コロナ禍でも成果を上げる企業から「採用ブランド」を学ぶ ――「高付加価値人材と出会うための採用ブランド論」vol. 3

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外的要因に左右されず自社の魅力を求職者に訴求できる「採用ブランド」の作り方を紹介してきた、株式会社むすびの深澤了氏による連載寄稿「採用ブランド論」。第3回は、長引く人材不足に加え、コロナ禍による混乱も発生している状況下でも採用に成功している企業の事例を紹介します。成功企業には「コンセプトに忠実」「社員を巻き込むこと」「時流に合わせた応用」という共通点がありました。
深澤了氏。むすび株式会社 代表取締役 ブランディング・ディレクター クリエイティブ・ディレクター。早稲田大学商業学部卒業。山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。同グループの広告代理店にてCMプランナー、コピーライターとして活躍し、株式会社パラドックスへ入社。株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)と協業し、多くの企業の採用施策に携わる。2015年にむすび株式会社を設立。「採用ブランディング」という新たな理論を構築し、企業の採用成績向上に貢献している。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。著書に『知名度が低くても“光る人材”が集まる 採用ブランディング 完全版』などがある。
今こそ「本質的」な採用に取り組むべき
1回目、2回目と「採用ブランディング」について紹介してきました。企業が自社の「ブランド」を軸に採用施策を行うことで、外的要因や規模・知名度に関わらずマッチ度の高い求職者にアプローチできるのです。
今回は企業の例を紹介していきますが、まずは現在の採用状況について考察していきます。長らく続いた「売り手市場」から、新型コロナ感染症の影響により新卒も中途も求人数が激減して「買い手市場」になっているというのは、皆さんも現場で感じられていると思います。しかし、私が採用代理店の関係者にヒアリングしたところ、中途採用市場は回復傾向にあるようです。
その理由は、これまで中途採用でなかなか成果を上げることができなかったような企業が、昨年と比べると買い手市場である現状をチャンスと捉えて求人広告を出しているからだと予測できます。
さらに、建設や小売など人が集まりにくかった業界・職種にも多くの応募が集まるといった、これまでの人手不足の状況では考えられなかった現象が起きています。2021年も多くの企業で採用の見送りや採用数を減らすことが予想できますので、今採用を考えている企業はまさにチャンスだと考えていいでしょう。
一方で、現在の買い手市場では「タチの悪い」採用が起きることも予想されます。簡単に母集団が集まるがゆえ、採用慣れしていない企業はどんどん内定を出してしまうのです。すると入社してからミスマッチが多発し、早期退職につながってしまいます。俯瞰して見ると、まだ「集まらなかった時代」のほうが、予算も使わずにすむのでよかったということになりかねません。今採用に取り組む企業は、単なる数合わせの採用ではなく、マッチ度の高い人材にアプローチする、より本質的な採用施策を進めていくべきでしょう。
では、ここから採用ブランディングにより成果を上げている企業の最新事例を紹介するとともに、共通する成功のポイントを見ていきます。
「売り手市場」「買い手市場」と採用の関係を分析した曽和氏の寄稿記事はこちらへ
コロナ禍でも採用に成功した2社のケース
1社目は、企業へエンジニアを派遣するサービス、いわゆるSES(システムエンジニアリングサービス)を本業とするA社です。A社は採用に苦労しており、19年入社の新卒採用の結果は0名。一方、売上は好調のため、コンスタントに人材を採用していく必要性がありました。
そこで、A社は全社員を巻き込んだ情報発信に取り組みました。A社が採用したいペルソナ(人材像)にマッチした人材へアプローチするために選んだツールはSNSのTwitterです。最初に社長や役員が率先してTwitterに取り組み、自社の採用コンセプトを発信。それに追随する形で、多くの社員がTwitterを活用した情報発信に取り組むようになりました。その結果、Twitter経由で複数名を採用できたのです。20年卒採用は10名、21年卒採用に関してはすでに15名の内定承諾を得ています。
