“求職者第一”の情報発信を徹底する、マクドナルドのオウンドメディアリクルーティング

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新型コロナウィルス感染者拡大という激しい風が吹き荒れた2020年。そんななか“求職者第一”を軸にしたオウンドメディアリクルーティングで採用者数を伸ばし続けてきたのが、全国に約2900の店舗を持つ日本マクドナルド(以下、マクドナルド)だ。
2020年におけるクルー(アルバイト)の応募者数は前年の約2倍。クルーの数は前年の約15万人から約16万人に増加(2020年12月現在)。クルーの採用チャンネルにおいてオウンドメディアが占める割合も倍増したという。マクドナルドの採用手法とはいかなるものか。“求職者第一”の取り組みが評価され、「Owned Media Recruiting AWARD 2020」を受賞した同社のオウンドメディアリクルーティングについて、同社でクルー採用を統括する宮沢泰成氏に話を伺った。

採用チャンネルに占めるオウンドメディアの比率が急上昇した2020年
――2020年はコロナウイルス感染症の広がりを発端として、大きな社会変化が起きた1年でした。全国に約2900店舗を展開するマクドナルドにとっても、ビジネスを取り巻く環境や求人環境に変化があったと思われます。
宮沢 ご承知の通り、2020年は本当に思いもよらないことが起きた1年でした。マクドナルドでは、お客様や従業員の安全と健康を最優先に、新型コロナウィルスの感染拡大防止に努めながら、「来店されるすべてのお客様に、いつでも最高のお食事体験をご提供すること」を目指して日々取り組んでまいりました。そのような環境のなかでも、ドライブスルーやテイクアウトといった当社が長年大事にしてきたサービス、および近年始めたモバイルオーダーといったサービスに注力してきた結果、多くのお客様にご利用いただけています。
ビジネスが伸びれば、当然ながら人員も増やさなければいけません。そんなことから人事本部でも採用強化を図っているところです。
――実際、クルーの採用者数や応募数はどれくらい増えたのでしょうか。
宮沢 2019年比で言うと、応募数は2倍といったところです。社会全体で見ても有効求人倍率が2019年までは1.6倍とかなり求人難だったのですが、現在は1.03、1.04と、企業にとって非常に採用しやすい環境にあります。
――コロナ禍で人々の行動が制限されているなか、オウンドメディアを含むクルーの採用チャンネルに変化はありましたか。
宮沢 採用チャンネルで言うと、元々リファラル採用がすごく多いのが弊社の特徴で、特にクルーについては2019年までは6割近くを占めていました。オウンドメディアや求人媒体からの採用は約3割でした。
それが2020年の3月以降は大きく変わって、オウンドメディアと求人媒体からの応募が6割近くを占めるようになりました。オウンドメディア単体で見ると、コロナ前は約2割だったのが約4割に倍増しています。全体の採用数自体も増えているなかで、特にデジタルからの採用や応募が伸びている状況にあります。
多くの方が外出を控えているなかで、アルバイト探しもインターネットを使うようになっており、生活スタイルの変化が数字として現れています。当社としては3、4年前から少しずつ応募のデジタル化を進めていました。こうした事態を予想していたわけではないのですが、デジタル化を推進してきて良かったと感じています。
自社についての情報発信は、求職者第一と正直ベースを心がける

