社内でパーパスをどう規定し、どう実践していくか――パーパスを起点に変わりゆく採用のこれからvol.2

2022/06/16
社内でパーパスをどう規定し、どう実践していくか――パーパスを起点に変わりゆく採用のこれからvol.2

近年、ビジネスにおいてパーパスという言葉が語られることが増えています。オウンドメディアリクルーティングも、採用のための情報発信において、パーパスコンテンツを重要な柱として位置づけています。

本連載の著者である岩嵜博論氏は、ストラテジックデザインやビジネスデザインを専門として研究・教育活動に従事しながら、ビジネスデザイナーとして企業支援の実務も行っています。

3回にわたってお送りする本連載では、企業の採用においてパーパスが重要になっている背景として、どのような社会変化が起きているのかを語ってもらいます。同時に、どのようにパーパスコンテンツを採用施策に結びつけていくべきかという、実践的な内容も語っていただきます。

2回目は、社内でパーパスをどのように規定していけばいいのかについて考えていきます。まず、パーパスが大切にしているステークホルダーについて解説するなかで、パーパスと従業員の関係を紐解きます。次に、どのように社内を巻き込んでパーパスを規定していくか、さらに、どう従業員がパーパスに自発的に関わるようにしていくかについて、具体的な方法を解説していきます。

岩嵜博論氏。武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科 教授/ビジネスデザイナー。リベラルアーツと建築・都市デザインを学んだ後、博報堂においてマーケティング、ブランディング、イノベーション、事業開発、投資などに従事。2021年より武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科に着任し、ストラテジックデザイン、ビジネスデザインを専門として研究・教育活動に従事しながら、ビジネスデザイナーとしての実務を行っている。 ビジネス✕デザインのハイブリッドバックグラウンド。著書に『機会発見―生活者起点で市場をつくる』(英治出版)、共著に『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)など。イリノイ工科大学Institute of Design修士課程修了、京都大学経営管理大学院博士後期課程修了、博士(経営科学)。

パーパスを真ん中に置いて、ステークホルダーと共創する

前回の連載ではパーパスが注目されている背景を紹介し、経営の指針としてのパーパスの重要性にふれました。ポストコロナの時代において、働くことの意義がますます重視されるようになり、現在と将来の従業員に対して働く意義を明示することができるパーパスが人事戦略上必須になってきていることを述べてきました。

パーパスの世界において重要な概念の一つがステイクホルダー主義です。前回の連載では、アメリカの経営者の団体であるビジネス・ラウンドテーブルから「Statement on the Purpose of a Corporation(企業のパーパスに関する宣言)」という宣言がなされたというお話をしました。株主だけではなく、従業員、サプライヤー、顧客、地域コミュニティといった多様なステイクホルダーへの配慮が、経営において必要になるという宣言です。

拙著『パーパス 「意義化」する経済とその先』において、重要な図の一つにこれらのステイクホルダーがパーパスを囲んでいるというものがあります。前回の連載でも説明したように、パーパスは多様なステイクホルダーと共に実現する「大きな船」と定義できます。多様なステイクホルダーから共感されるパーパスを真ん中に置いて、パーパスで示された世界を一緒に実現していくという考え方です。

『パーパス 「意義化」する経済とその先』の図表を元に作成

前回紹介したラリー・フィンク氏の年次公開書簡。最新の2022年のレターでは、まさにパーパスを中心にしたステイクホルダー主義が主題となっています。パーパスを起点に、ステイクホルダーとともに持続的な価値を創造することの重要性が説かれています。レターのタイトルは「The Power of Capitalism(資本主義の力)」。ステイクホルダー主義こそが新しい資本主義の姿だと主張しているのです。

フィンク氏がレターのなかで特に重要だとするステイクホルダーが従業員です。パンデミックによって企業と従業員の関係は激変しました。従業員は働く意義を求め、それが提示できない企業からは積極的に去る傾向が強まっています。フィンク氏のレターでも、従業員との有効な関係性を維持する適切な企業文化の構築が、ガバナンス上の課題になると断言しています。

トップダウンとボトムアップで社内を巻き込み、パーパスを規定する

このように、パーパスを真ん中に置いたステイクホルダー主義を実践していくうえで、企業にとって最も重要なステイクホルダーである従業員をどのように巻き込んでいけばよいのでしょうか。

『パーパス 「意義化」する経済とその先』では、パーパスの規定を行ううえでのフレームワークを提示しています。自組織の探索と社会の探索を踏まえて、その両者を統合する形でパーパスのコンセプトを導出するというモデルです。「小さな船」であるビジョン、ミッションの規定では、自組織の強みや可能性を探索することに重点が置かれました。一方、「大きな船」であるパーパスの規定では、自組織に加え、社会にどのような課題があるか、その課題を前提にしたときに自組織に対してどのようなインパクトがあるのかを探索する必要があります。

パーパスの規定において特徴的なのは、トップダウンとボトムアップが融合した取組みになる点です。前回の連載で紹介したソニーでは、トップ自らパーパス策定に関わると同時に、若手も含めた多くの社員のディスカッションのなかから生まれました。パーパス策定においては、こうした社員の参加やボトムアップの議論も不可欠です。

