理念と現場を従業員がつなぐ——DEAN & DELUCAをはじめ多様なブランドを擁するウェルカムグループの“人”を中心とした採用情報戦略

2021/05/12
理念と現場を従業員がつなぐ——DEAN & DELUCAをはじめ多様なブランドを擁するウェルカムグループの“人”を中心とした採用情報戦略

食を中心としたDEAN & DELUCA、デザインのGEORGE’SやCIBONEなど2つの軸でライフスタイル事業を展開するウェルカムグループ。

複数の著名ブランドを抱える同社が採用活動において常に意識しているのは、“企業全体の理念と個々の現場との調和”だ。それを現場で働く人にフォーカスした情報発信によって実現しているが、きっかけは新入社員の一言だったという。

ウェルカムグループの情報戦略と発信における方針転換の経緯について、同社の採用活動を担う人事企画室統括の鈴木祥太氏に聞いた。

鈴木氏 プロフィール
鈴木祥太氏。人事企画室統括。大学卒業後、宝飾、服飾、飲食事業を行う企業を経て、2007年に株式会社ウェルカム入社。DEAN & DELUCAブランドの店舗運営、店舗運営支援を経て人事領域に従事。現在はフードリーディンググループの採用/教育部門の責任者をしながら、全社人事企画/社外人材開発PJTを担当。

私たちの会社は“人”を大切にするべき——きっかけは新入社員の一言

鈴木氏 インタビューカット

――ウェルカムの採用ページは、トップの動画やキャリアステップの図など目を引くコンテンツが多くありますが、特に印象的だったのが社員インタビューでした。こうしたオウンドメディアによる採用情報の発信を始めたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

鈴木 社員インタビューは2019年からスタートしていますが、採用というよりは企業としてもっと根本的なところがきっかけです。

少し遡って2016年、当時入社したばかりの社員のひと言でした。「私たちの会社に大切なのは、人なのではないですか?」と。ブランドや現場の仕事が優先されて、働いている人の気持ちがないがしろにされているのではないかという訴えでした。ハッとしたのを今でも鮮明に覚えています。というのも、それ以前から「採用時に聞いた理念やミッションと、現場でやっていることが違う」とか、「現場には暗黙のルールがあって、新しいことを提案しても『それはウチらしくない』と却下されてしまう」といった声が上がっていたからです。

私たちが大切にしている言葉に、DEAN & DELUCAの「フード・イズ・ザ・ヒーロー」があります。食が主役であり、食をきちんと選び、見極める力が必要といった意味で、ガイドラインとして機能していました。それがいつの間にか言葉だけが一人歩きするようになり、働く人のソリューションやクリエーションを抑えつけるようになってしまっていたのです。

本当は、この言葉の後に「ウィ・アー・マーチャント(商人)」と続きます。これは主役である「食」をお客様や世の中に伝えていくのは従業員であるというもので、みんな理解しているつもりでいました。しかし現実は、一人の人としてお客様に接する、一人の人として世の中に発信するということが、強いブランド力があるがゆえにしづらい状態になっていたと気付かされました。

そこから、理念と現場、両者のイメージのすり合わせをあらためて行いました。それに合わせて、採用に関する情報発信も見直したという流れです。

社員インタビュー
社員インタビューではメンバーの経歴や人生についてもふれ、個人のバックグラウンドを深く知ることができる

――社員インタビューは、ふだんの仕事を紹介するだけでなく、その人となりやバックグラウンドにもふれられて読み応えのある内容になっています。何か意図していることはあるのでしょうか。

鈴木 採用における情報発信の方針転換として、私たちは理念やミッションと、ブランドや現場での仕事の齟齬がないように取り組みました。それに加え、社内外のイメージギャップを抑えることを意識しながら、オウンドメディアの発信内容の整理も行いました。

本来、理念やミッションと、ブランドや現場の仕事は、対立ではなく調和させるべきものです。もちろんウェルカムとして理念と現場は一致しています。とはいえ、それぞれが独立して発信すると、どちらかの発信に共感した方の応募につながり、結果として入社後にギャップを感じてしまうことになりかねません。

