「人生をかけて取り組みたい」と思わせるミッションを発信――グリーエンターテインメントの“共感重視”採用


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ソーシャルゲームプラットフォーム「GREE」を創業事業とし、ゲーム事業、メタバース事業、広告・メディア事業、投資・インキュベーション事業を展開するグリーグループ。ゲーム運営に特化したグリー100%子会社であるファンプレックス株式会社は、2021年7月にグリー本体の一部ゲーム事業とライセンス事業を吸収分割により承継し、グリーエンターテインメント株式会社(以下、グリーエンターテインメント)として再スタートを切った。
「日本発のIP(※1)とゲームで、世界を熱狂させる。」というミッションを掲げ、アニメIPを中心としたIPプロデュース事業とIPタイトルを主軸としたゲーム開発・運営をグローバルで手掛けている。ビジョナリーな発信をする同社には、ミッションに共感し強い熱意を持った求職者が多く志望するという。
同社は事業領域が拡大するなかでミッションを軸に据えたコミュニケーションを通じて、「共感採用」を実践している。その情報発信について、取締役兼組織企画部部長の下村直仁氏をはじめ、同組織企画部のピープルリレーションチーム マネージャーの枝川寛氏、渡辺真紀氏、高橋あゆみ氏に聞いた。
(※1)Intellectual Propertyを略した言葉。キャラクターなどの知的財産のことを指す。ゲームやアニメや漫画の業界では、ゲームやアニメや漫画の版権(著作権)を指すケースが多い

渡辺真紀氏(中央左)。組織企画部 ピープルリレーションチーム。2012年グリー株式会社入社。内製ゲームのプロデューサーを経験したのち、2017年よりファンプレックス株式会社の人事業務に携わる。産休・育休を経て2021年よりグリーエンターテインメントの立ち上げに伴う広報および制度企画を担当。
下村直仁氏(中央右)。組織企画部 部長。2009年グリー株式会社入社。2015年よりゲーム運営に特化したファンプレックス株式会社の代表取締役社長を務める。グリーエンターテインメント株式会社では取締役および執行役員として第一ゲームスタジオ事業本部 本部長及び組織企画部 部長を務める。
枝川寛氏(右)。組織企画部 ピープルリレーションチーム マネージャー。グリー株式会社にて人事制度企画を担当したのち、2020年よりファンプレックス株式会社に出向。グリーエンターテインメントにおいて採用・労務・制度企画など人事全般および総務領域を担う。
事業領域の拡大に合わせ、「何をしている会社か」わかりやすく発信
――グリーエンターテインメントは、2021年7月にファンプレックス株式会社から商号変更されました。求める人物像には変化があるのでしょうか。採用においてはどのような変化があったのでしょうか。
高橋 以前はゲーム運営が主事業でしたが、グリーエンターテインメントになったことで大きく二つの事業が加わりました。一つはゲーム開発事業。ファンプレックス時代は他社様のゲームの運営移管を行い再成長させることが主な事業内容でしたが、現在は自社名義で企画・開発から手掛ける事業も行っています。
もう一つはIPプロデュース事業。原作を発掘し、アニメ製作委員会への参画等を通じて作品作りに携わるほか、アニメ作品をゲーム化しグローバル配信するなど、アニメ・ゲーム問わずIP作品のグローバル展開をプロデュースしています。
この転換に伴い、求める人材、募集ポジションも大きく変わりました。ゲームの運営と開発でも求めるスキルセットが異なりますし、プランナー、デザイナー、エンジニアといった、いわゆるものづくり系の職種だけでなく、マーケティングや、海外営業などビジネス職の募集が新たに増えたことが、我々にとってもチャレンジでした。
――コーポレートサイトもリニューアルされたそうですが、発信内容はどのようにアップデートされたのでしょうか。
渡辺 事業領域が拡大されたことで、一言で「何をやっている会社です」という発信が難しくなり、外部からはもちろん、場合によっては社内でも、グリーエンターテインメントになって何が変わったのか、何を目指しているのかが把握しづらいのではないかという懸念がありました。
コーポレートサイトでの発信では、多岐にわたる事業体の説明よりも、誰でもパッと見ですぐに事業イメージが掴めるように、お取引をさせていただいているIPを活かしたページ作りや、シンプルなメッセージングを意識して作り込みました。
――コーポレートサイトのなかに採用ページがあります。社員インタビューでは、仕事への想いや、チームでものづくりを行うことの意義などが語られています。こうした採用情報ページのコンテンツもすべて新しく作り直したのでしょうか。
