求職者ファーストとテクノロジー、“次”を見据えてUSEN-NEXT HOLDINGSが推し進める採用情報発信の“維新”とは

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2020年度の採用から、新卒採用とキャリア採用の垣根を越えた新しいリクルーティングプログラム「GATE(ゲート)」を開始した株式会社 USEN-NEXT HOLDINGS(以下、USEN-NEXT HOLDINGS)。企業と求職者が常に対等で「FAIR」であり、わかりやすく「SIMPLE」で、常に斬新で「INNOVATIVE」なリクルーティングシステムを目指している。
先進的な採用プロジェクトの狙い、随所に工夫を凝らした採用サイト、リッチな企業カルチャーやビジョンといった情報発信について、USEN-NEXT HOLDINGS 執行役員 コーポレート統括部長の住谷猛氏に語ってもらった。

経営統合をきっかけに働き方を改革、採用方法も一新する
――採用施策についてお聞きする前に、2018年から御社が力を入れてきた働き方改革についてお伺いしたいと思います。「Work Style Innovation」を掲げ、時間にとらわれない「スーパーフレックスタイム制度」や、場所を選ばない「テレワーク勤務制度」を推進するなど、2020年に起きた大きな社会の変化を先取りしたような取り組みがありました。「Work Style Innovation」はどんな経緯で始まったのでしょうか。
住谷 「Work Style Innovation」を始めたきっかけは、弊社の未来のビジョンが変わったからです。2017年12月にUSENとU-NEXTが経営統合し、USEN-NEXT HOLDINGSが生まれました。そのときに我々が唱えたコーポレートスローガンは「必要とされる次へ。」。お客様の店舗に対するテクノロジーを使ったソリューション提供やDXが、事業ミッションに変わりました。ならば、我々も未来のビジョンを実現できるように働き方を変えなければいけません。そこで始めたのが「Work Style Innovation」です。
大切にしたのは社員の自律性です。どういう働き方であれば一番成果が出るのか、または自分にフィットしているのか、社員自身がデザインして自らの働き方を決める。マネジメント側は性善説に基づき、時間、場所、その他の管理をしなくても社員みんなが一生懸命働くという前提で、社員に対して一定の規律のなかで自由を与える。そのほうが社員一人ひとりは個性や能力を発揮しやすいのではないかという議論をしました。
――「Work Style Innovation」の後に、リクルーティングプログラム「GATE」が始動しました。この経緯や狙いについても教えていただけますか。
住谷 経営統合後の2018年から、新卒採用においても今までの採用方法を一新し、就職活動の“当たり前”にとらわれないことを意識して、「超!全力採用」というテーマで取り組んできました。そこからさらに、新卒採用やキャリア採用を隔てることなく求職者の皆さんに我々のポリシーやメッセージを伝えられるものにしたいと「GATE」を始めました。
「FAIR」「SIMPLE」「INNOVATIVE」で企業理念を伝える

――リクルーティングプログラム「GATE」のコンセプトについて教えてください。
住谷 「GATE」のキーコンセプトは、「対等(FAIR)」「わかりやすい(SIMPLE)」「革新的(INNOVATIVE)」です。一定期間にいっせいに採用を行い、翌年4月にいっせいに入社する日本の新卒採用は、学生さんのためにならないと考えています。既成概念を取り去り、学生さんにとって本質的にいい就職活動はどういうものかを考え、このコンセプトが生まれました。これは新卒採用だけでなくキャリア採用にも通じることです。
「FAIR」は、求職者と企業は対等であるということ。企業側が上で学生は選ばれる立場だと思われがちですが、企業は選考するけれど、求職者に選ばれる立場でもあります。就職活動はFAIRであるべきだと考えています。
「SIMPLE」は、応募のプロセスの複雑さや無駄を省くということ。エントリーに必要な情報は、氏名・年齢・連絡先の3つだけです。エントリーをシンプルにした分、本当に働きたい会社はどこかをしっかり考えてほしいと思います。
「INNOVATIVE」は、既成概念にとらわれずテクノロジーを活用した採用を行うということ。我々は2018年からオンライン面接を取り入れていました。コロナ禍においては2020年2月時点で、「今年はオールオンラインで面接を行う」と決定しています。リアルの面接は新卒採用においていっさい行っていません。オンライン面接を2年前から実施していてオンライン面接のシステムや面接手法を構築していたので、スムーズに移行できました。
