自動車会社からモビリティカンパニーへと舵を切ったトヨタ。その推進力となるキャリア人材を採用するためのオウンドメディア戦略

2021/11/04
自動車会社からモビリティカンパニーへと舵を切ったトヨタ。その推進力となるキャリア人材を採用するためのオウンドメディア戦略

自動車業界にとどまらず、様々な企業が、移動と社会をつなぐモビリティ社会の実現に取り組んでいる。トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)においても、車とデータセンターがつながり最適なサービスが提供される「Connected(コネクティッド)」、全ての人が安全、スムース、自由に移動するための自動運転「Autonomous/Automated(自動化)」、ライドシェアなど時代に沿ったシェアサービス「Shared(シェアリング)」、電動車の開発と普及「Electric(電動化)」の頭文字から「CASE」と呼ばれる、従来の自動車開発とは異なる新しい領域で技術革新を進めている。車の概念は大きく変わりつつあるのだ。

2018年1月、豊田章男社長は「自動車会社からモビリティカンパニーへの変革宣言」を発表。自動車会社から「モビリティカンパニー」へと大きく舵を切っている。そして、全ての人が移動の自由や楽しさを享受できる「モビリティ社会」の創造に寄与する人材を確保するべく、キャリア採用の強化が図られてきた。現在、総合職に占めるキャリア採用の比率は約3割、今後は5割まで引き上げていく方針だという。

その採用戦略や理念、2021年9月末にリニューアルされたキャリア採用サイトについて、同社人事部 人材育成室 採用グループ長の山口勇気氏、キャリア採用を担当する小河原由梨氏、新卒採用を担当する李寛子氏に聞いた。

人事部 人材育成室 採用グループ 山口勇気氏(右)小河原由梨氏(中)李寛子氏(左)
山口勇気氏(右)。トヨタ自動車株式会社 人事部 人材育成室 採用グループ長。2005年入社。国内販売事業部門で販売店収益、車種販促、需給・販売計画に従事。全販売店全車種併売化プロジェクトなどにも携わったのち、2020年より人事部へ。キャリア採用領域を担当後、2021年より現職。

小河原由梨氏(中)。トヨタ自動車株式会社 人事部 人材育成室 採用グループ キャリア採用担当。2017年入社。グローバル企業ならではの仕事のダイナミックさに惹かれてトヨタを志望。海外出張・出向関連の制度企画・運営を担当したのち、若手を対象とした研修企画・運営に従事。2021年より現職。

李寛子氏(左)。トヨタ自動車株式会社 人事部 人材育成室 採用グループ 新卒採用担当。2017年入社。就活中に出会った先輩社員の「人を大事にする姿勢、真正面から向き合ってくれる熱さ」に惹かれてトヨタを志望。福利厚生制度の企画・運営業務を担当し、2021年より現職。事務系の新卒採用および、内定から入社後における、新入社員向けフォロー施策を担当。

求めるのは、モビリティ社会を一緒に創造できる多様な人材

人事部 人材育成室 採用グループ 山口勇気氏

──キャリア採用サイトでは、「CASE」や「トヨタは、あなたで加速する。」というキーワード、「TOYOTA VISION Movie」といった動画などを交えて、トヨタが目指すモビリティ社会や社会貢献への思いなどを訴求し、求職者の共感を喚起していますね。

山口 もともとトヨタは、トヨタグループの創始者である豊田佐吉の「産業報国」の精神から、「誰かのために」という想いを大切にしてきた企業です。自動車会社からモビリティカンパニーとなっても、その根本の部分が変わることはありません。世の中の変化に合わせて、誰かのために社会課題を解決していく。フィロソフィーでは「わたしたちは、幸せを量産する」と表現していますが、そうした形で社会に貢献していきたいと考えています。

とはいえ、自動車会社からモビリティカンパニーに変わるというのは非常に大きな変革です。かつて自動織機の会社から自動車会社になったのと同じくらいの変革であると捉えています。

そしてこれは、自動車産業というトヨタに強みがあった業界から、モビリティという他社に強みがあるかもしれない業界に踏み込んでいくということです。そのためには、より多くの社外の方の知見を取り入れながら「一緒に社会を良くしていく」という強い意思が必要になるでしょう。私たちは「仲間づくり」という言い方をしていますが、そういった意識や活動がますます重要になってくるはずです。

TOYOTA VISION Movie
「TOYOTA VISION Movie」が伝えるのは未来。モビリティカンパニーであるトヨタの社会的責任が感じられる動画となっている

こうした背景から、私たちが求める人物像も大きく変わってきました。社会への貢献意識を持ち、誰かのために一緒に頑張れる人物かどうか。情熱を持ち仲間を作りながらやり遂げる方かどうか。そういったイメージを持って採用活動をしています。