渡辺 そうですね。ファンプレックス時代からの継続事業もあるので社員インタビューなどは過去記事をそのまま掲載してもよかったのですが、「変化」と「目指す方向」を正しく伝えることが必要だと感じ、思い切ってゼロベースにして再構築することにしました。

以前は採用ニーズが高い現場の社員にフォーカスしたインタビューが中心でしたが、リニューアルタイミングでは各部門の責任者にビジョンや求める人材について語ってもらっています。
これは、当社が目指していることを社外へ発信する意図がありますが、さきほどもお話ししたように、半分は事業部門の責任者が何を考えているのかを、改めて内部で共有するという社内向け発信の目的も兼ねています。
事業全体の概要や目指す方向がある程度浸透した後は、最前線で活躍しているメンバーのインタビューも仕込んでいます。

――採用ページの刷新にあたって、発信の方向性として特に意識されたポイントなどありますでしょうか。
下村 当社は事業領域が広いだけに、一部だけを切り取っても事業内容が正しく伝わりません。例えば「アニメ製作を行う会社」と言っても、アニメーターさんのラインがあるわけではなく、委員会に対する出資や原作の開拓など、一般の方にとっては分かりにくい関わり方がメインということもあります。更には、そのアニメのゲーム化の許諾をいただき、最終的にはゲームの開発を手掛けるなど、様々なタッチポイントを有しているのが特徴です。
加えて、一つの事業がゴールするまでの期間が長いこともあります。モバイルのゲームでも開発に年単位の時間が必要ですし、アニメの場合だと、原作の選定から製作委員会への出資の決定まで1年、そこから制作に1年というように、年単位の時間をかけてようやくテレビ放送となります。しかし、テレビ放送はIPプロデュース事業のタイムライン全体のごく一部で、すぐに成果が出るものではありません。
そのため、一緒に働くメンバーには「この長い戦いの先にある意義を信じ切れること」が重要になります。社員インタビューをまずは責任者クラスでそろえて、よりミッションに則した発信にしているのも、スキルマッチも重要でありながら、現段階ではグリーエンターテインメントが掲げる“ミッションへの共感”が最重要だと考えているからです。
事業的なわかりにくさと時系列の長さという2軸に対して、少しでも求職者の方々に「この会社は正しそうだ」ないしは「楽しそうだ」と感じてもらい、「人生の一定期間を預けられる」と思ってもらう後押しになるような発信をしたいと思っています。
オウンドメディアリクルーティングの観点から見る、効果的な採用ページや採用コンテンツの考え方についてはこちらもご覧ください
一人の取締役がディレクションを一手に引き受け、純度の高いメッセージにする
――「日本発のIPとゲームで、世界を熱狂させる。」「熱狂を世界へ。」など「熱狂」をキーワードにしたメッセージが印象的です。どのように決めたのでしょうか。
渡辺 まず、「熱狂」というワードに関しては、ミッション策定のための経営陣の会議にて「熱量」という言葉がよく出ていたことがきっかけです。お客さまやIPに対しての本気で向き合う、という経営陣の覚悟が表れているワードです。
それらに加えて、採用ページTOPに大きく表示されている「この国で生まれる、素晴らしい作品を。」というコピーをはじめ、コーポレートサイト内のメッセージは、ほとんど取締役である下村が作っています。
下村 もともとゲームのプランナー出身ということもあって、社内でも「そういうの、嫌いじゃないだろ?」と思われていたのでしょうね。
渡辺 経営層である下村が自身の感じていることや熱量をもとに書いているので、結果的に採用のマッチング度の向上につながっていると思います。
高橋 7月1日、商号変更と共にコーポレートサイトのリニューアルを行ったのですが、直後に面接した方が会社のミッションを覚えてくださっていて、「共感しました!」とおっしゃっていただけたことがすごく嬉しかったです。
――ミッションや重要なコピーは、採用担当者や広報担当者での合議や、社員へのアンケートで決めるケースもありますが、そうしない理由があるのでしょうか。
下村 当グループの、ある取締役の言葉に「合議制のものづくりはうまくいかない」というものがあります。個人的にも、ものづくりのリアルなところを言い当てた言葉だと思うのですが、実際に何かしらのプロジェクトを進める際には、いわゆる「決め」を作るオーナーを明確にして、その人に集約するスタイルが多くなっています。
とはいえ、組織としてのコアの部分は共有が必要なので、立ち上げ期のボードメンバーや執行役員で協議はしました。代表からは「日本発のIPとゲームで世界を楽しませたい」ということだけは絶対に入れたいとリクエストがありました。また、ボードメンバーには「日本のIPが好き」という想いがあることが共通していたので、その熱量を預かったうえで少しずつ成形していきました。