ではどうしようとなった時に、さきほどの話にもつながるのですが、実際に理念と現場を結びつけているのは“人”であると。企業としてベースにある理念やミッションを解釈し、それぞれのブランドや現場に落とし込んでいるのは、現場で活躍している社員です。社員のふだんの働きぶりや仕事への想いなどを紹介することで、理念と現場の両者がミックスされた形で求職者に届けたい。そうしたところから社員インタビューはスタートしています。

紹介する社員のバリエーションを増やしていくことで、求職者にはより自身の感覚に合ったミックス度合いを見つけていただけると思います。またバックグラウンドなどにも詳しくふれることで、より共感を深めてもらえるのではと考えました。

目的ベースのコンテンツ制作が実現する、省エネと効果のバランス

社員インタビュー トップ
社員インタビューは、「人」にフォーカスした熱量の高いものでありながら、ブランドや役職を横断して多くのコンテンツが作られている

――ウェルカムにはDEAN & DELUCAをはじめ誰もが知るブランドが複数あり、それぞれのサイトもあります。情報発信に当たり、ウェルカムと個々のブランドの役割分担はどうなっているのでしょうか。

鈴木 コーポレートサイトの採用ページの制作・管理は私たち人事企画室の担当で、ブランドサイトは個々の事業部が担当しています。コーポレートサイトからの情報発信の原則は、各ブランドの規模の大小に関係なく均等に取り上げることです。規模ではDEAN & DELUCAが最も大きいのですが、サイト上の扱いは他のブランドと変わりません。

採用情報の発信に関しては、社員、パートタイム、アルバイトを含めて、コーポレートサイトの採用ページで一括して行っています。

――コンテンツの制作体制やプロセスはいかがでしょうか。

鈴木 私たちは小売や飲食の店舗運営がメインのビジネスですから、採用などの管理部門に人員をあまり割くことはできません(笑)。なので、採用担当は私を含めて3名。さきに述べたようにコーポレートサイトの採用ページの制作・管理も担当しています。また、全社の社員の採用を一元的に受け持っていて、各ブランド事業部の採用担当の間に入って必要な調整を行うハブ的な役割もあります。

ちなみに人事企画室は総勢6名で、採用のほか人事、育成・教育を担当しています。社員インタビューに関しては、私が候補者を決めて、取材や撮影などの作業は外部のスタッフが担当します。制作は1カ月に1本が基本で、現在は2カ月で3本程度のペースになっています。

インタビューの候補者は事業のフェーズや方向性を鑑みて、目的ベースで選定しています。たとえば、2020年は巣ごもり需要が伸びたこともあって、DEAN & DELUCAの通信販売事業が成長しています。通販事業の伸びは引き続き期待でき、担当できる人材が必要になりそうなので、そうした人材にリーチできそうな社員を取り上げ、ピンポイントでコンテンツを制作する、といった具合です。

目的に合わせてカードを切るように、コンテンツを“使い倒す”

鈴木氏 インタビューカット

――採用ページを中心としたオウンドメディアを使用した情報発信に注力することになったのは、どのようなお考えからなのでしょうか。

鈴木 正確にデータを取っていたわけではないのですが、社員やパートタイマーやアルバイトといった雇用形態に関わらず、現在ロイヤルティが高く活躍しているのは、採用ページ経由で応募いただいた方々だということが、もともと社内の認識としてありました。これは飲食業界の人事担当者の間でも共通認識としてあるものだと感じていて、他社の方からもよく耳にします。

なので、オウンドメディアに力を入れていくというのはすぐに決まりました。あとは、自社の財産としていつでも発信できる情報を持っていることで、採用活動における様々な場面や段階で的確に発信を行っていけるだろうという考えもありました。

――オウンドメディアのコンテンツを、採用サイトにおいておくだけではなく、目的に合わせて積極的に使っていくということでしょうか。

鈴木 そうですね。特に社員インタビューは、社員を介してウェルカムや各ブランドが提供する価値を伝えるものですから、潜在層はもちろん、より魅力を感じて親近感を覚えてもらうために、顕在層にも読んでもらいたいと考えています。現在は新卒・中途に関わらず、応募いただいた方には面接までに必ず読んでもらうようにしていますし、リファラル採用でも入社後に予定しているポジションのものはお送りするようにしています。

