グローバルな採用市場に向けた情報のターミナル――タケダが考える “オウンドメディアの役割”とは

2021/02/03
グローバルな採用市場に向けた情報のターミナル――タケダが考える “オウンドメディアの役割”とは

世界約80カ国で事業を展開し、役員及び従業員の約90%が外国人である武田薬品工業株式会社(以下、タケダ)。同社は2019年の大型買収によって、世界の製薬企業のトップ10入りを果たし、日本を代表するグローバルな研究開発型バイオ医薬品のリーディングカンパニーとなった。

採用ページのトップに「グローバルヘルスの未来を牽引」という文言があるとおり、世界を見据えた情報発信が特徴だ。特集ページでは「メディカル・アフェアーズ」という専門性の高い職種が紹介されたり、ワクチンビジネス部門やオンコロジー事業部など、グローバル視点での業務にスポットが当てられたりしている。加えて「ダイバーシティ&インクルージョン」といった働き方の多様性にもフォーカスしている。グローバル企業として、幅広い視点で採用市場を捉えたタケダが考えている “オウンドメディアの役割”とは。

濟木氏 犬島氏 川野氏 プロフィール
濟木俊行氏(左)。グローバルHRタレントアクイジション グローバルパートナーリード(コーポレート)
1975年生まれ。総合化学メーカーでの営業経験後、米国にてMBA取得。現地企業にてデータアナリストとして多国籍チームでのプロジェクトを経験。帰国後、人材開発領域のコンサルティング、サービス開発に関わった後、2011年8月にタケダに入社。2015年4月、タレントアクイジション日本ヘッド。2020年4月、現職就任。

犬島大介氏(右)。R&D HR 日本 タレントアクイジションリード
1977年生まれ。幼少期は米国で過ごし、英国University of Surrey卒業後、ロンドンのホテルに勤務。帰国後ホテル業界で数年勤務し、人材紹介会社へ転身、7年間ヘッドハンティング業務に従事。2013年1月から5年間米国系医療機器メーカーにて採用マネージャーとして勤務し、2018年1月にタケダにタレントアクイジションリードとして入社。2020年4月に現職就任後、キャリア採用、ポスドク採用、新卒採用など採用業務全般に従事。

川野充季氏(中央)。JPBU HR タレントアクイジションマネジャー
1983年生まれ。東京農工大学大学院修了。栄養生理化学研究室に所属し、サプリメントや医薬品の種となる化合物の探索、薬理研究に従事。修了後は転職エージェントとして医薬品業界を担当。途中、臨床開発モニターに転身し、血液腫瘍領域医薬品のグローバル臨床第3相試験に参画。その後、あらためて医薬品業界のヘッドハンターとして採用領域に戻り、2019年6月にタケダへ入社。キャリア採用、コントラクトMR採用、新卒採用など採用業務全般に従事。

柔軟性と先見的な動きを目指した“部門付き”の採用チーム

濟木氏 インタビューカット

――現在、タケダではグローバルにビジネスの成長をけん引する人材の育成に力を入れており、2019年にはグローバル人材の輩出を加速するための新たな採用基準の導入を発表しました。現在どのように採用を行っているのか、その施策や組織の体制について教えてください。

濟木 タケダは、2014年に現社長のクリストフ・ウェバーが代表取締役社長兼COOに就任しています。それからR&Dの変革やワクチン事業のグローバル展開、オンコロジー(がん)領域の強化、メディカルサイエンスリエゾン(販売促進を目的とせず、科学的なエビデンスや高度な専門知識に基づき、KOL(キーオピニオンリーダー)へ医薬品の情報提供する職種)やメディカル・アフェアーズ(メディカルプランの作成などを行う職種)の増員など、様々な改革がありました。それぞれの領域の課題に基づき、従来のように新卒中心の採用だけでなく、グローバルのトレンドを捉えて戦略を立てられる人材を採用する必要性が各部門で出てきました。

そこでグローバルでの連携を強化するHR領域の変革のなかで、採用チームも2015年にCoE(センター・オブ・エクセレンス=組織を横断する部署)という位置付けで、グローバルのタレントアクイジションチーム(優秀な人材採用を目的とした組織)が発足しました。

しかし、ビジネスがダイナミックに動いていくなかで、ビジネスサイドから「もっと我々の今後の戦略を理解した上で、より俊敏に戦略的に、かつプロアクティブ(先見的)に動いてほしい」という要望があり、それぞれの事業のスピード感に追いつくモデルが必要ということで、2020年に部門付きの採用チームにあらためてシフトしました。

2015年以降、エンプロイヤーブランディングに力を入れ、グローバルキャリアサイトの立ち上げなどオウンドメディアを通じてタケダの事業や魅力を求職者に向けて届ける努力をしてきましたが、部門付きになることで、各部門が推進する事業の魅力をどのように伝えていくかという一段深いレベルでの情報発信のあり方を検討していくことになりました。

