企業の社会的存在意義が採用においても重要になっている背景――パーパスを起点に変わりゆく採用のこれからvol.1

2022/06/02
企業の社会的存在意義が採用においても重要になっている背景――パーパスを起点に変わりゆく採用のこれからvol.1

近年、ビジネスにおいてパーパスという言葉が語られることが増えています。オウンドメディアリクルーティングも、採用のための情報発信において、パーパスコンテンツを重要な柱として位置づけています。

本連載の著者である岩嵜博論氏は、ストラテジックデザインやビジネスデザインを専門として研究・教育活動に従事しながら、ビジネスデザイナーとして企業支援の実務も行っています。

3回にわたってお送りする本連載では、企業の採用においてパーパスが重要になっている背景として、どのような社会変化が起きているのかを語ってもらいます。同時に、どのようにパーパスコンテンツを採用施策に結びつけていくべきかという、実践的な内容も語っていただきます。

1回目は、採用においてパーパスが重要になっている背景として、企業の社会的存在意義が経営の指針となる時代が訪れたこと、それによって先進的な企業がパーパスを軸にビジネスを変革していることを紹介していきます。また、社会が変化するなかで、働くことに対する人々の意識が変わっていることについてふれていきます。

岩嵜博論氏。武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科 教授/ビジネスデザイナー。リベラルアーツと建築・都市デザインを学んだ後、博報堂においてマーケティング、ブランディング、イノベーション、事業開発、投資などに従事。2021年より武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科に着任し、ストラテジックデザイン、ビジネスデザインを専門として研究・教育活動に従事しながら、ビジネスデザイナーとしての実務を行っている。 ビジネス✕デザインのハイブリッドバックグラウンド。著書に『機会発見―生活者起点で市場をつくる』(英治出版)、共著に『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)など。イリノイ工科大学Institute of Design修士課程修了、京都大学経営管理大学院博士後期課程修了、博士(経営科学)。

パーパス(企業の社会的存在意義)が経営の指針となる時代

パーパスという言葉を耳にする機会が多くなりました。パーパスとは直訳すると目的ですが、企業の社会的存在意義という文脈で用いられています。企業やビジネスが何のためにあるのか?ということが問われるようになったことが、その背景にあります。

例えば、ソニーは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを掲げています。ソニーでは吉田憲一郎CEOが2018年に着任された後、吉田氏が全面的にコミットする形でパーパスの検討に入り、2019年1月に発表されました。

ソニーは同時期に社名をソニーグループに変更し、グループ経営に舵を切りました。パーパスが、エレクトロニクス、ゲーム、エンターテインメント、金融といった多様な事業を「世界を感動で満たす」というあるべき姿に向けて束ねる一つの原動力となっています。

企業がその社会的存在意義を今一度考え直すようになったきっかけは、企業を取り巻く社会の変化にあります。気候変動や感染症といった社会環境は、不確実かつ深刻な状況を呈しています。これらの問題のどれを取っても、政府や行政だけで対処できるものではありません。企業も公(おおやけ)の世界の一翼を担う存在として、どのように社会的責任を果たすのかということが問われるようになってきています。

これらの社会課題の先鋭化は、企業に大きな影響を与える資本市場にも変化をもたらしました。その変化を象徴するのが投資マネーのESG(環境・社会・ガバナンス)化です。持続可能な世界の実現のために、投資家が企業に対して環境や社会・企業統治へのコミットメントを求めるようになりました。

こうした社会の変化とパーパスの動きを結びつける象徴的なものとして、世界最大の投資会社であるブラックロック社のラリー・フィンクCEOが、世界の経営者に向けて発信する公開書簡があります。毎年1回発信されるこの書簡の2018年のタイトルは「A Sense of Purpose(パーパスの意識を持つ)」でした。企業にはこれまでのように利益を上げるだけでなく、社会的責任も果たすことが機関投資家からも求められていると述べたのです。

フィンク氏は一貫して企業の社会的責任と事業成長の両立を説きます。2019年の公開書簡のタイトルは「Profit & Purpose」でした。企業の社会的責任と成長を両立するモデルを描けないことには、企業が持続的に発展することは難しいという主張です。まさに困難な社会課題に囲まれた新しい経営の考え方だと言えるでしょう。

グローバル企業のなかにも、パーパス経営に着手するところが現れてきました。日用品大手のユニリーバはそのうちの一つです。ユニリーバはサステナブル・リビング・プランというサステナビリティと事業の成長を統合する経営計画を策定し成果を上げてきました。ユニリーバはコーポレートサイトのStrategy(戦略)のページに「make sustainable living commonplace.」(「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」すること)というパーパスを掲げ、具体的な取組みを紹介しています。まさにパーパスを起点とした持続可能な成長を実現する経営です。

ユニリーバ・ジャパンの採用への取り組みはこちらへ

ポストコロナにおいて重要になる「働く意義」

さて、パーパスと採用にはどのような関係があるのでしょうか。実は、パーパス経営の時代において大きな影響を受ける部門の一つが採用や人事の部門なのです。その背景には人々の働く意識の変化があります。

ポストコロナの世界が見え始めたアメリカやヨーロッパにおいて、「The Great Resignation(大退職時代)」というキーワードが注目されています。これまでの働き方を考え直し、今就いている仕事を離れる人々が大量に発生しているのです。アメリカではピーク時には月間数百万人単位での退職者が生じました。

