいいのではないかと考え、総合的にすべて見られるように変えました。
――採用オウンドメディアである採用サイトとlinoticeのほかに、技術ブランディングメディアである「Yahoo! JAPAN Tech Blog」や、企業ブランディングメディアである「Yahoo! JAPANコーポレートブログ」もあります。どのように使い分けていますか。
Yahoo! JAPAN Tech Blogは技術の話に特化し、エンジニア個人が自分の目線で、自分の言葉で発信しています。一方、Yahoo! JAPANコーポレートブログは、ヤフーというブランドや会社、サービスに関心を持っていただくための企業ブランディングを主な目的として、コンテンツを作っています。
それらに対して、linoticeは採用ブランディングが目的なので、「ヤフーで働きたい」と思っていただくことがゴールです。そのためのコンテンツとして、採用サイトで紹介されている制度を社員は実際どのように使っているかといった記事や、具体的なプロジェクトに関わるメンバーの仕事内容やそこにかける思い、また開発者の人となりや働き方を深く掘り下げる記事など、企業風土を伝えています。
関連する記事がYahoo! JAPANコーポレートブログやYahoo! JAPAN Tech Blogにある場合、おすすめ記事という形で相互リンクしたり、同じイベントをそれぞれのメディアで記事にする場合には、切り口を変えて異なる目線でコンテンツを作ったりと、あらかじめ計画的に連携することもあります。
過去に面接で、「ヤフーの制度はわかるが風土がわからない」という声がありました。2016年にlinoticeを立ち上げてからは、求職者が読んでから来てくださったり、ご存知でない方にはご紹介したりして、採用サイトでは伝えきれないものも伝えられるようになったと思います。人気があるのは、ミッション・ビジョン・バリューに関わる記事や、制度に関する記事です。それらはPVもかなりの数がありますし、エントリーにつながっていることが可視化できています。運用開始から3年を経た現在では、中長期的に採用へ貢献するコンテンツプラットフォームとなりました。
データについても、採用サイトとlinotice相互の回遊状況や、linoticeのどの記事を読んだ方がどの職種のエントリーに至ったかなど、詳細なアクセス解析を行い検証することで、次の企画に活かしています。今後はコーポレート系のサイトやYahoo! JAPAN Tech Blogとの連携をより強化していくことで、総合的にPDCAを回していきたいと考えています。
採用サイトでは企業理念や企業文化を発信してマッチング精度を向上
――ヤフーが求める“人財”像を具体的に教えてください。また、採用オウンドメディアを通して、ヤフーで働くことの社会的な意義や魅力、求める“人財”像は、どのように伝えているのでしょうか。
弊社が求める“人財”像をあえて言語化すると、常に学び、成長し続ける意欲がある人、変化を楽しみ、変化し続けられる人です。インターネットを取り巻く環境は変化が激しいです。弊社の事業領域も、かつてはここまでeコマースに投資するとは思っていませんでした。来年は何が起きるかわからないという状況が終わることはないので、いつでも変化にワクワクし、一緒に楽しんでいける人と一緒に働きたいと考えています。面接においても、「普段どんな勉強をしていますか?」とよく聞きます。
弊社はミッション「UPDATE JAPAN」を実現するために、会社は何をしなければならないか、社員に何を求めるか、どんな働き方をしてもらえばいいかを考えて、様々な施策を走らせています。採用サイトでそれを明確に掲げ、linoticeでは日本社会をアップデートするために社員がリアルにどんな働き方をしているのか、生の姿をしっかり届けることが重要だと考えています。
現在、弊社では100を超えるサービスを提供しており、幅広い領域、職種におけるプロフェッショナルが働いています。日々、驚くほど優秀な人と一緒に仕事ができますし、ヤフーだからこそ実現できるビジネスや大きなプロジェクトに関わることも多く、経験の質は高いです。そういった意味で成長の機会が多いと言えますので、その機会を活かせる人に来てほしいと考えています。
――新卒一括採用廃止とポテンシャル採用開始に伴い、新卒・中途採用サイトを統合し、リニューアルしたことで、求める“人財”像と候補者のマッチング精度は上がりましたか。
そうですね。それまでは求人媒体に載せたり、採用サイトを作ったりする上で、「必要最低限、何を掲載すればいいんだっけ?」と既存のフォーマットを埋めていくように情報を設計していました。
今は「ここを理解して入社してほしい」「こういうことに対して共感して入社してほしい」ということをベースに設計するように変えました。さらに、採用サイトとlinotice、それぞれの採用オウンドメディアとしての役割を整理した上でコンテンツを考え、弊社がターゲットと考える候補者に対してきちんとリーチできるよう発信しています。
結果として、成長に対して貪欲な候補者が集まる率が高くなっています。ただ、それは情報発信だけでなく、選考過程においてもどういう人に来てほしいかを明確にし、今社内で特に活躍している人はどんな人か、その人の選考記録を引っぱり出してこういう人を見抜ける質問はなんだろうと考えることなど、総合的な取り組みの結果だと思います。
人数が多い技術・クリエイティブ“人財”の採用は、イベントも交えて取り組む
――採用活動は人事だけでなく現場の社員とも連携して行っていますか。
第1段階として2016年ごろは、人事以外の協力をいかに得て巻き込むかということを意識し、まずは広報など近しい部署との連携から始めました。たとえば、弊社は以前から面接にスーツで来ていただく必要はないのですが、他社で同様の面接スタイルを実施していること自体がニュースになったことがありました。弊社がすでに行っている取り組みも、広報の観点から見るともっとアピールしたほうがいいかもしれないので、そういったことを一緒に考えました。