――オウンドメディアからの情報発信で、特に企業の理念・ビジョン・カルチャーを伝えるシェアードバリューコンテンツについて、工夫されていることはありますか。
宮沢 ビジネスはお客様第一です。採用の仕事で言うなら求職者第一で、求職者の目線を大切にしたいと常々考えています。オウンドメディアリクルーティングについても、まずEVP(Employee Value Proposition=企業が従業員に与える価値)を検証した上で情報発信することにしています。
日本に限らず世界中のマクドナルドではEVPを「Flexibility(フレキシビリティ)」「Family and Friends(ファミリー アンド フレンズ)」「Future(フューチャー)」という3つの「F」で考えています。
「Flexibility」は2つあり、1つ目は「時間」です。「希望スケジュール」を毎週提出していただき、そのなかからシフトを作っていくスタイルを取っています。そのため希望の範囲内のスケジュールで働くことができ、基本的には「週1回、1日2時間」からの勤務が可能です。主婦の方であれば、お子様の学校行事に合わせたり、学生の方であればテストの時期を避けたりと、それぞれの都合やライフスタイルに合わせて働くことができます。2つ目は「職種」です。マクドナルドは様々な仕事を細分化しており、作業内容はそれぞれのクルーの方に合った仕事をしていただいております。たとえば、ちょっと引っ込み思案な方だったら店頭には立たず、厨房でポテトを揚げてもらうなどしていただきます。
「Family and Friends」は、家族みたいに仲の良い職場でありたい。学校の部活みたいに、クルーがお互いにコミュニケーションを取って信頼関係が構築できる職場を提供したいと考えています。
「Future」には、生涯にわたって役に立つスキルを得られる職場にしたいという願いが込められています。目上の人に対するコミュニケーション力や電話応対といったビジネスマナーなど、マクドナルドで働いていると就職した後に活きることが多々あります。
大切なのは、これらの価値をどう伝えていくかです。求職者にとっては人生の一つの岐路に立つわけですから、情報の発信についてはかなり工夫しています。
たとえば、2020年は過去にマクドナルドでアルバイトした経験があるお笑い芸人やプロスノーボーダーの方に登場していただく動画のコンテンツを流したり、以前にはクルーを題材したアニメのショートムービーを作ったりと、さまざまな角度から情報発信を試みています。同時に、そうしたコンテンツを介してマクドナルドという職場のブランディング化を図っている面もあります。
2019年7月時における日本マクドナルドの採用施策はこちらの記事へ
――オウンドメディアでの求人情報の発信について、店舗と人事本部の役割分担はどうなっていますか。
宮沢 採用サイトのページ管理は本社で行っていますが、そこからリンクしている各店舗の詳細ページについては、各店長が店舗のセールスポイントを書き込んだり、自慢のクルーの写真を載せたりというように店舗側で自由に作れる形としました。
以前は本社サイドで一律に作成していたのですが、2020年の2月にシステムを変え、各店舗のページの主導権は基本的に店側へ移しています。一部、ブランドの一貫性や個人情報、機密情報などを守るため本社側でもチェックはしています。偶然ですがコロナ禍が始まる前に、各店舗オリジナルの情報を増やすことができたのは幸いでした。コロナ禍のような状況において求職者は不安になっています。情報がきちんと充実していて、かつ、その店舗らしさが表れているほうが安心できると思うからです。
マクドナルトには、10代の学生さんもいれば、最高齢で90歳を超えている方もいます。当社では60歳以上の方をプレミアムエイジと呼んでいるのですが、皆さん通常のクルーと同じように応募されて働いていらっしゃいます。外国人クルーが多いのも特徴で、職場では世代や国籍に関係なくコミュニケーションが生まれています。そういった意味で、いろいろな楽しみがある職場だということも発信していきたいです。
マーケティング経験を活かし、データ重視の採用戦略を構築

――宮沢さんは2015年に人事本部へ来られるまではマーケティング本部で活躍されていました。マーケティング手法は、採用施策にどう活かされていますか。
宮沢 人事本部に来て感じたのは、データが整っていないということでした。マーケティング本部では各ファネルでしつこく数字を追っていくけれど、採用の場合はそこまで突き詰めておらず、KPIもありませんでした。クルーの全体数までは把握できていても、どこの店に何人必要だとか、足りているのか不足しているのかといった指標がありませんでした。
これは考え方の違いで、クルーの採用や増員計画は店舗側の仕事であって、本社は関与しませんというスタンスだったのです。ただ、ビジネスを伸ばしていくにはニーズを把握する必要があります。ニーズがわかれば人事本部でも支援できるからです。そこで数年かけて各店舗の採用状況を瞬時に把握できる体制にしました。
――クルー採用に関して、オウンドメディアでの情報発信のほかにも取り組まれていることはありますか。
宮沢 マクドナルドは日本中に店舗がありますから、全都道府県をカバーするという意味で、これまではテレビCMを中心としたマスメディア中心でした。
そのなかで、今年チャレンジしてみたのがデジタル広告です。デジタルはテレビに比べて長時間の訴求が可能ですし、セグメントによりメッセージを変えることができます。今は若い方だけでなく60歳以上の方でもスマホを使いこなしている時代です。そこで、YouTubeの動画でも年代層別に情報や表現方法を変えてみました。また、デジタルだと数字が読みやすいというメリットもあります。
――今後、オウンドメディアリクルーティングの施策に関して、展望がありましたらお聞かせください。
宮沢 繰り返しになりますが、採用を担当する者として“求職者第一”にはこだわっていきたいです。私たちが発信したい情報はもちろん、それ以上に求職者の方が知りたい情報をお伝えしていく姿勢を忘れないでいたい。2021年は、デジタル化を含め新しいことに求職者目線で取り組んでいきたいと考えています。