――決めを作るオーナーが一人だからこそ尖ったミッション、メッセージになり、企業理念により強く共感する求職者が集まってくるということでしょうか。
下村 そうですね。「日本発のIPとゲームで」というミッションは、ピンポイントかもしれません。それでも共鳴してくれるのは、強い志向性を持って我々と歩もうとしてくれる人。そういった方々が確かにいるんだということは、発信したからこそ発見できたことです。
ビジョンやパーパスの発信を含む企業カルチャーの考え方については、こちらもご覧ください
あらゆるタッチポイントで一貫性のある発信をする
――業界的に離職率が高いイメージがありますが、そういった課題はありますか。
渡辺 業界全体のことはなんとも言えませんが、当社の場合は、むしろ今までいろいろな経験をされたうえで「次は腰を据えて働きたい」と志望してくださる方が多い印象です。
枝川 そうですね。「今までフリーランスだったが、組織に所属して中長期的にスキルを活かしたい」という人も多くいます。なるべく長く働いていただけそうな人を選んでいるという面もありますが、実際に長期就業している社員が多いと思います。
――長期就業する人材の確保は多くの企業が課題として抱えています。「次の職場では腰を据えて働きたい」と考える求職者に対して、オウンドメディアはどのように作用していますか。
高橋 選考中、どの段階でも「面接官の言っていることが、採用ページのメッセージとズレていない」という感想をいただくことが多いと感じています。
枝川 エージェントの方からも、当社に応募いただく方の多くが、選考が進むに連れて志望の度合いが上がっていくと言っていただけます。選考辞退は少ないと思います。
下村 ビジネスパーソンとしての成熟度が高く、会社のキャラクターを体現している人間がマネージャーとなり、面接に参加しています。それが隠れた強みとなっているのかもしれません。そうしたマネージャーから見て、「チームメンバーと協調できそう」「自ら能力開発に対してまじめに取り組みそう」と思える人を選考します。
入社後も、マネージャーがその人の人生の一部分に対してちゃんと責任を持つ。それが結果的に定着率や、入社後の納得度につながっているのだと思います。そういった長いスパンでの当社のカルチャーを、すべてとは言わずとも、オウンドメディアではブレずに発信できていることだと思うので今後も強化していきたいですね。
枝川 現状の採用はエージェント経由が中心で、オウンドメディア経由の応募はまだまだ少ないのですが、採用ページのリニューアルから3か月で倍増しました。この割合をもっと増やしていければと思っています。
大きく掲げたミッションに対し、どのように実績を積み上げているのか、の発信が今後のカギ
――オウンドメディアの活用は、御社の採用フローのなかでどのような位置づけですか。また、最終的にはどんな形で機能させたいと考えていますか。
枝川 正直にお話しすると、現段階ではまだ明確に落とし込めていません。前述のように、当社では選考の進行度合いと志望度が比例する応募者の方が多いのですが、その前段として、当社を知って応募してもらう母集団形成の段階が課題として大きいと思っています。まずは会社や事業内容の認知度を上げるツールとしてオウンドメディアを活用したいと考えています。
また、現状では当社は選考辞退が少ないとはいえ油断はできません。入社を決める最後の一押しになったり、入社後のミスマッチを防いだりするようなコンテンツを増やしていければとも考えています。
――今後の採用における情報発信の展望について教えてください。
枝川 グリーグループのなかには、ゲーム会社の先輩としてWFSとポケラボの2社があるのですが、応募者の方とエージェントから「その2社との違いはなんですか」とよく聞かれます。当社の差別化ポイントを、よりシャープに伝えられるようにしたいですね。また、ミッションの解像度を上げて、コーポレートサイトや採用ページを見れば当社のことが基本的にはすべて把握できる形にできればと思います。
下村 そうですね。さきほどもお伝えしたとおり今はミッションに即した発信をしていますが、今後はそれがどう結実したかの証明が求められると考えています。どのくらいの数の原作のアニメ化に寄与したかや、世界中のどれだけの人に楽しんでもらえているかを伝えること、そして大きく掲げたミッションが絵空事ではないという証しを語ることが、今後、当社を志望する方と入社した方の双方に対して必要だと思っています。
現在、グリーエンターテインメント創業後、初となる自社開発兼自社パブリッシングの大型タイトルを準備中です。2021年11月29日に情報が解禁されているので、多くの方にご覧いただけると嬉しいです。今後のグリーエンターテインメントの事業展開にぜひご注目ください!