Webマーケティングの手法を活用し、ニューノーマルでも成果を出すナイルの採用情報戦術

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Webマーケティングを軸に、デジタル支援事業、メディア事業、モビリティ事業など、多様な事業を展開するナイル株式会社。自社とマッチする候補者に向けて必要な情報を届ける「採用狭報」と、幅広い求職者に情報を届ける「採用広報」など、Webマーケティングの手法を取り入れて自社の採用課題を解決する「採用マーケティング」の取り組みが評価され、「Owned Media Recruiting AWARD 2020」に入賞した。
自社が得意とする手法を取り入れてオウンドメディアリクルーティングを実践しているナイルの採用グループマネージャー 渡邉慎平氏に、2020年の成果と2021年の抱負を聞いた。

2020年はサイト改善やTwitterによる採用広報を実行し、成果を上げる
————「Owned Media Recruiting AWARD 2020」の受賞、おめでとうございます。
渡邉 ありがとうございます。2020年は採用活動も大きく変わりましたが、年末にこのアワードを受賞したことが大きな実績となり、とても嬉しかったです。経営陣も喜んでいました。ナイルは未上場のベンチャーではありますが、上場している大企業と共に受賞できたのは、これまでの取り組みの集大成として評価されたと思っています。オウンドメディア「ナイルのかだん」だけでなく、採用サイト「NYLE RECRUIT」も含めて興味・関心を寄せていただき、全体で評価していただいたことは大きな成果ですね。
2020年2月時点におけるナイルの採用施策を包括的に紹介した記事はこちらへ
————あらめて、2020年の採用活動について、どのような取り組みをし、どのような成果があったのかをお聞かせください。
渡邉 まずはここ1、2年の採用実績と、採用チームの体制変化からお話ししますね。2019年、2020年といずれも100名規模の採用実績で、そのうち半分が中途採用です。
採用チームについては、2019年はじめ時点ではまだ2名体制で、私もプレーイングメンバーとして業務に当たっていました。2020年末時点で6名のチーム体制になったので、私はマネージメント、採用マーケティング、採用広報業務に時間を割けるようになりました。
2020年に採用成果へつながった取り組みとして挙げられるのは、「採用サイト改善」と「社員のTwitterによる発信」の2つです。
まず、自社の採用サイトで取り組んだのは職種別ランディングページ(LP)の立ち上げです。ナイルではジョブ型採用を行っているため、募集ポジション数が50以上に細かく分かれており、求職者が見た時に自分に合うポジションがどれなのかわかりづらいという課題がありました。そこでセールス、エンジニア、マーケターといった職種ごとにまとめた職種LPを作成し、求職者が自分にあった職種ごとに募集ポジションを探しやすくしました。
LPをリリースした後は、Googleアナリティクスでユーザー遷移データを見ながらLPO(Landing Page Optimization)行い、募集ポジション情報や関連記事の掲載方法、応募導線を改善していきました。結果として、昨対比でPV10倍、求人クリック数4倍、応募CVR1.5%改善という成果を残すことができました。
行った施策自体はWebマーケティングの基本的な取り組みで、マーケ担当者なら当たり前という感覚でしょう。ただ、人事だけだと具体的な施策を実行できない場合もあると思うので、Webマーケティングの実務ができる方にサポートしてもらいながら進めていくのが現実的かもしれません。Webマーケティングを人事や採用広報の文脈でしっかり行うことが大切だと思っています。

