“顧客最優先主義”のドン・キホーテを筆頭に小売業界を変革する、PPIHの採用ブランディング施策

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株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)は、ドン・キホーテをはじめ、ユニーや長崎屋など多くの企業を束ねる持ち株会社。2030年度までに3兆円という野心的な売り上げ目標を掲げ、事業は国内にととどまらず、アメリカ、香港、台湾、シンガポール、タイ、マレーシアなど世界各地に広がっている。
活発な企業活動に対応するように、中途採用やアルバイト採用でも自社メディアを通じて採用のための情報を発信し、オウンドメディアを積極的に推進している。採用サイトに加え、SNSでの発信も積極的に行いブランディングに力を入れている施策について、人財本部リクルーティングマネジメント部 新卒採用課 兼 中途採用課の冨田三郎氏と、同じくメイト採用課の野口克弥氏に聞いた。

野口克弥氏(右)。人財本部リクルーティングマネジメント部 メイト採用課。2009年株式会社ドン・キホーテ中途入社。営業現場を経て2014年より株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス総務本部総務部、2017年より人財本部リクルーティングマネジメント部に異動。現在はアルバイト採用を担当。
自社のリアルな姿をオウンドメディアで発信
――ドン・キホーテは中途採用でもアルバイト採用でも、InstagramやTwitterなども含めてオウンドメディアでの情報発信に積極的ですね。
冨田 現場で聞いたお客さまの声を形にすることを大切にし、現場に権限を委譲することを認めてきた会社ですから、キャリア採用においても、自分自身の考えで新しいことを提案できそうな「人財」の採用を目指しています。ただ、応募する人には、他の小売事業社とはどこか違うのか、どのような役割を求められているのかといったことが見えていないかもしれないという課題がありました。そこで、店長や売り場担当が何をできるのかといったことを具体的に発信し、自分の考えやアイデアを形にできる会社であることを伝えたいと考えています。
野口 私たちは顧客最優先主義を企業原理とし、アルバイトにも、お客さま目線を忘れないことが必要と伝えています。アルバイトとして店舗で働いている人は、その店舗のある地域で暮らす人であり、お客さまでもあるわけですから、商品のラインナップや価格についてよく理解している人たちです。自分がお客さまならほしいと思うか、その価格なら買うかを考えるよう求めています。
――オウンドメディアでは、理念やカルチャーなどに関する発信が目立ちますね。それに共感を覚える方が、求める人物像なのでしょうか。
冨田 私たちが大切にしているものに「変化対応」と「創造的破壊」があります。ドン・キホーテと言えば、扱っているものはトイレットペーパーからルイ・ヴィトンまで幅広く、狭い通路の両側に天井近くまで大量の商品が陳列されているイメージを持たれていると思います。しかし店舗によっては、そのイメージすら創造的に破壊している場合があります。時代に遅れないようにするには、新しいことに挑戦できる「人財」が欠かせません。
野口 ドン・キホーテでは、アルバイトをメイトと呼んでいます。メイトは仲間という意味です。弊社がメイトという呼称を使っているのは、自分の意見を持ち、現場で提案できる人を求めているからです。実際にメイトのなかには、売り場の構成、商品の仕入れや発注などの権限を持っている人もいます。メイトを含めたスタッフが各地域に合わせた店舗を作っていく個店主義を実践しているので、一つとして同じドン・キホーテがないわけです。
冨田 メイトだけでなく、新入社員にも商品の仕入れが許されることがあります。張り切って仕入れをするのですが、たいていの場合は売れなくて失敗するんですね。私もそうでした(笑)。しかし、失敗してもめげずに挑戦し続ければ評価されるのがドン・キホーテのカルチャーなのです。
――新型コロナウイルス感染症のため、小売業界も大きな影響を受けています。採用活動にはどんな変化があったのでしょうか。
冨田 インバウンド需要の激減で、ドン・キホーテの駅前店舗などは影響を受けています。だからこそ新しい業態への挑戦が必要で、実際に新規形態の出店も始まっています。そうなると働き方もより多様になり、その伝え方にも従来と違う工夫が求められます。
野口 駅前店舗の状況が厳しい一方で、ロードサイドの店舗などには好調なところもあり、引き続き採用のための情報発信には力を入れています。求人媒体社の2020年のデータによれば、応募数は同業他社の小売業界のなかでもトップクラスに多いとのことです。
オウンドメディア活用で、より多くの人に雇用機会を提供
――採用に関して、オウンドメディアで発信する意味や、エージェントなどとの使い分けについて聞かせてください。
冨田 オウンドメディアを使うのは、ダイバーシティを重視していることを伝えたいからにほかなりません。小売業界の他社に比べて外国籍の社員が多く、店長として活躍している社員もいます。これからの海外事業展開を考えると、多様な「人財」がそれぞれの働き方で活躍できることを発信するのは非常に重要です。
2019年以前は、キャリア採用に関しては、各店舗リテール部門は求人媒体、本社間接部門はエージェントの活用が、それぞれメインになっていました。2020年からは、インターンや採用サイトなどを活用したオウンドメディアリクルーティングにも力を入れています。
野口 アルバイトの採用に関しては、昨年秋から採用ホームページに掲載する求人数を約3倍に拡大したり、採用サイトに誘導する導線を増やした結果、採用サイト経由の採用が大きく伸びています。これまでは求人媒体経由が中心でしたが、現在では両者の割合はほぼ等しくなっています。
求人数が増えたのは、ただ売り場担当募集とするのでなく、仕事の内容を細かく記載したり、対象者を主婦(夫)、学生、シニア、フリーター、語学に堪能な方などと具体的に分類したりした結果です。これにより選択肢が増えるとともに、応募者によりマッチした求人を出せていると考えております。オウンドメディアを活用して、より多くの人に雇用の機会を提供したいと考えています。
ホームページとSNSを組み合わせ採用活動に利用

