採用サイトによくある8つの間違い

INDEX
採用サイトとは、コーポレートサイトとは別に作られる求職者向けのウェブサイトの総称です。一般的にコーポレートサイトは、顧客や投資家などの様々なステークホルダーの利用を想定して作られますが、それ故に求職者に特化したコンテンツ展開がしにくくなります。そのため、採用が特に重要な経営課題となっている企業では、求職者向けに独立したウェブサイトを構築します。これが採用サイトです。
この採用サイトはオウンドメディアの一種であり、顧客獲得やコーポレートコミュニケーションとは独立した存在であるため、求職者向けの自由なコンテンツ発信が可能になります。しかしながらその自由さゆえに、採用戦略を踏まえた正しい作り方をしないと、無意味なコンテンツや表現に投資してしまうことになりかねません。事実、求職者を置き去りにした、「企業のエゴ」としか思えない採用サイトを、これまでたくさん目にしてきました。
ウェブ制作会社である私たちは、当然ながら、これまで数多くの採用サイトを手掛けてきましたが、採用サイトを制作する際には必ず採用戦略を理解してから現状のリサーチを行っています。このような活動から採用サイトに関する戦略的知見を貯めていった結果、求職者が求める採用サイトには、業界や企業規模とは関係のない、ある一定のパターンが見えてきました。
この記事ではそんな私たちの知見に基づきながら、採用サイトが陥りがちな8つの典型的な間違いについて、解説していきます。
枌谷力氏。株式会社ベイジ代表。新卒でNTTデータに入社、4年間の営業経験の後、デザイナーに転身。2007年にフリーランスとして独立。 2010年にウェブ制作株式会社ベイジを設立。2017年にはマーケティング会社ナイルのUX戦略顧問就任。BtoBマーケティング、採用マーケティング、UX/UIデザイン、ライティングを得意分野とし、BtoB企業を中心に数々のウェブサイトを手掛ける。 オウンドメディアとSNSにも精通し、自社のマーケティングおよび採用においても大きな成果を生み出している。
(1)要項がすぐ見つからない
採用サイトでユーザーテストをすると、多くの被験者が真っ先に探すのが募集要項です。この傾向はアクセス解析でも顕著で、ほとんどの採用サイトで、ホームの次にトラフィックが多いページが募集要項となっています。
つまり、採用サイトに訪れたユーザーは、まず募集要項で自らの条件を最低限満たしているかを確認し、あるいは求人サイトの内容と差異がないかを再確認し、それから採用サイト内のコンテンツを閲覧する傾向があるわけです。
このような行動パターンを踏まえると、募集要項はグローバルナビゲーションなどに常設し、最大の入口となるホーム画面では、ファーストビューに分かりやすく設置しておくのがいい、ということになります。
逆に、募集要項を下層の奥深くに格納してしまう、募集要項という名称を変えてしまうといったことは、求職者を無意味に惑わせる作り方であると言えます。
求職者が真っ先に企業に履歴書を見せるように、企業が真っ先に求職者に見せるべきものが募集要項です。募集要項は隠さずに、分かりやすい箇所にボタンやリンクを設置して、すぐアクセスできるようにしましょう。
(2)精神論や綺麗ごとが多い
多くの採用サイトはコピーに問題を抱えています。特に多いのが「綺麗ごとばかりで具体的に書かれていない」という問題です。私たちが採用サイトに関する調査の一環で行ったアンケートのなかでも、「魅力的ではない採用サイトは?」との質問に対して「綺麗ごとばかり」「具体性がない」という回答が多く寄せられます。
「人々の未来を作る」「様々な困難に挑戦しながらもやりがいを感じられる仕事です」といった曖昧な言葉で心動かされるほど、求職者は甘くありません。
よほどの有名企業でもない限り、求職者はその会社の実態を知らないまま、採用サイトに訪問します。何のために訪問するかと言えば、「自分がそこで働く具体的なイメージ」を作りたいからです。そう考えると、前述の曖昧な綺麗ごとのメッセージがいかに役立たずが分かるでしょう。
