オウンドメディアも“自社のプロダクト”である――Cygamesに学ぶ採用コンテンツのクオリティコントロール術


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人気ゲームの制作のみならず、エンターテイメント全域にコンテンツを展開し、サイバーエージェントの主要事業の一つを担う株式会社Cygames。
同社の活動は全て「最高のコンテンツを作る会社」というビジョンに結びついており、採用に関してもビジョンにマッチするマインドを持つかどうかが重視されるという。
抽象的な概念であるビジョンを求職者へ正確に届けるべく、オウンドメディアを軸にブログから動画まで自社が得意とするあらゆる“コンテンツ”を活用した同社の採用戦略について、人事部 小野瀬麻由美氏と、広報チーム マネージャー 西尾亮祐氏に聞いた。

西尾亮祐氏(左)。広報チーム マネージャー。2011年サイバーエージェントに新卒入社し、2012年よりCygamesに所属。ゲーム開発や運用の経験を経て、2015年に広報へ異動。2016年には同部署マネージャーに就任し、2019年からはオウンドメディア「Cygames Magazine」の編集長として媒体運営に携わる。情報発信を通して、コーポレートブランディングに従事。
「最高のコンテンツ作り」に求められる“こだわり”の因数分解
――「グランブルーファンタジー」や「プリンセスコネクト!Re:Dive」など、数々のヒットゲームを展開しつつ、今(2021年7月現在)は特に「ウマ娘 プリティーダービー」が好調です。ヒットメーカーとして、採用における情報発信の基本的な方針はどのようなものになるでしょうか。
小野瀬 情報発信のスタンスは、ビジョン重視になるかと思います。採用サイトのトップページに載せている「最高のコンテンツを作る会社」というビジョンにマッチするマインドを持った人材を採用するために、当社の状況や環境に合わせ発信内容を考えています。

西尾 とはいえ、「最高のコンテンツを作る会社」がシンプルな言葉であるため、社内では感覚的に共有できていても、外からは理解しにくいのではないか。では、その感覚的な部分を、なるべくニュアンスはそのままに伝えるためにはどうするべきかと考えていくなかで、私たちCygamesの最新情報をあらゆる角度、あらゆる粒度で発信をしよう、というスタンスになりました。それを叶えるための手段として、オウンドメディアは欠かせないものだと考えています。
――そのマインドをあえて具体的な言葉にすると、何が挙げられますか。
小野瀬 キーワードの一つになるのが「自分自身のこだわりを持っている人」です。どのメンバーも、ユーザーの方々に「最高に面白い!」と思ってもらえるコンテンツづくりにこだわっています。どこまでクオリティを追求できるか。当たり前のように感じられますが、意外と難しいことだと思っています。プロダクトでもサービスでも、何かしらのモノのクオリティって基準がないんです。最高を目指すためには、世の中にあるモノに多く触れ、今の時代に合った、ユーザーから求められるモノを常に考えて作ることが求められます。
そして、何をするにしても、アウトプットに「自分のこだわり」を込められるかどうかは重要な要素だと思っています。
西尾 付け足すと、その「こだわり」を自分自身で理解し、相手に伝えられるかも大事なポイントです。基本的にチームで物作りをするので、メンバーそれぞれの「自分がどう考えてどうしたいのか」が明確に共有されないと良い仕事になりません。ユーザーが求められていることを深く理解し、自分の「やるべきこと」を因数分解して要素に落とし込み、言語化できる能力が求められます。
――「こだわりのある人」とだけ言うと平易な言葉に感じられますが、そこに込められた情報量は語り切れないほど多いのですね。そのニュアンスを応募者に理解してもらうためのコンテンツとして、具体的にはどのようなものがありますか。
小野瀬 「こだわり」について例を上げるとすれば、サウンド部がゲーム内で使用する環境音を録音するに当たり、ロケを効率化する目的で録音機材を自作したことがありました。ここまでやっている会社ってなかなかないよねということで、そのエピソードをブログメディア「Cygames Magazine(サイマガ)」で記事にしました。
西尾 サイマガはそうした社内文化や取り組みの紹介のほか、当社のゲームのユーザーに向けたコンテンツなども掲載しており、求職者層向けとユーザー層向けの発信、どちらの目的も兼ねたメディアとして運営しています。
例えば求職者層向けには、職種ごとに求められるものを「仕事百科」というシリーズで取り上げています。それぞれの職種や部署において、どのように「こだわり」が発揮されているか、どんなフローやレベル感で仕事が進んでいるかといった内容をインタビューを通してご紹介しており、必要なスキルやマインドセットを読者にすくい取ってもらえればと思っています。
求職者とユーザーに向けた情報で、Cygamesを多角的に理解できるオウンドメディア
――「Cygames Magazine(サイマガ)」の話が出ましたが、サイマガは扱う情報が多岐にわたっていますね。掲載情報のジャンルはどう整理されているのでしょうか。
西尾 サイマガは、会社の情報をまとめた「COMPANY」、スタッフに関する情報を扱う「PEOPLE」、社内勉強会やユーザー向けキャンペーンなどの情報を掲載する「EVENT」、スタッフの声を集めた「STAFF VOICE」で構成されています。
扱う情報は、「組織や制度など会社関連のもの」と「サービスやプロダクト」、「求職者向け」と「ユーザー向け」という2つの軸で、4象限に分けられます。例えば仕事百科は、「求職者向け」と「会社関連」のゾーンに入ります。