――情報発信に当たり、オウンドメディアなどのコンテンツは、どのような意図で用意されているのでしょうか。
冨田 プラットフォームによって発信内容を分けています。採用サイトでは、中途採用と新卒採用の両方の参考になるよう、できるだけ幅広く社員にインタビューを行い、それぞれのキャリアがわかるようにしています。
昨年から始めたInstagramでは、社員や店舗の個性や特徴をできるだけやわらかく伝えるよう心がけています。
野口 アルバイト採用サイトに座談会のコンテンツを用意しているのは、主婦(夫)やシニアなど様々な人がそれぞれに合わせた働き方ができることを、具体的にわかりやすく示したいからです。
また、「お仕事キーワード!」として用語解説を行っているのは、現場で使っている独自の用語が、企業理念や大切にしている価値観などを反映したものだからです。自社の理念や価値観を伝え、それに対する理解や共感をねらっています。たとえば、売り場のことを私たちは「買場」と呼んでいます。企業の立場からすればモノを売る場所ですが、お客さまの立場ではモノを買う場所です。「お仕事キーワード」では、「買場」というワードが顧客最優先主義を反映したものであることを説明しています。
冨田 どの企業もどの仕事も同じだと思いますが、外から見るのと実際に働くのとでは違いがあるはずです。そのギャップをできる限り小さくするために、採用ページでは仕事の内容や働き方をかみ砕いて説明することを心がけています。それはキャリア採用もアルバイトの採用も同様です。
――採用サイトでの情報発信に加えて、Instagram、TwitterといったSNSを活用した情報発信にも取り組まれています。それらの使い分けや、制作体制と頻度についても教えてください。
野口 InstagramやTwitterは、私たち採用担当の3人で制作しています。コンテンツは、スタッフインタビューや店舗紹介、学生向け就職講座などです。情報更新の頻度はInstagram、Twitterともに週に3回から4回です。コンテンツを何にするか、それぞれどのようなフレームで発信するかを決めるまでは大変でしたが、今は作業に慣れてきて負担を感じることはありません。
冨田 採用サイトのインタビューや座談会は、現状では新しいものは制作していません。制作に時間がかかることもあり、どうしても店舗やスタッフの変化に追いつかないからです。そこで、採用や企業に関する基本的な情報はホームページで、タイムリーな情報はSNSでと、使い分けています。
SNSは社内外で注目度が高く、ブランディングにも貢献
――オウンドメディアでの採用情報の発信は、インナーブランディングにも効果を発揮すると言われていますね。
野口 SNSのインタビューに対する社内の反応は上々で、考えていた以上に従業員が見てくれています。働く仲間への共感や、仕事への誇りがあるからでしょうか、インタビュー依頼についても理解が得やすく、制作作業はいたってスムーズです。オウンドメディアによる発信は、インナーブランディングの構築にも貢献していると思います。
冨田 目立ちたがり屋が多いのかもしれませんが、とにかく協力的です(笑)。こちらはインタビューをお願いする立場なので助かりますが従業員から「次はいつインタビューしてもらえますか」と頼まれたりします。
――オウンドメディアによる情報発信に対する、応募者の反応はいかがでしょうか。
冨田 アンケート調査によるとSNSを見てくれている人は多く、応募の一つのきっかけになっていると感じます。
野口 昨年から、アルバイト採用における採用サイト経由の応募が2倍以上に伸びたのは、採用サイトへの導線増加に加えて、SNSも大きな要因です。SNSで興味を覚え、アルバイトしたいと思った人が応募ページへたどり着きやすいよう、階層をより少なくすることが必要と考えています。
また、ドン・キホーテのアルバイト募集をたまたま目にして応募したのではなく、「ドン・キホーテ バイト」と検索して応募した人が多いことも調査でわかりました。ブランドの認知が進んでいることを実感しています。
一人ひとりの応募者に最適な職種を提供するため改善を続ける
――事業のグローバルな展開が急ピッチで進むなか、今後におけるオウンドメディアを使った採用活動の展望と課題について教えてください。
冨田 私たちの課題はドン・キホーテのイメージが強すぎることです。海外での事業を含めてグループの活動が広がるなか、PPIHグループ全体の取り組みを広報することが必要です。キャリア採用に関する情報発信も同様で、オウンドメディアを通じてより詳細に事業内容を伝えなければなりません。とりわけ若い求職者には、海外での事業に興味を持つ人が多いのですが、何をしたいのかが定まっていないケースも目立ちます。海外の事業についても、具体的でわかりやすい情報提供が必要と考えています。
野口 アルバイト採用で改善に取り組みたいのは、応募したものの不採用になる人をできる限り少なくすることと、不採用になってしまった人のフォローです。アルバイトに応募する人は、店舗がある地域のお客さまでもあるわけです。顧客最優先と考え、不採用になったためお客さまとしても店舗に行かなくなることだけは避けたいと考えています。
不採用になるのは、双方が希望する勤務時間や日時が合わなかったケースが大半で、応募した方に責任はありません。今後はシステム開発も行い、不採用が起きることをなるべく減らしたいと考えています。
冨田 事業の拡大に伴ってキャリア採用も増えるなかで採用する側には、オウンドメディアを活用した企業情報や採用情報の的確な発信とともに、応募者の適性を正しく把握・評価する「目利き」の能力が求められています。多くの応募者に最適なポジションを提供することで、私たちが目指す「創造的破壊」も生まれると考えています。