また多くの求職者は、明るくポジティブな希望以上に、多くの不安を抱いています。たとえば、「この企業はブラック企業ではないのか?」というのは、求職者が最初の線引きをするための最も重要かつ基本的な不安です。こういった不安を解消するのが、「真実としか思えない具体的な情報」です。綺麗ごとや精神論では、誰でも言えてしまうので、不安解消の決定打にはなりにくいのです。
採用サイトの効果を最大限引き出したいのであれば、綺麗ごとや精神論のような抽象的なコピーを極力減らし、できるだけ具体的で、真実味のある情報を掲載していくようにしましょう。
(3)コンテンツが求職者目線になってない
企業理念やブランドメッセージが真っ先に目に飛び込んできて、続いて意識と抽象度が高い代表メッセージ、独りよがりの求める人物像、検閲済みのキラキラ社員紹介が配置されている採用サイトは珍しくありません。このような採用サイトから垣間見えるのは、「私たちはこんなにすごい」「私たちのここを見てほしい」という自画自賛を優先した、「企業ファースト」の姿勢です。
求職者がどのような情報を求めているかは様々なメディアでいろいろな調査がなされていますが、共通するのは「(具体的な)仕事内容」のニーズが高く、「企業理念」やそれに類するコンテンツ(代表メッセージなど)のニーズはそれと比べて高くない、ということです。
つまり、企業ファーストではなく求職者ファーストで設計するのであれば、まず募集要項に続いて、仕事内容に関するコンテンツを優先的に配置すべきなのです。
また、コンテンツの企画だけでなく、コピーについても注意が必要です。会社の事業紹介について、会社案内パンフレットと大差ない紹介をしているケースをしばしば見かけますが、求職者が一番知りたいのは「だから自分の働き方に何の影響があるのか?」ということです。
「私たちは○○を提供しています」という単なる説明ではなく、「だから働く人にとっては○○のような影響があります」とまで書いてはじめて、求職者に伝わりやすい情報になります。
私たちが採用サイトをお手伝いする時は、求職者にとってその会社で働くメリットを1ページで分かりやすくまとめた「働くメリット」というコンテンツを必ず設置しますが、これもまた求職者ファーストを意識したコンテンツです。
このように、コンテンツの企画からコピーライティングに至るまで、あくまで「求職者ファースト」の視点を徹底していくことが、会社のことをより的確に伝えることにつながり、さらには「働く人のことを考えている企業」という印象の形成に影響を与えるのではないでしょうか。
(4)情報が少なすぎる
自社のウェブサイトを使って情報発信をする最大のメリットは、制約を受けずに多種多様な情報を掲載できる点にあります。
たとえば採用サイトでは、
- ホーム
- 求める人材
- 企業理念
- 代表メッセージ
- 仕事紹介
- 社員紹介
- 募集要項
といったものが典型的なコンテンツであり、これらだけで構成されている採用サイトも珍しくありません。しかし、求職者が知りたい情報はこれだけではありません。
たとえば以下のような情報も知りたがっているはずです。
- キャリアパス
- 業界解説
- 教育体制
- 評価制度
- 給与体系
- 労働時間・休暇
- 社風や文化
- 会社の課題や問題点
- 現場の苦労話・失敗話
- 家庭との両立方法
- 選考プロセス
このように、「求職者が知りたがっている情報」という観点で考えれば、より多種多様なコンテンツを用意できるはずです。ある企業では、卒業生の声、選考ポイント、社員の失敗談などといった意外なコンテンツを掲載している例もあります。
採用サイトのアクセス解析をしてみると、1訪問あたりのページビューは3~5ページくらいに収まることが多いです。しかし、コンバージョンしているユーザーに絞り込むと、これが1.5倍前後になる傾向にあります。しかしより重要なのは、求職者が共通して関心を持つこと以外に、人によって異なる関心軸がある、という点です。たとえばある人は、転職するにあたり、待遇や仕事内容だけでなく、育児と仕事の両立を重視するかもしれません。またある人は、前職で職場の風土に悩んだからこそ、次の会社では組織風土を重視するかもしれません。
このように、人によって異なる様々なニーズに応えようとすれば、必然的に情報は多種多様になり、量も増えていくはずです。そして採用サイトの段階でこういった情報提供が行き届いているほど、エントリーや内定承諾の確率は高まると考えられます。