――サイマガは充実した内容ですが、ここまでのメディアに育て上げるには相応の時間が必要だったのではないでしょうか。採用サイトも含め、情報発信における経緯を教えてください。
小野瀬 実はサイマガは2019年6月の創刊で、採用サイトも2020年にリニューアルしたばかりなんです。
2011年の創業当時の採用サイトは、募集中の職種のジョブディスクリプションを掲載しただけのシンプルなものでした。そこから、企業の成長に合わせて必要な人員の数も増え、東京だけでなく大阪や佐賀などに拠点ができたこともあり、100件を超える求人情報が羅列されているような状態で見づらいものになっていました。
かつてはゲーム制作が最優先で、そのために必要な人を集めることを続けてきたのですが、現在はゲームをより良くするフェーズに入っています。それに適したマインドを持っている人や、ゲームをより面白くする工夫ができる人が応募したくなる情報発信をしていく必要があり、サイトの見直しを図ったという流れです。
西尾 その流れのなかで、採用サイトとは別で、より自由に幅広い情報を発信するためのプラットフォームを立ち上げようという話が人事・広報間で話し合われ、サイマガが立ち上がりました。
オウンドメディアリクルーティングの観点から見る、効果的な採用サイトや採用コンテンツの考え方についてはこちらもご覧ください
――広報と採用の両方の情報発信を行うので、サイマガの情報軸の一つが求職者と自社のゲームのユーザーになっているわけですね。
西尾 おっしゃるとおりです。やはり会社のことを特に知ってもらいたいのは求職者の方々なので、採用関連の情報は発信しています。ただ広報としては、ユーザーにCygamesのファンになってもらうためにサイマガを活用したい思いがあり、ユーザー向け情報も続けています。
また、インナーブランディング的な側面も意識していて、トップのメッセージや、様々な社員の仕事へ想いなどを、社内に浸透させることもオウンドメディアによる発信の目的の一つです。
圧倒的なクオリティを担保する、明確な“編集ガイドライン”
――サイマガの記事は外部の人が興味深く読める内容で、ゲーム以外のコンテンツもCygamesとしてのプロダクトだという意識が感じられます。内容やクオリティの担保という面ではどのようなことを行っていますか。
西尾 かなり意識していたポイントだったので、そういった評価をいただけるのはすごく嬉しいです。サイマガをスタートさせる際、オウンドメディアは内輪な雰囲気になったり、自賛な内容になったりしがちなので、それを避けるためメディアとしての編集ガイドラインを明確に設定しました。ビジョンを「Cygamesのことをちょっと好きになるメディア」とし、ミッションステートメントには、「等身大のCygamesの魅力をありのまま伝える」「記事の面白さは絶対」「チームサイマガの意識を忘れない」の3つを設けました。
最高のコンテンツにするという意識のもとで、背伸びせず等身大の情報を伝えようということですね。また、読んでいただいた人に何かおみやげになるものを届けることも意識しています。
小野瀬 「サイマガを読んで応募を決めました」という人もいるので、社外へ確実に届いている手応えを感じています。使い方も広がっていて、オンラインでの面談時に、興味のあるポジションに関連する記事を応募者と一緒に見ながらお互いが質問をするようなケースもあります。
西尾 社内からもリアクションがあり、次はウチのスタッフを取り上げてほしいとの声も少なくありません。そうした声に対応するかたちで、採用計画や他部署とのバランスなどが編集会議の議題になることもあります。
――採用サイトのリニューアルやサイマガの創刊は、採用活動に効果や成果をもたらしているわけですね。
小野瀬 効果が端的に表れたのは会社説明会への参加者の増加です。採用サイトが整理され、その時に会社として伝えたいトピックが求職者にも把握しやすくなったことが要因と考えています。
また、大きな成果の一つとしては、サイマガの記事がきっかけでフォトグラメトリーが使用できるゲームスタジオのスタッフを採用できたことです。通常のゲーム制作とは異なるスキルが必要なポジションで、以前の発信ではそのスキルを持った人材に情報が届いていなかったところ、技術的な紹介を詳細に行う記事を掲載したことで求めていた人材に届けることができました。
“見えない場所”にいる人材に対する効果的なアプローチ方法についてはこちら
テキストと動画のハイブリッドで、生活者のニーズへ柔軟に対応

――今後に向けて、さらに改善していきたいことはありますか。
西尾 ブログ型メディアによるテキスト発信の成果を感じる一方で、限界も感じ始めています。ブログでは文字を読むわけですが、しっかり意味を取りながらテキストを読むことは時間と集中力が必要です。あらゆるメディアやコンテンツが生活者の可処分時間を奪い合う現代では、それがハードルだと感じる場面が増えてきています。
より幅広い層にCygamesを知ってもらうため、2021年5月から動画コンテンツの「サイマガTV」を始めました。現在、複数のスタッフに同じ10の質問をするインタビュー企画「10 Questions」と、ゲームの音楽にフォーカスした音作りのこだわりを伝える企画である「みみスマ」を制作しています。これからも動画でしかできない企画を作り、記事と一緒に活かしていきたいです。
また、SNSはサイマガや採用サイトに誘導したり、サイマガの情報を補完したりするツールとして活用しています。
――アフターコロナでは、採用活動はどうなると想定されていますか。また、求める人材に変化はあるのでしょうか。
小野瀬 今後のことは決まっていない部分も多いのですが、オンライン面接もオンラインセミナーも継続したいと思っています。当初は不安も試行錯誤もありましたが、現在は全く問題がありません。セミナーも何回も開催するなかでブラッシュアップできています。
応募者からも、オンライン面接や面談は気軽に受けられるとの声も寄せられています。求める人材については、熱量を持っている人という基本は変わりません。ただ、現在はゲームをより良くするというフェーズなので、与えられたタスクにプラスアルファを提案できる人、引き出しの多い人、そしてゲームが好きな人と一緒に仕事がしたいと考えています。