“熱狂”をキーワードにイノベーションを狙う。テイクアンドギヴ・ニーズが実践する創造と挑戦の情報戦略

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ウェディング業界最大手の株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ(以下、T&G)は1998年創業。2001年には直営店型ハウスウェディング事業を開始し、日本でハウスウェディングという新しい市場を創造した。2016年にはグループ会社として株式会社TRUNKを設立してホテル事業を開始。2018年以降は「ホスピタリティ産業にイノベーションを」というミッションを掲げ、さらなる進化を遂げようとしている。
採用サイトはチャレンジ精神と多様な想いを受容する姿勢が反映されており、現職の社員だけでなく退職者のインタビューも掲載することで、求職者がT&Gでの仕事を通して「どうなれるのか」を具体的にイメージできる発信を行っている。そんなスタンスの根底にある企業のストーリーとは。
イノベーション創出のために必要な「熱狂」を生み出す人材の採用を狙う同社の情報戦略について、人事部の後藤大輔氏に話を聞いた。

新たなミッションに照らして、求める人材像を明確に言語化
――ブライダル業界において先進的な取り組みをされているイメージに加え、グループ会社ではホテル事業もされており、一つの事業に留まらず積極的に事業領域を展開していこうという印象を、それぞれの情報発信から受けます。企業としての事業方針を踏まえ、求める人材像や採用施策について教えていただけますでしょうか。
後藤 当社の採用サイトは2020年4月にリニューアルしているのですが、その背景には2018年に定めた「ホスピタリティ産業にイノベーションを」という新しい長期計画があります。
約20年前、創業当時はハウスウェディングという新しい結婚式の形を創りウェディング業界にイノベーションを起こしました。そこから周辺事業にも力を入れながらグループとして成長してきたわけです。あらためてホスピタリティ産業にイノベーションを起こし、さらなる成長を目指そうというときに、どういった人材に来てもらいたいのか、どういった人に選んでもらえる企業になるべきか、新たに人材像も定義し直しました。
採用サイトでも大きく打ち出している「創造」「挑戦」「誠実」「貢献」、この4つを持った方に働いてほしいと考えています。
――「創造」「挑戦」「誠実」「貢献」の4つは、具体的にどのようなものでしょうか。
後藤 「創造」は、常識や過去にとらわれず「こんな未来を作っていきたい」とビジョンを描けている人。新しいものを創り出すことが好きな人。これは社名にも表れているのですが、世の中のニーズをテイク(汲み取る)して、それを満たす新しいサービスをギヴ(提供)していくこと。その時に、誰かがすでに汲み取ったニーズの真似ではなく、一番に汲み取るということを大切にしています。
一番に汲み取るためには「挑戦」も必要です。もしかしたら失敗するかもしれない。それでも踏み出せる勇気がある人、自分が挑むだけでなく挑戦する仲間を応援できる人を求めています。
「誠実」は、目の前にいるお客様を喜ばせることに対して一生懸命になれる人。お客様だけでなく、一緒に結婚式を創る仲間、取引先様、関わってくださる方全員に対して誠実に向き合えることも大事です。
最後に、「貢献」は目の前にいる人に対して精一杯エネルギーを注げる人であること。
これら4つが揃った人になる可能性があるか、ベースとしてこうした価値観を持っているかどうかを採用活動において見極めます。
企業のフェーズや戦略に合わせ、発信する情報をアップデート
――シンプルかつ明確にイメージが言語化されているのですね。そうしたポテンシャルを持つ人材に応募してもらうため、採用においてどのようなことに気を付けて情報発信をしているのでしょうか。
後藤 採用サイトのメインターゲットとしては、次世代を担う幹部候補を中心に、「ウェディング会社はちょっと…」と避けてしまっているような男性にも伝えたい思いがあります。どうしても「ウェディング」というと女性のイメージが強いようで、男性からの応募が比較的少ないという課題があります。そこで、採用サイトは華やかでかわいらしいウェディング色を抑え、モノトーンで力強い印象のキラーメッセージを押し出すようにしています。「創造」「挑戦」「誠実」「貢献」のキーワードで考えると、「誠実」「貢献」よりも「創造」「挑戦」の比重を高めています。

――リニューアル前のサイトは、現在とはかなり違うイメージのものだったのでしょうか。
後藤 そうですね。リニューアル前のサイトは華やかでウェディング色が強めでした。でも実は、さらにその前は、今よりもっと創造・挑戦に振り切っていたんです。というのも、会社創設から10年経たないくらいの時はベンチャー色を前面に出していたんですね。実際、会社も超急速成長期で毎月のように新店がオープンしていました。当時のビジョンは「生活総合カンパニーを目指す」。ウェディングから派生してライフスタイルに欠かせない企業になるという未来図を描いていました。ちょうどその頃、僕は就職活動をしていたのですが、今でも鮮明に覚えているのが会社説明会の冒頭で「ウェディングプランナーを目指したいなら帰ってください」と言われたことです。当時の人事部長に、冒頭一発目で(笑)。それくらいビジョンに向けて突き進む姿勢を押し出していました。
そうして急成長してきたのですが、中身が追いつかず業績が大きく落ちた時代があったんです。2007〜2008年頃が一番しんどい時期で、もう一回本質に立ち返ろう、その後の人生も豊かにするような素晴らしい結婚式を作ることに注力していこうということで、企業理念を「人の心を、人生を豊かにする」に定め、今で言う「誠実」「貢献」寄りの採用活動を行いました。ここがさきほどの“華やかでウェディング色が強め”という段階ですね。
そうしていったんウェディングをベースに足元を固めたところで、今一度さらなる成長に向け、現在の「創造」「挑戦」を重視したイメージに変更したという流れになっています。企業としてのフェーズとその時々の戦略に合わせて、発信の内容を変化させてきたということですね。
社員が“実現したことに”フォーカスし、T&Gの未来像を見せる