特に視点として持っておきたいのは、就活サイトや転職サイトといった外部の求人サイトには掲載できない情報を載せるということです。求人サイトと同じような情報しかなければ、わざわざ採用サイトに訪問する価値はありませんし、事実上、給与や勤務地などの情報だけでほぼ判断されてしまうことになりかねません。
求人サイトは複数の企業が相乗りしているため、情報のフォーマットには制約がありますが、自社の採用サイトであれば、その制約を超えて掲載することができます。
採用サイトと言えばこんなもの、というテンプレート発想から抜け出し、どんな情報があれば求職者が喜んでくれるだろう、満足してくれるだろうという「おもてなし精神」を最大限発揮して、魅力的なコンテンツを掲載していきましょう。
(5)演出や派手なデザインに頼る
採用サイトのなかには、動画やアニメーションを使って、華やかな演出が施された採用サイトをしばしば見かけます。企業側としては、凝った演出による差別化を考えているのかもしれませんが、採用サイトを制作する前に行っている社内アンケートを見る限り、残念ながらこの手の演出に対する評価は高くないどころか、時に嫌悪感を増幅させる可能性も見受けられます。
特に「動き」に対する嫌悪感情はかなり強く、一般的なウェブサイトと異なるやたらと画面を動かすようなトランジション(画面遷移)やアニメーションを加えることは、むしろマイナス効果と考えられます。また、コンテンツが薄いのに演出が強い、といったようにバランスを欠いていると、「魅力がないのを演出でごまかしている」と受け取られるリスクも高めます。
求職者が採用サイトに求めているのは、娯楽ではなく情報であり、そこに長居したいわけではありません。情報が普通に見やすい普通のウェブサイトであればよく、それ以上のビジュアル表現や「心地よい操作体験」を求めているわけでもありません。「この会社で働くとどうなるか」を知りたいだけであり、その情報を自然に提供できる、素直なUIデザインやビジュアルが求められています。
ビジュアルや演出に投資する時間とお金があるのであれば、コンテンツに時間とお金を使いましょう。華美なビジュアルや演出は、嫌悪感情を煽ることはあっても、有利に働くことはほとんどないと、心に留めておきましょう。
(6)有名企業の真似をする
採用サイトを作るときにまず考えなければいけないのが、求職者は自分たちの会社をどのくらい知っているのか、ということです。そしてもし、自社があまり知られていないのであれば、有名企業の採用サイトはあまり参考にはならないでしょう。
すでに十分な知名度が有名企業に対しては、求職者はある程度のブランドイメージ持っています。そして、採用サイトの出来/不出来に関わらず、求職者は自然に集まってきます。採用サイトが求職者のニーズを満たさない見当違いな作りであったとしても、「その会社に入れるかもしれない」というその一点だけで、エントリーはそれなりの数に上るでしょう。
一方、一般にはほとんど知られておらず、合同会社説明会や求人サイトで初めて名前を知るような会社は、有名企業とは前提が大きく異なります。その実態はほとんど知られておらず、「もしかしたらブラック企業かもしれない」という疑念すら抱かれかねません。だからこそ、求職者ファーストで丁寧かつ豊富な情報発信が必要になるわけです。これは精神論ではなく、より良い印象を持ってもらう確率を少しでも高めるための論理的な考え方です。
採用サイトの企画段階において、誰もが知る著名企業の採用サイトが検討の土台に上がり、「こんなサイトにしたい」などとベンチマークにするケースをしばしば見かけます。しかし、採用サイトを作るうえで重視すべきは、他社が何をやっているかではなく、求職者が何を求めているか、です。自社ならでは事情、自社ならではの求職者の特性を観察して、自社ならではの採用サイトのコンテンツやメッセージを考えていく必要があるのです。
(7)採用サイトからのエントリー数だけに注目する