――部門付きの採用チームとはどのような形でしょうか。

濟木 組織の構造としては、たとえばグローバルのR&Dという組織のなかにR&DのHRがあり、タレントアクイジションのグローバルヘッドがいて、その下に日本のR&Dのタレントアクイジションチームがいます。その部門が今どこに力を入れようとしているのか先見性を持ってわかるので、ポジションの空きが出る前から、必要なスキルや特性を持った人材のプール作りができるようになります。

犬島 部門によってそれぞれ求めるスキルも違いますし、求人情報の発信や選考の方法も違いますので、部門付きになったことによってそれぞれの効果的な方法で採用活動を行えるようになったという利点があります。

犬島氏 インタビューカット

――部門付きになったことで、それぞれで求める人材にフォーカスして独自に動いたり情報発信ができたりするということですね。

犬島 そうですね。具体的な例で言うと、R&Dでは医師や研究者が求められていますが、そういった方々はあまり転職することがないので、積極的にイベントを行ったり大学との関係を深めたりしています。2019年はメディカルダイレクターというポジションの採用にフォーカスし、米国ボストンで医師や研究者の方を集めてタケダとはどういう会社か、医療の現場から企業側にいくとどんなチャンスがあるかなどについてプレゼンしました。

また、先日はR&Dが求めるペルソナを設定しようと、アメリカのタレントアクイジションチームと共同で、最近入社したキャリア採用組に「タケダのどこに惹かれて入ったのか」などについてインタビューしました。アメリカも日本も苦戦しているポジションはだいたい同じなので、そこは垣根なく協力しています。

一方で、MD(メディカルドクター)という、R&Dにおいてもメディカル・アフェアーズにおいても必要な職種があります。そういう場合は、一緒にMDとして面接を行い、開発、研究に携わる場合はR&D、市販された後の医薬品に携わる場合はメディカル・アフェアーズへと振り分けることもあります。

オウンドメディアの充実が採用チャネル全体に相乗効果をもたらす

武田薬品工業 採用サイト トップページ
キャリア採用ページTOPでは、その時々で注力する領域を掲載することで企業としての取り組みの方向性を伝えている

――独自の情報発信を強化していく方針を採られた理由はなんでしょうか。

濟木 弊社も多くの企業様と同じように複数のチャネルを利用して採用を行っています。たとえばエージェント経由の採用ももちろんあるわけですが、エージェントが求職者にお勧めしたとしても、タケダの情報が外に出ていないと、その人に興味を持っていただけないのです。逆に言えば、情報が充実したことで、エージェントもタケダを紹介しやすくなったのだと思っています。

最近は、採用するスピードがどんどん速くなっています。オウンドメディアを充実させることは、採用サイトからの直接採用だけでなく、すべてのチャネルにおいて相乗効果が高いと考えています。

――部門付きで採用活動を行っているとのことですが、採用サイトではタケダとしての統一されたメッセージが感じられました。情報発信の際、タケダとしてのブランドイメージはどのように統一しているのでしょうか。

濟木 全体のトーンやニュアンスは、根本的には「誠実」「公正」「正直」「不屈」という「タケダイズム」の価値観に沿っています。

個別の情報については、採用サイトでは部門ごとの特色はそれほど出さず、今採用に注力したいテーマを中心に掲載しています。現在は、グローバル製造拠点である光工場(山口県光市)、研究開発部門、ワクチンビジネス部門となっています。常に掲載しているのはダイバーシティ&インクルージョンですね。

コンテンツはタレントアクイジションの担当者と、部門のコミュニケーション担当者などが、メッセージングがブランドガイドラインからずれていないか意識しながら、目的に沿って制作しています。最終的にはコーポレートのブランドチームにレビューしてもらい、社外に出すという流れです。一貫したブランドガイドラインやコミュニケーションスタイルが確立されているので、そこはしっかり見ています。

コンテンツを制作したらソーシャルメディアなどを使って情報を拡散させ、採用サイトに呼び込むようにしています。グローバルと日本国内で適したサービスを使い分けていて、2019年からはより幅広い層に向けて情報発信をするためにInstagramも立ち上げました。

「おカタい」「アリナミン」、イメージギャップを埋める「タケダの今」を社員の声で発信

川野氏 インタビューカット

――環境や内部の変化に合わせて「部門付き」という体制に変更され、スピード感や現場目線の情報発信などのメリットについて伺いましたが、体制変更によって見えてきた新たな課題などはあるのでしょうか。

濟木 部門付きになったことで日本の採用状況を横軸で見ている人がいなくなったため、現状はHRで互いに思っていることをシェアしながら必要に応じてディスカッションしてコンセンサスを取るというアプローチをしています。ただ、それだけではお互いの強みを補完しにくくなってしまっている点はあると言えます。そこは今後の課題です。

川野 営業部門では、これまで新卒メインで採用していたので、グローバルのタレントアクイジションで情報発信をして積極的にキャリア採用を行うという動きはこれからとなっています。

合わせてオンコロジー事業部も担当していますが、逆にこちらは「人が足りない、採用したい」というエネルギーがとても強いのでどんどん動いている。そのあたり部門によって動きに差が出ているところはありますね。