――先見性を持ってテクノロジーの導入やデジタル化に取り組んでいらっしゃるからこそ、コロナ禍においても完全リモートで対処できるわけですね。
住谷 何が求職者にとっていいことなのかを本質的に考えると、自ずと答えが出てくるものだと思います。2022年卒の面接も、オールオンラインにすると決めています。そのほうが便利だからです。多くの企業や学生さんは「オンライン面接では伝わらない」と言いますが、オンラインだからといって選考に関する情報が不足することはありません。
2022年卒からはエントリーシートをなくします。これまでも履歴書やエントリーシートでの選考は行わず、学歴や志望動機等では判断せず、エントリーしてくれた方全員とオンラインで面接しています。さらに「スマートPR」も実施する予定です。この施策ではスマホで90秒の自己PR動画を投稿してもらい、AIが診断して「もう少し大きい声のほうがいいですね」などとフィードバックをしようと考えています。これは選考ではなく、投稿してくれた学生さんへの就職活動支援です。テクノロジーがリクルーティングに入ることで就職・転職活動がどんどん便利になっていきます。
――「GATE」のキーコンセプトは住谷さんと人事チームで議論して作り上げたものなのでしょうか。
住谷 採用のコンセプトは、私やスタッフが議論して決めています。私は30年以上にわたり人事畑を歩んできました。その間に求職者にとっては、情報が豊かになりましたね。企業側で言うと、伝えたい人に向けてきちんとメッセージを届けることの難易度は上がったかもしれません。どうやって伝えるか感覚を研ぎ澄まして考えないと、伝えたいことをお届けできない状況です。双方が情報感度を高くもってお互いを探し合うことが大事になったのかなと思います。
また、弊社の人事部のメンバーが恵まれているのは、代表取締役社長CEOの宇野康秀が人材サービス会社のインテリジェンスを創業したHRのプロだという点です。そのため、人事部の新しい取り組みに対して理解があるのです。HRのプロフェッショナルが企業のトップである会社は意外と少ないのですよ。
――「GATE」という新しいリクルーティングプログラムにおける情報発信において、企業カルチャーやビジョンが果たす役割はどのようなものでしょうか。
住谷 一緒に働いてもらいたい方を探したり、その方へ「仲間に入って」と伝えたりするときは、理念やポリシーやカルチャーを伝えるべきだと思っています。たとえば誰かに愛を告白するとき、自分の社会的地位や経済力や年収は語らないじゃないですか。それよりも、自分は何を考えているか、一緒になる相手にはどうなってもらいたいか、相手のことをどれだけ大事に思っているか、そのためにどう行動するかを伝えるでしょう。会社も同じだと思うのです。企業理念や企業カルチャーや働き方を、実際に働いている社員を通して発信していくことが、あまたある企業情報のなかで自社の魅力を求職者へきちんと届けるために必要だと考えています。
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コンテンツ制作では1ミリ、1行、1語へこだわり企業理解を深める
――新リクルーティングプログラム「GATE」のウェブサイトでは「Inside the GATE」として、社員インタビューを掲載する「people」、プロジェクト報告や社内制度などを紹介する「culture」、CEOの人材論を動画で伝える「Online Seminar」とコンテンツが充実しています。コンテンツの質を保つためにどんなことを心がけていますか。
住谷 質を保つ最大のポイントは「こだわり」です。1ミリ、1行、1語に対するこだわりを徹底しています。体制に関しては、「こだわりがコンテンツの質を上げ、コンテンツの質が求職者の評価につながる」という道理を理解してくれるスタッフと組むことだと思います。
2022年卒の新卒採用のテーマは「就活維新 -RecruiTech for U.-」。「RecruiTech(リクルーテック)」とは我々が作った造語で、テクノロジーを活用した革新的なリクルーティングです。このクリエイティブを作るのに約2カ月かかりました。概念的なことだけを語っていても理解が進まないので、テーマワードによって理解を促すことは大事だと思います。この言葉を、弊社に応募してくださる学生さんが使ってくれるようになればと考えながら作りました。
――新リクルーティングプログラム「GATE」における情報発信により、求職者からはどのような反響があったのでしょうか。