これほどまでに多くの人々が仕事を考え直し退職することになった最大の要因は、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響です。アメリカやヨーロッパでは厳しいロックダウンが続き、仕事のリモートワーク化が進むことで、職場を離れ家族と過ごす時間が増え、人生の価値とは何かを考え直すきっかけとなりました。

大退職のトレンドは、リモートワークができる仕事に就いている人だけではなく、エッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちにおいても同様に起こっています。パンデミックの最中における厳しい労働環境がきっかけになって、仕事のあり方や会社との関係性を見直す動きが見られます。

このように、パンデミックは人々の働き方に対する意識に、大きな変化をもたらしました。報酬の多寡だけでなく、家族との時間や、その仕事における働く意義を人々は求め始めているのです。

ハーバード・ビジネス・レビューの2021年9月号に掲載された論文「Who Is Driving the Great Resignation?(誰が大退職時代を牽引しているのか?)」(著者はデジタルHRストラテジストであるイアン・クック氏)によると、退職が顕著に見られるのは30〜45歳のミドル層だということです。一定の経験を持つミドル層人材のニーズが高いことに加えて、ミドル層は子育て世代でもあるので家族や子どものために働き方を見直す人が増えたことが背景のようです。

マサチューセッツ工科大学(MIT)のビジネススクールが出版するMITスローン・マネジメント・レビューの2022年1月号に掲載された論文「Toxic Culture is Driving the Great Resignation(有害な企業文化が大退職時代の背景)」(著者はCultureXの共同創業者ドナルド・サル、チャールズ・サル、Revelio LabsのCEOのベン・ツヴァイク)によると、大退職の背景として、企業文化のあり方が給与への不満の10倍もの影響力を持つことが指摘されています。

人々が、報酬よりも企業の社会的存在意義に代表される企業文化をより重視するようになってきていることが象徴的です。ポストコロナの時代において、企業がどのように社会的存在意義を定義し、実行するかが採用においても重要になることが予見されます。

オウンドメディアリクルーティングが考えるパーパスコンテンツの作り方はこちらへ

将来の仲間を惹き付けるパーパス

パーパス経営と採用の関係をもう少し深く見てみましょう。ポストコロナの世界において、働くことにこれまで以上に意義が求められるなか、パーパスには人を惹き付ける力があります。将来の仲間となる人々に興味を持ってもらい、意欲を持って仕事をしてもらうための起点となるのです。

ユニリーバのアラン・ジョープCEOは大手法律事務所のClifford Chanceによるインタビューにおいて、企業がパーパスに取り組む理由を4つ挙げています。1つ目はこの記事の冒頭でも述べた社会的責任と利益の両立です。2つ目はコスト削減につながること。3つ目は世界のリスクを軽減できること。そして、4つ目に挙げるのが人事、特に採用についてです。

ジョープCEOは、ユニリーバのパーパスが、能力と意欲を兼ね備えた人に集まってきてもらえる動機の一つとなっていると言います。もしかするとユニリーバの報酬は他の業界と比較するとそれほど高い水準にないかもしれないが、それでもユニリーバが掲げるサステナブルな世界に共感したメンバーが集まって来てくれていると言います。

「make sustainable living commonplace.」(「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」すること)というユニリーバのパーパスは、一つの企業が掲げる目的としては少し大きな物語に聞こえるかも知れません。一方で、このパーパスに共感する人々は大きな物語だからこそ共感し、自分もその物語を実現するための一員になりたいと考えるのではないでしょうか。

拙著『パーパス 「意義化」する経済とその先』では、パーパスを「大きな船」という比喩的なコンセプトで説明しています。これまでのビジョンやミッションは、その企業がなりたい姿を一人称的に表現する「小さな船」であるに対して、パーパスはその企業はもちろん関わるのですが、目指す世界に共感してくれる多様なステークホルダーを乗せることができる「大きな船」だと考えています。従業員はその航海を共にする重要なステークホルダーの一つです。

前述のフィンク氏の公開書簡とともに、世界でパーパスが注目されるようになったもう一つのきっかけがあります。2019年に、アメリカの大手企業のCEOが参画する団体であるビジネス・ラウンドテーブルから発表された「Statement on the Purpose of a Corporation(企業のパーパスに関する宣言)」です。この宣言は、企業はこれまで最優先してきた株主だけではなく、他のステークホルダーへも配慮した経営を行うべきというものでした。

ビジネス・ラウンドテーブルの宣言では、株主の他に、従業員、顧客、サプライヤー、地域コミュニティを重要なステークホルダーとして挙げています。企業のパーパスはこれらのステークホルダーを束ね、同じ方向に導く北極星として機能するのです。まさに「大きな船」としてのパーパスにステークホルダーが共感し、ともにあるべき世界を目指すというモデルです。

こうしたモデルは、ステークホルダー主義、あるいはステークホルダー資本主義と呼ばれ注目を集めています。ステークホルダー主義については次回の連載でさらに詳しくふれながら、「大きな船」としてのパーパスをどのように作っていくか、その時の採用・人事担当者の役割とは何かということについて考えていきたいと思います。

パーパスに焦点を当てた特別対談はこちらへ

https://indeed-omrj.com/post-0185
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この連載の記事一覧
  1. 企業の社会的存在意義が採用においても重要になっている背景――パーパスを起点に変わりゆく採用のこれからvol.1
  2. 社内でパーパスをどう規定し、どう実践していくか――パーパスを起点に変わりゆく採用のこれからvol.2
  3. パーパス時代における企業文化の発信と人材獲得――パーパスを起点に変わりゆく採用のこれからvol.3
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