濟木 情報発信の点で言うと、「タケダ」と聞くと「大阪のカタい会社」か「アリナミン」のイメージなんですね。どちらもタケダの現状を表しているものとは言い難い。我々はグローバルのリーダーが多数いて戦略を推進し、革新的な医薬品を作っている企業です。世の中のタケダのイメージと実際のタケダのギャップを埋めることはいまだにチャレンジですね。そのためのツールの一つがオウンドメディアです。

犬島 私自身、中途で入ってきて3年ほど経ちますが、入社した当時、こんなに情報が外部に発信されていない会社は珍しいと驚きました。歴史についてはたくさん資料があっても、今現在どんな人が働いているのか顔が全然見えない。タケダのいいところはたくさんあるのに、発信できてないことがもったいないと思いました。3年前から比べると、今はかなり発信できていると思います。今後もさらに情報発信をしていきたいですね。

濟木 最近、人材育成を兼ねた「エンパワメントプロジェクト」という社内プロジェクトで、若手メンバーが1年かけて経営課題に関わるテーマに関するアウトプットを出すという企画を行いました。そこで私が出したテーマは、エンプロイヤーブランディング。新卒採用で入社した社員が多いタケダでは、社員が自社を他社と比較することはあまりありません。自社の魅力を客観的に認識していないし、口コミで発信することもあまりないのです。そこでどうすればタケダの魅力を高めて発信できるか考えてもらいました。

そのアウトプットの一つが、採用サイトのコンテンツにもなった「Our Message〜従業員が語る『タケダの魅力』」です。社員が自ら自分の言葉で仕事の内容やチームの強み、ワークライフバランスについて語っています。こうして社員目線で社員の生の声として発信したほうが求職者にも伝わりやすいと思いますし、社員が自社の魅力を自ら感じることでエンゲージメントが高まりリテンションにもつながると考えています。

採用サイト内 Our Message〜従業員が語る『タケダの魅力
「Our Message〜従業員が語る『タケダの魅力』」は「人」にフォーカスしたコンテンツとなっており、仕事への想いや組織の雰囲気が紹介されている

世界の変化のスピードに合わせて、社内外どちらも意識した発信が課題

濟木氏 インタビューカット

――グローバルでの競争が激しくなるなか、優秀な人材を採用するのはますます難しなっていくことと思います。加えてVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の時代となり、これまで以上に世界は複雑で予測のつかない状況になることが想定されます。採用活動の方向性や、タケダにとってのオウンドメディアリクルーティングの役割について、どのようになっていくとお考えでしょうか。

犬島 アメリカの金融会社などでは募集が出ると、ハイアリングマネージャーに動画でインタビューして、それをソーシャルメディアで発信するといった、スマホ世代の若手を意識した情報発信する企業が増えています。研究職には響かないかもしれませんが、営業職ではそういった新しい企画を取り入れてもいいかもしれません。ほかにも動画を活用した職場体験など、動画ベースの発信を増やしていけたらと考えています。

濟木 世の中的にもビジネスのスピードが速くなり、これまで以上に即戦力としてのプロフェッショナル採用の必要性が高まっています。それに伴い採用に関するサービスの幅も広がり、使える戦略もずいぶん変わってきました。ただ、求職者も企業側も流動性の高い市場にまだ完全に慣れたとは言えない日本において、どの手法が効果的かについては我々も模索中です。とはいえ、犬島が言うような動画コンテンツはかなりの確度で必要になると思いますし、スピードを意識してあらゆる手法を試せればと思います。

途中で申し上げたように、タケダはまだまだ発信の量が圧倒的に足りていません。より多くの方に興味を持っていただけるように、そしてタケダの“正しいイメージ”が伝わるように多くの発信が必要です。加えて、外部に向けた発信は、社内にあらためて“タケダの良さ”を浸透させるという効果があることも分かりました。この2つの視点を意識した発信を、オウンドメディアを通して行っていきたいと思います。

※本インタビューは感染症対策を行った上で実施し、撮影時のみマスクを外して対応いただいています

https://indeed-omrj.com/post-0126
このページのURLをコピーする
URLをコピーしました。
PICK UP EVENT
Owned Media Recruiting AWARD 2022
Owned Media Recruiting AWARD 2022
オウンドメディアリクルーティングアワードは、Indeed Japan株式会社が運営する企業の採用の取り組みに賞を贈るアワードです。優れたオウンドメディアリクルーティングに取り組んでいる企業や団体を表彰します。
詳細・参加エントリーはこちら
おすすめのお役立ち資料 ダウンロードは無料!
【無料ダウンロード】オウンドメディアリクルーティング実践のための30のチェックリスト
【無料ダウンロード】オウンドメディアリクルーティング実践のための30のチェックリスト
オウンドメディアリクルーティングを実践する際に、自社では何ができていて何ができていないのか、をチェックするための30の項目を載せたチェックリストです。
詳細はこちら
無料でダウンロード!お役立ち資料
次に読みたい記事
企業インタビューの人気記事