住谷 定性的には、新卒採用もキャリア採用も応募者は必ず採用サイトを見てくれていて、我々の企業理念やカルチャーに対する理解が深まった上で面接に来てくれます。カルチャーフィッティングという選考の大切な要素の一つにおいては、非常に効果があったと思います。
定量的には、「GATE」以前は内定承諾率が55.9%だったのに対し、2021年卒は63.3%になりました。ちなみに経営統合前の承諾率は37%で、これは日本企業の平均的な数字だと思います。
――情報発信は求職者へメッセージを届けるだけではありません。それを社員が読むことで企業理念を共有し、さらに彼ら自身がメディアとなって自社の理念を発信していく効果もあると思います。
住谷 そこは強く意識しています。オウンドメディアについては、社員に向けたインターナルメディアと新リクルーティングプログラム「GATE」を通した外に向けた情報発信、どちらにおいてもポリシーが通っていることが大事だと考えています。両者のバランスが少しでもずれると、自社の真髄が伝わりにくくなると感じています。情報発信におけるポリシー作りや言葉選びはものすごく考えています。
既成概念にとらわれない採用施策がスクリーニングにもなる
――最後にニューノーマルの時代において、どのような情報発信をしていきたいと考えているか教えてください。
住谷 お陰様で「GATE」は求職者の皆様から評価いただいていますが、オウンドメディアだけでリクルーティングができているかというと、エントリー全体から見ればまだ限られています。オウンドメディアをもっと強化して、人材エージェントや採用メディアへの依存から脱することを目指します。人材エージェントや採用メディアによるコミュニケーションが1対大勢なのに対し、オウンドメディアでは求職者と1対1のコミュニケーションができます。これは企業理念の理解や企業カルチャーへの共感という点で有効です。オウンドメディア内のコンテンツを強化し、理念とメッセージをしっかり伝えていきたいですね。
もう一つは、AIによるフィードバックをさらに進化させ、いずれはAI面接を行いたいと考えています。面接官は通常、エントリーシートのテキストデータや面接の音声データや画像データの解析を行い、過去の合格者や社員のハイパフォーマーとプロファイリングして合格不合格を決めています。そう考えると、AIはデータ解析が得意なのでできるはずです。最終的には人間が決めますが、AI面接なら深夜でもいつでも求職者がアクセスすれば面接できるので、オンライン面接よりも便利になります。
――AI面接については「慎重にすべき」という声も出てきそうです。
住谷 仕組みやメリットをしっかり説明すれば一定の求職者の方には受け入れていただけると思いますし、むしろそういうことに共感してくれる人に来てもらいたいと考えています。「超!全力採用」でも「GATE」でも我々は振り切ったことをやっていますが、共感してくれるような求職者が弊社のカルチャーにフィットするはずだという、ある種のスクリーニングもしています。
日本の人事は少し古いのではないかと考えています。いろいろな会社の若い人事担当者に弊社の事例を話す機会がありますが、みなさん目を輝かせて聞いてくれます。ただ、それを会社に持ち帰っても「受け入れてもらえない」と言います。それはすごく寂しい。新しい採用テーマである「就活維新」のもと、我々は日本の就職活動をぶっ壊しにいきます。
昨年12月には、コロナ禍でアルバイト収入の減少や家庭の経済状況の悪化などによって学費の支払いが困難になり、大学中退を余儀なくされる学生を救うため、「USEN-NEXT SCHOLARSHIP」というコロナ対策就学支援・就職支援制度も新設しました。卒業までの学費を当社が奨学金として貸与するだけではなく、同時に、在学中から正社員として働く「Student Worker」として採用することで、就学を継続するための仕事を提供し、収入をサポートします。在学中から正社員として採用することで、大学卒業後にそのまま仕事を続けていただくことも可能です。本制度を通して、一人でも多くの方の学業を継続できるよう全力で応援していきます。
人事施策についていろいろと話すと「住谷さん、そんなことまで話しちゃって大丈夫ですか。真似されますよ」と言われます。むしろ我々はみなさんに真似してもらい、我々のやり方が日本のいろいろな会社に広がってほしいと考えています。なぜなら、僕らの取り組みが求職者や就職活動の学生さんにとって本質的に正しいと確信しているからです。「真似されたら差別化できなくなりますよね」とも言われますが、各社が真似できた頃には僕らはもっと先に行っているので大丈夫です。