──2019年度に総合職の採用に占める中途採用の割合を1割から3割に引き上げ、中長期的に5割とすると発表されたことは大きな話題となりましたね。

山口 数字が一人歩きしてしまうこともあるのですが、5割にすることが目的ではありません。さきに述べたように、モビリティカンパニーとなるべく、より多様な人材を求め、外の新しい知見を取り入れ、新卒採用が中心だった企業カルチャーも変化させていくことが重要です。キャリア採用の比率を5割に引き上げるという発信には、そういった狙いもあります。

そのため、キャリア採用だけでなく新卒採用に関しても、22年春以降の技術系採用は、これまで行っていた学校推薦を廃止して自由応募にしました。情報発信に関しても「クルマをつくる会社から、モビリティカンパニーへ。」といったメッセージをはじめとする様々な取り組みを行っています。

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トヨタの“今”を感じられる内容にリニューアルし、PVの増加を目指す

人事部 人材育成室 採用グループ 小河原由梨氏

──キャリア採用サイトは2019年に改修して本格的な運用を開始し、今回(2021年9月末)リニューアルされたと伺いました。今回のリニューアルにおいては、どういった部分を改善されたのでしょうか。

山口 「自動車会社からモビリティカンパニーに変わる」と宣言したトヨタが今、企業としてどんなことを考えているのかを、より鮮明に打ち出すことを目指しました。私たち社員がどう変わりつつあるのか、仕事や制度がどう変わっているのか。テレワークなどコロナ禍以降の働き方の変化なども合わせ、トヨタの“今”が感じ取れる内容になっていると思います。

小河原 社員インタビューは、新たに20名ほどに取材を行い、構成も大幅に見直しました。電気自動車の研究や環境にやさしい車づくりを手がけるパワートレーン(動力源と装置の総称)系、車と社会をつなげるコネクティッドサービスの開発や自動運転・先進安全技術に関わるソフトウェア系の社員など、それぞれの仕事やキャリアステップなどを紹介しています。

社員インタビュー
社員インタビューは、「#技術職」「#キャリア採用」をはじめ「#パワートレーン・カーボンジュートラル技術」など専門性もあるタグで検索性を高めている

インタビュー対象の社員は、トヨタの「今」を幅広くお伝えする目的で、若手からマネージャークラス、男女のバランスを意識し、トヨタで活躍する多様な個を前面に押し出しています。人選に関しては、現場から推薦してもらうようにしています。

 トヨタは昨今、フルリモート勤務をはじめとして、人事施策や福利厚生の面でたくさんのメニューを用意しています。制度としては進んでいる方だと自負しているのですが、以前は、それが正しく応募者に伝わっていたかどうか……。アイコンをピクトグラム調にするなど基本的な見やすさの改善に務め、より多様な人材に訴求できるように整えました。

また、入社後は豊田市や周辺都市に来ていただくケースもあるため、「“トヨタ×愛知”のライフスタイル」として、例えば、人口や坪単価といったデータ、社員の移住体験談などから、暮らしぶりや働きぶりがわかるような記事を掲載しています。

小河原 これらの改善ポイントは、実際に内定、入社された方の「内定前にもっとこういう情報が欲しかった」というリアルな声や、入社後のアンケートから吸い上げています。また、2019年の改修時には、PV数で見ると125%上がりました。今回のリニューアルでは、それを上回るPV増加に目標値を置いています。

今はエージェント様にもキャリア採用のご協力をいただいていますが、今後は、さらに私たちの理念や求める人物像を理解していただけるように、リファラル採用やオウンドメディアリクルーティングの割合を増やしていきたいと考えています。

ソフトウェアも重視する開発方針により採用戦略が変化

人事部 人材育成室 採用グループ 李寛子氏

──モビリティカンパニーへの変革に向けて、採用される人材の専門分野なども変わってきているのでしょうか。

小河原 ソフトウェアの専門知識を持たれている方や、ソフトウェアとハードウェアの両方を理解されている方を求めるようになってきています。

山口 ソフトウェア系の技術職採用が広がっている背景には、車にとってソフトウェアの重要性が高くなってきたことが挙げられます。従来のハードウェアを起点とした開発ではなく、ソフトウェアにも同等に対応しながら開発を進めることが求められているのです。

また、これまでは人事部主導で行っていた選考を、コネクティッドカンパニー、先進技術開発カンパニーなど、各カンパニーが主導で行うようにしました。各カンパニーの採用担当と社員が面接官になるなど採用業務も移譲し、現場が欲しい人材をきちんと見極められるような体制を整えたのです。