――採用サイトでは、社員のインタビューが「キャリアプラン」というタイトルで紹介されており、一人ひとりがどういう成果を出したか、どのような挑戦をしているかについて語っています。T&Gではどんな働き方ができ、何が実現できるのか、求職者にわかりやすく書かれていると感じました。
後藤 そうですね。「キャリアプラン」では、現在働いている先輩社員の“人”にフォーカスというよりは、その人がどんなことを任されているのか、どんなことをT&Gで実現しているのかが伝わるような内容にしています。
当社は性別、年齢に関係なくキャリアアップできることも特徴で、30代半ばで部門長を任される社員もいます。また、女性従業員比率も高く、結婚、出産などライフステージの変化に合わせた活躍の仕方や価値の生み出し方も、ここから感じとっていただけたらと考えています。
――一方「SPECIAL CONTENTS(スペシャルコンテンツ)」では、すでに退職して別の会社や分野で輝かしいキャリアを歩む方のインタビューも掲載していますね。退職者というと一見ネガティブに捉えられがちですが、一箇所に留まれないぐらい熱量を持っている社員が集まっているという肯定的なイメージが求職者に伝わるように思います。
後藤 T&Gで活躍してくれたからこそ羽ばたけるパワーがつく、業界の外に飛び出しても引く手数多ということを伝えたいと思い、「スペシャルコンテンツ」を設けました。本人が挑戦したいならその背中を押すという企業風土が根付いているのも当社の特徴的なところだと思います。もちろん優秀な方には留まっていただきたいのが本音ですが(笑)。
“退職”というよりは“卒業”というイメージなので、退職後も関係性はとてもよく、このインタビューも快く引き受けてもらえました。社長から本人に直接アポイントを取る場合もあります。退職しても結婚式は当社で挙げるという社員も多いですね(笑)。

コロナ禍でも「強気」の攻め。SNS活用で共感と接点の両方をカバー
――企業のフェーズや戦略の変化に合わせてリニューアルを実施されたということでしたが、発信内容を変更してから採用にはどのような変化がありましたか。
後藤 コロナ禍の状況だとサービス業界自体が敬遠されがちなので、数字として伸びたかというとそうでない部分もありますが、当社に興味を持っていただいた方の声の色が変わったところはあります。「チャレンジできる会社」「未来の可能性が楽しみな会社」や、「コロナ禍なのにすごく強気な会社」という声もいただきました。
現在採用をストップしている会社も多いなか、メッセージ性の強い採用サイトで活動を続けていたという点で、「こういう状況下でも新しい挑戦を続けるんだ」「逆境もチャンスと捉えて常に勝機を見出していけるんだ」「ここぞというときにアクセルを踏めるように準備をしておくんだ」ということが応募者に伝わったのだと実感しました。
――コロナ禍で今までやってなかった採用に関する取り組みはありますか。
後藤 今までリアルで行っていたことができなくなり、Instagram「takeandgiveneeds_recruit」やTwitter「テイクアンドギヴ・ニーズ 採用」を積極的に活用するようになりました。
特にInstagramのライブ配信(インスタライブ)では社員同士の対談を活発に行っており、社風やどんな人が働いているのか、社員同士どんな関係性なのかといった企業風土やカルチャーが伝わりやすくなっていると思います。
Twitterに関しては、社員紹介や、採用メンバーの写真の掲載など、小さな接点の積み重ねでロイヤリティを高めることを意識しています。
直接お会いすることが以前のように気軽にできない状況だからこそ、事前に情報を伝えておくことで、実際に対面で接した際により高い価値を感じていただけるという効果があるように感じています。
世界を変える「熱狂」を生み出す人材に向けて、トータルで情報発信をデザイン
――これまで以上に世の中の変化が加速し、常識や秩序が塗り替えられていくと言われています。そんななか、ミッションにも掲げられている“イノベーション”を起こす人材の要件と、そうした人材を獲得するためのオウンドメディアリクルーティングの役割について、どのようにお考えでしょうか。
後藤 イノベーションには、「ニーズを汲み取る力」「それを発信していく力」「周りを巻き込む力」が必要だと考えています。当社の事業はやはりベースとしてウェディングがあり、この仕事で「一人でできること」はほぼありません。何事も周りのメンバーと協力して作り上げていく。今後は当社でも新たにホテル事業を展開していきますが、新しい分野に進出していくときにも、やはり一人ではなく「あなたのためなら一緒にがんばるよ」と言ってくれる人をどれだけ作れるかが大事だと思いますね。
そう言う意味では、少しありきたりですが「周りを巻き込むこと」がやはり重要になるのかと思います。まだ世の中に広く認知されていないニーズを形にしていくことは苦しいことですし、とても不安なことだと思います。そこを突破するためには、自分のことを信じて協力してくれる仲間の存在が不可欠です。そうした人の集まりが「熱狂」を生み出すわけで、大小問わずそれを作り出せる人を求めているのかもしれないと、今日話をしながら思いました。「周りを巻き込む」と言うと強いリーダーシップのようなニュアンスを感じますが、必ずしもそれだけではありません。自然と人が集まって動いていく、そんな人にも届くような発信ができれば良いと思っています。
不特定多数の人に向けて文字だけで全く同じ考えを共有することはとても難しいものだとあらためて感じます。企業の文化や空気を正しく伝えていくには、サイト全体の作りやコンテンツの目的も含めて、トータルで情報発信をデザインしていくオウンドメディアリクルーティングの考え方は今後必須になってくると感じています。