採用サイトがうまく機能しているかどうかは、採用サイトのエントリー数で判断するものと誤解してしまうことがあります。実際、「採用サイトをリニューアルして採用サイトからのエントリーを〇倍にする」といったRFP(提案依頼書)を見たことが複数回ありますが、採用サイトを充実させたからといって採用サイトからのエントリーが増えるとは限りません。むしろ、爆発的に増えることは少ないのではないでしょうか。
まず、求人サイトで知った求職者の場合、通常は企業の採用サイトではなく、求人サイトからエントリーします。求人サイト側にエントリーを管理する機能がついており、求職者は複数の企業とのやり取りを、ここで一元管理することを望むからです。
そのため、求人サイト経由で訪問した求職者の多くは採用サイトからエントリーしませんが、そのことを悲観的に捉える必要はありません。採用サイトをきちんと作った結果、採用サイトからのエントリーは増えなかったものの、求人サイトからのエントリーが伸びたという事例は複数存在します。
また、採用サイトの効果はエントリーだけに留まりません。適切に情報発信をすれば応募者とのミスマッチが減るため、書類選考通過率も向上します。「明らかにコピペ」といった応募が減り、その企業をしっかり理解した上での応募が増えるでしょう。
また、面接フェーズ以降でも応募者は採用サイトを訪問する可能性があります。そのため、採用サイトの精度は、面接辞退率にも影響を与える可能性があります。さらに複数企業から内定をもらった求職者は、採用サイトを見て最終決断をする可能性もあります。そうすると、内定受諾率にも影響を与えるかもしれません。
ここで伝えたいのは、どこか特定の数字で採用サイトの成否を図るべきではなく、複数の指標の動向を見ながら、総合的に評価すべき、ということです。採用サイトで結果が出るかは、そもそも魅力的な採用活動ができているか、魅力的なオファーができているか、そして魅力的なブランドが確立しているかにも依存します。採用サイトは、あくまでそれらの経由地点にすぎません。
特定の数字の上限を見て、採用サイトが成功した・失敗したと安易に考えるのではなく、採用戦略全体の成果をブレイクダウンし、そのなかで採用サイトが与えた影響を総合的に掴んでいくのが、正しい採用サイトの評価の仕方と言えるでしょう。
(8)安易なコスト削減を目的にしている
企業の規模が大きくなると、転職エージェントや求人メディア、就活/転職系のイベント会社への支払いが数千万円から1億円を超えるようになってきます。
そうすると、採用にまつわるコスト削減を期待して、採用サイトが計画されることがあります。採用サイトによる採用コスト削減がいっさい期待できないとは言い切れませんが、おそらく多くの企業では、そこまで抜本的なコスト削減にはつながらないでしょう。なぜなら、有名企業を除く多くの企業では、認知経路を絶たれると採用サイトへの訪問数もエントリー数も減ると考えられるからです。
「採用サイトの充実=採用コストの削減」と期待してしまう一つの要因は、「採用サイトで認知ができる」と誤解しているからでしょう。しかしながら、採用サイトはあくまで受け皿であって、他に認知経路がなくなれば、それに合わせて訪問者が減っていくものです。もちろん著名な人気企業であれば、「企業名+採用」などでの流入経路がある一定は確保されています。ですが、多くの企業はそのような知名度がなく、コスト削減と称して転職エージェントや求人メディアへの露出を抑えると、認知経路を失い、採用サイトへの流入も減り、ということになりやすいです。
中長期的には、ブランドを作ったり、強いSNSアカウントを育てたりすることで、転職エージェントや求人メディアに頼らない採用活動は可能でしょうが、短期的にそのコストを下げようと採用サイトのリニューアルや充実を考えるのは、現実的ではありません。それよりも、転職エージェントや求人メディアで認知してもらってからの効果を最大化するための採用サイト、という考え方で充実させるべきでしょう。
まとめ
ここまで紹介した「間違った採用サイト」を反面教師として考えると、採用サイトは以下の3つのポイントを押さえて作られなければいけないと分かるでしょう。
- 企業ファーストではなく求職者ファースト
- 演出に頼らないコンテンツの質と量
- 全体的な採用戦略との整合性
このような観点から、みなさまの採用サイトを見直してみてはいかがでしょうか。