「どうしたらSNSをうまく活用した採用を行うことができますか」と質問をいただくことがありますが、答えは「採用コンセプトに基づき発信し続けること、しかも社員を巻き込んで」ということに尽きます。まさにA社はこれを実践したのです。
続いては、車やバイクなどのパーツを販売する小売業のB社です。20年卒の採用は15名入社でしたが、企業の成長を考えると30名は採用したいというのが本音でした。
そこでB社は採用したいペルソナ(人物像)を「車やバイク好き」と明確化した上で、様々な採用施策を展開していきました。なかでもユニークだった取り組みが「愛車で来社できる説明会」。求職者が自分でカスタマイズした車やバイクで集まった店舗で、説明会が開催されたのです。自分の自慢の愛車を紹介でき、しかも現場の社員からプロとしてのアドバイスももらえる。これは非常に好評で、多くの人を集めました。
またB社は、コロナ禍におけるオンライン採用にも素早く対応。会社説明会をオンラインで毎日開催することにしました。コロナ禍での就職活動に戸惑っている学生に対し、オンラインで開催する代わりに回数を増やして、きめ細かくフォローを行うことで内定につなげていきました。21年入社の内定承諾は31名。みごとに目標を達成したのです。
採用ブランディングを成功している2社に共通しているのは
- コンセプトに忠実な採用
- 採用に社員を巻き込む
- 時流に合わせた柔軟性
と言えるのではないでしょうか。
A社・B社の施策は異なりますが、ともに採用ブランディングの手法でコンセプト・採用フローを設計しています(1)。それを全社に波及させ、採用活動を実施(2)。採用においては、社員が採用を全社の問題として捉え、主体的に動くことができるかが重要。また、採用担当者が動きやすい状況を作るためには、社長や役員の理解が必要不可欠です。その上で、柔軟性(3)を持って、オンラインやSNSツールなどを積極的に活用していきましょう。
以上の3点が、新型コロナウイルス感染症による混乱のさなかでも、両社が採用を成功に導くことができた要因だと分析できます。
今回で紹介した2社の施策は「新卒採用」のものですが、採用ブランディングにより自社の強みを伝える考え方は、どの採用においても参考になるのではないでしょうか。
採用ブランドを築くには、採用の評価を変える必要がある
これまで3回にわたって「採用ブランディング」の手法を紹介してきましたが、企業が「採用ブランド」を作り上げていくためには、もう一つ欠かせないことがあります。それは採用担当者の評価を「数」だけで評価しないことです。
採用の本質は「自社の未来を作る活躍人材」を採用すること。理念に共感した人の入社は、やがて売上に結びついていきます。自社の理念や価値観を土台に「コンセプト」を作り、それを理解してもらう採用ブランディングの取り組みは、従来の「採用してから教育」ではなく、「教育して採用する」という活動です。採用の本質に立ち返り、自社の採用に関する評価軸を捉え直す必要があります。
たとえば、入社後アンケートなどで自社理念の理解度を測ったり、中長期的な視点で入社後の活躍を検証したりするのもいいでしょう。ブランディングを用いた採用により、いかに自社にマッチした人材が採用できているかといった指標を作ることが重要です。
未来の採用は「理念」でつながることが重要
これから先は、副業を行う人やフリーランスを選ぶ人がますます増えていきます。2020年3月に私たちが行ったインターネット調査(全国の20〜60歳のビジネスパーソン540名が対象)によると、「副業・フリーランス」に興味のあるビジネス・パーソンは6割を超え、そのなかで「実際に始めている、あるいは予定している」人の割合は2割を超え、「検討している人」は約4割となっていました。「副業が好調な場合はフリーランスになりたいか?」という質問には、全体の6割を超える人が「はい」と答えています。
企業はこれまでのように正社員を抱えるだけでなく、外部のフリーランスや他社に雇用されていながらも副業をしている人たちといかに良好な関係を築き、「人材化」していくかに取り組む必要が出てくるでしょう。
そのとき重要なのは「理念」です。フリーランスの人たちは企業に縛られない分、自分のやりたいことや目指すことが依頼業務と合致していることを重視するようになってきます。もちろん、フリーランスのなかには自社を退職した「卒業生」もいることでしょう。彼らとも理念を共有し、良好な関係を保ちながら継続的に手を取り合うべきです。
自社の正社員を育てていくだけでなく、理念のもとに人を集め、ともに企業を成長させていける「コミュニティ」を作っていく、という視点を持つことが大切です。その入り口にあるものが「採用ブランディング」であり、これからの採用や企業の成長のためにとても重要なものになると、私は考えています。