もう一つ成果として挙げられるのが、現場社員によるTwitter道場です。もともとは採用文脈での施策ではなく、事業部主体の取り組みとして2019年末頃に始まりました。事業部側が「自分たちのマーケティング領域を広げたい」ということで顔と実名を出し、会社や業務のこと発信する機会が増えた結果、オープンなカルチャーだということが伝わって、面接でもTwitterを見て興味を持ちましたと言う方が増えました。
採用広報というと人事担当や広報担当による発信や、採用オウンドメディアを運営することのイメージが強いです。ただ、広く報(しら)せたり、会社のカルチャーを求職者に感じてもらったりする点では、現場で働く社員の生の声が効果的だと感じます。
採用サイト改善やTwitter道場などの取り組みの結果、2019年と比べて自社サイトからの応募数が2倍、「ナイルのかだん」のセッション数も2.5倍になりました。また、全体における内定承諾率も向上しました。
オウンドメディア「ナイルのかだん」でもマーケティング視点を導入
————「ナイルのかだん」による情報発信においても、数字に基づいたマーケティング視点を取り入れているのでしょうか。
渡邉 「ナイルのかだん」の記事読了率を見て、応募者のWeb行動がわかるようになりました。
たとえば記事読了率は、新規ユーザーだと半分もいかないくらいですが、リピートユーザーだと約2倍になっているんです。この差は何かというと、リピートユーザーは弊社に応募している方なんです。面接前に「この記事を読んでください」とこちらから情報を伝えているので、きちんと最後まで読んでくれます。一方の新規ユーザーは、「こういう記事を書きました」という私のFacebookやTwitterでの投稿を見て訪問してくれた方が多いので、読み進めて「ちょっと関係ないな」と思えばすぐ離脱してしまいます。
こういった数字を見ないとわからない情報を積み上げながら、LPOやコンテンツ制作を続けてコンバージョン改善に努めます。Webマーケティングの教科書にあるようなことをそのまま展開していった感じですが、やったほうが断然効果は高いです。
また、ナイルの場合、エージェントや転職媒体よりも自社サイト経由のほうが内定承諾率が高いことが把握できています。自社サイト経由だとオウンドメディアの遷移率や選考通過率もわかるので、「自社サイト経由で3人採用する場合、何エントリー必要かわかる→採用サイトにどれくらいの流入が必要なのか計算できる→『ナイルのかだん』から採用サイトにどれくらい送客すればいいか目標設定できる」と、実際の遷移率から逆算してロジックが組み立てられます。
その目標に向け、バズる記事を書くのか、コンテンツ量を増やすのか、どちらが効果的かという議論ができます。戦略を立てて動かないと、ひたすら記事更新を増やしてPVを伸ばす作業を続けることになり、疲弊してしまいます。
どんなにいい記事を書いても、最後にものをいうのはコンテンツデリバリー力だと考えています。記事を出しただけでは埋もれてしまうので、必要な人にコンテンツを届けるデリバリー力がポイントになるのではないでしょうか。
コロナ禍で採用のために取り組んだ社内体制刷新も成果をもたらす
————2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、採用活動も難しい面があったかと思います。そこについての取り組みはいかがですか。
渡邉 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ナイルでは3月の頭からリモートワークに切り替えました。選考過程も原則リモートで行うようになりました。社内から「重要ポジションなので対面で話したい」、求職者から「オフィスの雰囲気が知りたい」といった要望があった時には、例外的に来ていただくことがありましたが。
選考がリモートになり良かったのは、選考スピードが圧縮されたことです。採用チームが強化されてスケジューリングを内製できるようになったことも大きいのですが、それまで27営業日くらいかかっていた選考プロセスが20営業日ほどに短縮できました。エントリーしてから1次面接まで10営業日くらいかかっていたのを、現在は1週間前後で調整し、最終面接までは20日弱でプロセスを引けるようになりました。
————社内体制に関しては、採用のためにどのような取り組みを行ったのでしょうか。
渡邉 2020年1月から、採用チーム全体の目標管理や活動において、OKR(Objectives and Key Results)を取り入れました。リクルーティングチーム、スケジュールを調整して選考プロセスを指揮するオペレーションチーム、採用広報チーム。それぞれのチームが「採用スケジュールを予実どおり進めること」という共通のミッションの下、目標(Objectives)と主要成果(Key Results)を設定し、指標を追うようにしたのです。
すべて数字に基づいてコミュニケーションを取るようになった結果、社員の意識やアウトプットが大きく変わりました。これまではどちらかというと仕事に対して受け身だった社員が、「選考を効率化するためにこういうやり方にしたいので、渡邉さんも協力してください」と提案するようになったんです。
成果を出すには、本人たちの気質や仕事の姿勢は関係ありません。結局、マネジメントや目標設定の問題なのです。マネジメントの工夫次第で大きな成果が出ると思います。
また、ナイルでは社長室の組織開発を担当するチームが主導で、事業部を超えた交流を企画したり、事業部理解を深める施策を推進したりして、従業員エンゲージメントの向上に務めています。社内報の「Forest」もその一つで、事業部の活動や役割理解を促進し、社内コミュニケーションの活発化に貢献しています。
こうして他事業部や会社の理解が深まると、たとえば採用活動も自分ごととして捉え、「『ナイルのかだん』に記事が出ました」「こういう職種を募集しています」など、実名で個人的に発信してくれる社員も出てくるようになります。Twitter道場もそんな流れで生まれたもので、こうした発信力も大きな力となっています。
2021年は「求職者体験のさらなる向上」に向けた採用活動を展開
————2021年はオウンドメディアリクルーティングに関して、どのような目標を考えていますか。
渡邉 まず組織体制を強化し、私は採用マーケティングや広報分野の業務の幅を増やしていきたいと思っています。
解決したい課題はいくつかあります。「事業家集団」というキーワードが一人歩きし、「ハードルが高い」「優秀な人が多そうで応募できない」というイメージがついているので、そのイメージをもう少し払拭したいです。
また、2020年は人材エージェントへの依頼率が高かったのですが、2021年は自社サイト経由の応募やリファラルを増やしていくという目標もあります。コスト面はもちろん、カルチャーフィットする人材を採用しやすいという利点もあります。
ほかには、情報がいろいろ分散しているので求職者目線で情報を整理し、Candidate Experience「候補者体験」をより向上させていきたいと思っています。
2021年も引き続き100人規模での採用を目指しているので、こうした課題解決に向けてさらに力を入れていきたいですね。「Owned Media Recruiting AWARD 2020」を受賞されたほかの企業の採用活動も参考にしつつ、ナイルにしかない価値訴求に向けて頑張っていきます。