パーパス策定において社員の参加が必要な理由は大きく2つあります。1つ目の理由は、パーパス経営においてはパーパスを実現するために社員の自発的な関わりが重要になるためです。パーパスは組織の北極星とも言われることがあります。遠くにあって組織の進む道を示す道標という意味です。組織のメンバーはそれぞれの活動を、パーパスを意識しながら行うことで、組織全体があるべき方向に動いていくというイメージです。

これを実現するためには、社員が共感できるパーパスを定める必要があります。そのためにもパーパスを議論する際には、できるだけ多くの社員の意見を集めて議論の土台とするとよいでしょう。経営者と社員の間をつなぐ人事部門の役割も大きいと言えます。

2つ目の理由は、パーパスは長期的視座に基づくものであり、次世代の組織の担い手の関与が必要不可欠であるためです。パーパスは短期的に実現してく世界というよりは、時間をかけて実現するものです。パーパスに責任を持つのは今の経営陣だけではありません。将来経営を担っていく世代の社員もパーパスの規定に参加すべきです。

企業のパーパス策定のお手伝いをする過程で、策定メンバーにはどんな社員を入れた方がいいですか?と聞かれることがあります。そんな時、10年、20年後に経営を担う可能性がある次世代社員の方々を入れて下さいとお伝えしています。これはその方々が実際に幹部候補生かどうかが重要なのではありません。それぞれの世代の気持ちを代弁しながらパーパスの議論に参加してもらうことが大切なのです。

組織のパーパスと個人のパーパス

『パーパス 「意義化」する経済とその先』のなかで、あなたの仕事はなんですか?と聞かれたNASA(アメリカ航空宇宙局)の清掃員の方が「私は掃除することで、人類を月に送ることに貢献しているのです」と答えた逸話を紹介しています。これは個人の仕事の意義を、組織の意義と完全に重ね合わせている事例だと言えます。

パーパスの議論のなかで、組織のパーパスと個人のパーパスというものがあります。組織としてのパーパスがあるのと同様に、個人的にも個人としてのパーパスがあるべきだという考え方です。組織のパーパスと個人のパーパスがどのように重なり合うことができるのかが重要な論点となります。前述のNASAの清掃員の事例は、組織のパーパスと個人のパーパスが見事に融合した形と言えます。

このように組織のパーパスと個人のパーパスが完全に重なり合うことは一つの理想の形ですが、現実はそうは簡単にはいきません。ここで注意が必要なのは、組織のパーパスを個人に強制するのではないということです。もしかすると「小さな船」としてのビジョン、ミッション、古くは企業理念を朝礼で復唱するといったことは、組織の論理を個人に強制するという考え方だったかもしれません。

「大きな船」としてのパーパスは、個人の自発的な共感が前提となります。そのうえで、個人として実現したい世界を包含する姿勢がパーパス経営における人事施策には求められます。Z世代と呼ばれる仕事に意義を求める若手の社員においては、この傾向がより顕著なのではないでしょうか。これから組織に加わる将来の社員も、基本的にこうした考え方を持った方々が多くなります。

これまでの「組織の色に個人を染める人事戦略」に限界が訪れようとしています。組織のパーパスとともに、個人としてのパーパスの存在を尊重し、企業としてこの二つがどのように重なり合う仕事環境を実現できるかを考えるのが、これからの人事部門の課題だと言えます。

企業によってはパーパス経営の取組みのなかで、組織としてのパーパスを踏まえて、個人としてのパーパスを掲げることを人事施策として採用しているところがあります。個人が組織のパーパスを念頭に置いて個人のパーパスを考えることで、社員個人が二つのパーパスの重なりを意識するという仕組みです。その際、組織のパーパスと個人のパーパスは必ずしも完全一致している必要はありません。

『パーパス 「意義化」する経済とその先』のなかで、会計監査やコンサルティングなどを手掛けるグローバル企業KPMGの「1万ストーリーチャレンジ」を紹介しました。これはKPMGの“Inspire Confidence, Empower Change(社会に信頼を、変革に力を)”という組織のパーパスを個人のストーリーに紐付けたものを、自分の顔写真とともにポスターやイントラネットなどで社内展開したものです。これも組織のパーパスと個人のパーパスの重なり合いを意識してもらうための施策の一つだと言えます。

これまで企業は、企業として目指す方向を社員にも従ってもらうという姿勢でした。これからの企業は、パーパス経営時代において、組織のパーパスに基づいて、従業員も自己実現を目指すというモデルに変わっていくでしょう。また、こうした姿勢が世の中に発信されることで、優秀な人材が集まるようになります。

次回の連載では、パーパス時代において、企業文化をどのように発信し、いかに人材獲得に結びつけていけばいいのか、採用に関する実践的な施策を紹介したいと思います。

パーパスに焦点を当てた特別対談はこちらへ

https://indeed-omrj.com/post-0187
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この連載の記事一覧
  1. 企業の社会的存在意義が採用においても重要になっている背景――パーパスを起点に変わりゆく採用のこれからvol.1
  2. 社内でパーパスをどう規定し、どう実践していくか――パーパスを起点に変わりゆく採用のこれからvol.2
  3. パーパス時代における企業文化の発信と人材獲得――パーパスを起点に変わりゆく採用のこれからvol.3
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