 一方で、各カンパニーで選考を完結させると「トヨタ」としての視点にバラつきが発生する可能性もあります。そのため、面接のチェック項目やプロセスの統一などは、工夫を重ねています。また、多様性を重視し、社会に対する貢献意識や情熱を持った方を採用したいという前提はもちろん変わりません。

──社会に対する貢献意識や情熱といった点はキャリア採用だけでなく、新卒採用サイトからも感じることができますね。

 はい。新卒とキャリアでは、当然入社後の研修は異なってきますが、ベースとなる意識は共通です。入社後の評価についても、新卒とキャリアで同様の基準を用いています。

山口 会社の理念については、新卒とキャリアに関わらず、内定後もオンボーディングで丁寧にお伝えしていくことが大切だと考えています。また、キャリア採用の方からは「同期がいなくて寂しい」といった声をよく聞くので、座談会を開くなどして同期入社の絆やコミュニティを形成する場を設けています。

──コロナ禍の影響もあるかと思います。現在、採用活動はリモートが中心でしょうか。

山口 フルリモートに変えました。その結果、例えば、東京の方が面接の度に豊田市に来る必要がなくなりました。面接のハードルが下がり、競争力も大きく上がったのではないかと思います。

とはいえ、入社後の会社を見ておきたいという方には、東京の大手町オフィスなどで応募者や学生に職場を見ていただく機会を設けています。また、内定後もカジュアルなオンライン面談の機会を積極的に作り、職場の状況や働き方、お互いの期待値などを丁寧にすり合わせるようにしています。

トヨタが「未来の子どもたち」にできること

人事部 人材育成室 採用グループ 李寛子氏(右)山口勇気氏(中)小河原由梨氏(左)

──キャリア採用、新卒採用を含めた採用関連の施策や情報発信や今回のリニューアルなどは、どのような体制で行われているのでしょうか。

 山口が全体のリーダーを務め、キャリア採用は小河原、新卒は私が主に見ています。そのほかに関わっているメンバーは全部で7名ほどですが、社員インタビューの制作などは各カンパニーの採用担当にも全面的に協力してもらっています。

今回のリニューアルの話が出たのは、ちょうど2021年の2月くらいでした。そこから企画を詰め、実際に作業に入ったのはゴールデンウィーク明けくらいでしたね。

山口 採用に関しては1年で状況が大きく変わってしまうので、悠長に作業ができなくて。今回のリニューアルも「変えなければ」「今やろう」という感じでしたね。特にコロナ禍においては、サイト経由でトヨタの情報を得ている方が増加したことをデータで把握していました。であれば、人事部がどこに投資していくかとなると、まずは採用サイトだと。求職者に最もトヨタを理解してもらえる場所なのではないかと考えたのです。

そうした観点で見たときに、例えば、弊社が「トヨタイムズ」で発信している内容に採用サイトが追いついているかというと、追いついていないという焦りがありました。

──トヨタイムズはテレビやコマーシャルで拝見する機会も多く、非常にメジャーなイメージがあります。採用サイトでも同レベルの発信が大切ということですね。

 そのとおりです。トヨタイムズは情報の更新も早いので、採用サイトがそこに後れを取ると、求職者がギャップを感じてしまうのではないかと感じていました。今後の運用においては、その点もアジャイルに対応していきたいと考えています。

小河原 トヨタイムズでも度々ふれていますが、これから私たちは、自社内で完結していた自動車会社の枠を超え、より社会と広くつながっていかなくてはなりません。例えば、モビリティ社会においては、行政や地域産業、観光業界、お住まいの方など多くの方々と良好な関係を築く必要があります。だからこそ「仲間づくり」というキーワードが大事になってくるでしょう。

展開するサービスも、車に付随するサービスを……というのではなく、社会をどう良くしていくかという視点で、どのようなサービスが求められるのかという考え方にシフトしています。採用サイトでもこの点を印象づけられるように、内容を充実させていきたいです。

山口 キャリア採用に応募される方は30代がボリュームゾーンで、子育て中の方も多くいらっしゃいます。「自分は子ども世代に何を残せるのか。そう考えたときに、トヨタの企業サイトを見て『私も社会に貢献したい。この子のために新しい未来を残してあげたい』と思った」と、面接で熱い思いを語ってくださる方も少なくありません。

それは、トヨタが目指す企業像にとって大切にしたい意識です。その観点からも、私たちは「トヨタでそういうことが実現できる」ことをもっと発信していく必要があるでしょう。多くの人にとってより良い社会を創っていくことを「採用」で後押ししていくために、これからもオウンドメディアを通した情報発信に取り組んでいきたいですね。

https://indeed-omrj.com/post-0156
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