また、現在は基本的にオンライン面接となっているので、対面に比べると、やはり会社の空気感などが十分には伝わりません。そこで、社員インタビューを使って説明するようにしています。

一方で、社内に対しては、カルチャーの浸透やエンゲージメントの向上といったことに役立っているはずです。このように、あらゆるケースでオウンドメディアを活用することを検討していて、全方位で“使い倒す”ことが、全社的な合意にもなっています。

――リファラル採用についてのお話が出ましたが、様々なルートで採用を行われていますね。

鈴木 当社はリファラル採用の割合が比較的多いのですが、理由としては、まず飲食業界の横のつながりがあるのではないかと思います。業界的に、会社をまたいだ人材の紹介は頻繁に行われている感覚があります。

リファラル採用が多い理由として、一緒に仕事をしていくに当たり、ずっとお話ししてきた理念や現場の価値観への共感はもちろん、私たちの事業では味覚をはじめとした言語化の難しい感覚の共有が重要になるケースもあります。そうした人を採用するとなると、人となりや好みをすでに把握している方を紹介してもらうことも増えてきます。

また、事業の広がりによって増えているのが「ウェルカムバック」、つまりかつて当社に在籍した社員の再入社です。ウェルカムバックは、事業動向の発信に応じて増える傾向があります。「当時は自分のやりたいことができなかったが、今のウェルカムならそれができそう」ということで戻ってきていただける。このように、すでにウェルカムを知っている方々にも届くように、私たちには当たり前に思えるようなことでも、とにかく発信していくことが大切だと感じています。

こちらから読んで欲しいとピンポイントで届けることもできれば、たまたまその情報にふれて当社の今を知っていただくこともできる。採用においてオウンドメディアは攻守どんな場面でも使っていけるツールだと思います。

ブランドの充実とイノベーション創出の両立のために進める発信内容の多角化

鈴木氏 インタビューカット

――コロナ禍により、多くの業界・企業が変化を余儀なくされ、その影響はビジネス面だけでなく採用活動にも及んでいます。その点に関してウェルカムの状況をお聞かせいただけますか。

鈴木 ビジネスの面では他の企業と同様に、外食や物販などはコロナ禍の影響を受けました。しかし、店舗での販売減少を通信販売の伸びがカバーしたり、都心の店舗が不振でも、郊外立地の店舗は逆に好調だったりで、幸いなことに顕著なマイナスはありませんでした。

採用に関しては、ありがたいことに採用ページを通じた応募が大きく増えました。不安定な環境のなかで、給与などの条件面より、安心して働ける職場環境や信頼できるブランドといった要素を優先するようになったという、求職者の価値観の変化が原因としてあるのではないかと考えています。

――今後の事業の展望と、そのための採用活動において、どのようなことが重要になってくるとお考えでしょうか。

鈴木 これからの事業戦略で重要なポイントになっているのが、個々のブランドのさらなる充実と、イノベーション創出や新規事業の開拓です。

まず個々のブランドの充実に関しては、現場のホスピタリティやコミュニケーション力の向上が欠かせないことから、私たち人事企画室からホスピタリティチームを派遣し、ワークショップなどを行っています。現在はDEAN & DELUCAの店舗を対象にしていて、順次、対象ブランドを拡大していく予定です。目標は「あの店のあの人」と、お客様から指名されるスタッフを一人でも多く生み出すことです。

イノベーション創出や新規事業の開拓については、既成概念に捉われない発想が必要です。とはいえ、既存のブランドの提供価値はきちんと守りながらになるため、とにかく新しいことをやればよいというわけではありません。そうした時に軸となるのが理念やミッションの部分で、こちらもしっかり固めていく必要があります。

これらを踏まえたうえで最適な人材の採用を狙っていくことになるわけで、やはりここでも理念と現場のバランスを意識した発信が欠かせません。そして、そうした人材といつ出会えるか、当社の情報をいつ見てもらえるかは、こちらでコントロールすることが難しい。

当社の考えをより正確に受け取ってもらうため、そして、求めている人材と巡りあうチャンスを逃さないためにも、より多角的な情報を発信していくべく、オウンドメディアをよりバラエティに富んだものにし、積極的に“使い倒して”いきたいと思います。

https://indeed-omrj.com/post-0140
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