その後の第2段階、2017年に採用を中心とした部署をCTO直轄に移しました。もともと採用は30人弱のチームでしたが、そのタイミングでマーケティング、ブランディング、技術教育、クリエイター向けの人事策、制度企画などの部署をすべてCTO直轄に集め、60数人体制にすることで、より戦略的にクリエイター採用を進められるようになりました。弊社の場合、中途も新卒も採用比率として多いのはエンジニアやデザイナーといったクリエイターです。なので、現場のクリエイターの要望を取り入れて協働しながら、ヤフーの強みである技術のブランディングやマーケティングに注力するなかで、採用メッセージをどのように紐付けて発信するかを考えました。
第3段階で、採用の部署は人事組織のなかに戻りました。第1段階で広報やコーポレートの部門と関係を築き、第2段階でエンジニアとの協働関係を作れたので、採用において外部に何を発信していくか、会社がどんなことを求めているか、入社後どのような人が活躍しているか、社内でコミュニケーションが容易に取れる状態になりました。現在は、それらをベースに、ヤフーの技術やヤフーのカルチャーについて情報発信し、採用につなげていきたいと考えています。
――現在はeコマースにも力を入れて新しいステージに向かっていると思われますが、中長期的に考えてどういう人を採用したいか、そのためにどういう情報発信が必要かなど、ビジョンを教えてください。
データを活用することができ、かつ、活用されたものを利用して何かができる開発力、この2つの力を持ち合わせた人を採用したいですね。
ヤフーはものすごい量のデータを持っています。そのデータを活用するためには、それを計算できるしっかりしたプラットフォームが必要です。ただ、そんなものは誰も作ってくれないので、自社で作るしかありません。だからこそ、理論を検証するだけではなく、開発もできる“人財”が必要なのです。
ただ、そういった“人財”は一般的な求人ルートから採用できなくなってきています。まずエンジニアはどこにいるかわかりません。かつ、求人倍率が10数倍と言われており競争が激化しています。
ベンチャー企業であれば社長が直接面接に出て、企業理念やメッセージをシンプルにわかりやすく伝えることができますが、弊社は事業領域が多岐に渡っているので同じようにはできません。そこをいかに打破するかが課題です。
――エンジニアの採用が困難であるなか、社員と求職者がリアルに交流するイベントの場などは設けたりしていますか。
もともと有志で技術の勉強会を開催してきましたが、2017年に組織化して、東京で開催するTech MeetUpはブランド名を「Bonfire」に統一し、継続的に開催しています。そのほか、大阪、名古屋、福岡といった拠点でも、それぞれ定期的に勉強会を開催しています。
ただ、linoticeでも、イベントでも同じですが、採用において何が効果的かを判断するのは難しいです。結果としてはっきり出てくるには数年かかるのではないでしょうか。とはいえ、何も効果が出ないのに続けられるほど甘くはありませんので、KPIの定義付けには苦労しました。
設定したKPIはいくつかありますが、すぐにわかる効果としては勉強会による集客があります。ヤフーの技術に興味を持っていただき、参加者とのネットワークができるだけでもいいと思います。
もう一つは、エンジニアがライトニングトークで自分の成果をアウトプットすることでモチベーションアップにつながることがあります。そのため継続して開催することでより多くの方にヤフーの勉強会を知ってもらい、参加者を集め、アウトプットを受け取る人を増やすことを直近の目的として考えています。集客できたら、その分だけ将来的に採用の可能性もあるでしょう。
現場からも「採用を目的に勉強会を開きたい」という話が出るのですが、参加者にアプローチするのはかまわないけれども、あまりガツガツすると逆効果だから、1〜2年ほど会話を重ねるなかでマッチングしていくといいとアドバイスしています。
成果が可視化しづらいなか、マーケ視点も交えて採用情報発信を継続的に行う
――オウンドメディアリクルーティングを実践するうえで、大切なことは何だと考えていますか。
「継続は力なり」とずっと言っています。正直言うと、オウンドメディアを立ち上げてから何回も整理対象になりました。「この記事を読んだからこそ3人応募してきてくれた」といったことはわかりませんし、そういった状況で社内の協力を仰ぐのは大変でした。プロフェッショナルな人を使ってクオリティの高いコンテンツを届けようとすると、コストはかかってきます。「やってもやらなくても効果は一緒ではないか」と言われたら何も言えません。それでも続けたいという思いを会社が聞いてくれたので、続けられたと思います。誰かが強い意志を持ってやらない限り、吹いたら飛ぶ取り組みだと思っています。
同時に、オウンドメディアを続けるなかで、試行錯誤も続けてきました。たとえば、linoticeは、立ち上げて1年目はあえてターゲットを絞らず、できるだけ多くの人に認知してもらうことが重要だと考えて運営していました。PVが伸びて認知が広がったところで、2年目は技術に興味があり、なおかつ採用ターゲットとなる年齢層にきちんと届くような運用スタイルに変えることで、その層を惹きつけることができるようになりました。このような施策はマーケティングの知見を取り入れており、採用担当部署にマーケティングの知識を持った人間がいることは大切だと考えています。
そうやって3年間続けていくなか、社内で「これをlinoticeで取り上げてもらえませんか」と頻繁に声がかかるようになったときは、一定の認知度に到達したという安堵感がありましたね。
現在は、一つの施策だけで情報発信をしていても、届けたい情報を届けることはできません。linoticeを読んでいる人も読んでない人もいますし、リアルイベントに来る人も来ない人もいます。いろいろな場所にターゲット層がいるので、あらゆるチャネルを使って接触していかないと今の時代は厳しいと思います。だからこそ、様々なチャネルを使って情報発信し、求職者をモチベートしていくことが大事だと考えています。