求職者と企業の力関係が変わった今、SNSで採用情報を発信する意味

2022/09/14
求職者と企業の力関係が変わった今、SNSで採用情報を発信する意味

オウンドメディアリクルーティングの重要性がより増している昨今、採用目的でSNSを効果的に使っていきたいと考える企業が多いだろう。一方で、炎上を恐れてSNSは使いたくないと考える企業も少なくないだろう。

企業がSNSを始めるときどんなことに気を付け、どのように向き合い、どのように成果を上げていけばいいのだろうか。『自分の名前で仕事がひろがる 「普通」の人のためのSNSの教科書』(朝日新聞出版)の著書があり、企業のSNS活用についてサポートを行っているnoteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏に、採用活動におけるSNSの活用術について聞いた。

前編では、オウンドメディアリクルーティングにおける情報発信でSNSの活用が重要性を増している理由について紹介した。後編では、採用情報の発信においてSNSをどう活用するべきか、より実践的なノウハウについて紹介する。

note株式会社 noteプロデューサー/ブロガー
徳力基彦氏
NTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、アジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。代表取締役社長や取締役CMOを歴任し、現在はアンバサダープログラムのアンバサダーとして、ソーシャルメディアの企業活用についての啓発活動を担当。noteでは、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるブログやソーシャルメディアの活用についての支援を行う。
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まず一歩踏み出し、続けながら自然体のコミュニケーション方法を見つける

――SNSやオウンドメディアにおいて、一人でも多くの人に記事を読んでもらうためのコツや効果的な書き方はありますか。

徳力 まずはオンライン上で発信することに慣れるために、野球に喩えるならバットを何回も振ることを優先していただきたいです。「完璧になってから出そう」というのは日本人によくある感覚ですが、そうすると怖くて1本目の記事が出せません。

残念ながら、採用のためのオウンドメディアにおいては最初の記事はあまり読まれないのが現実です。下手したら10記事目、20記事目になっても読んでもらえないかもしれない。最初から完璧なものをめざすのは無駄なんです。

まずはメモ的なものでいいので、面接のときに必ず説明していることを自分なりの言葉で書いてみる。「記事」というと難しいと思いがちですが、あくまでコミュニケーションと考えて、誰かにメールを送るイメージで書くといいでしょう。

そして、候補者へ事前に送って読んでもらったり、周りの社員に見てもらったりしてフィードバックを得ながら、自分なりの正解を見つけていただきたい。自分なりの自然な形でのコミュニケーション方法を見つけてもらう方が続きますし、続けていくことで読んでもらうための正解に近づけると思います。

炎上をただ恐れるのではなく、起こる理由や起きたときの対処法を考える

――炎上が怖いという企業も多いと思います。企業として、炎上にどう向き合えばいいでしょうか。

徳力 炎上しやすい時代になったことは間違いありません。Twitter上である程度まで投稿数が増えるとトレンド入りするので、それをネットメディアが取り上げて、時にはポータルサイトの記事になり、そのままテレビニュースになってしまう。もともとはたいして炎上していなかったのに、メディアが取り上げたことで大炎上してしまうわけです。炎上が怖いからSNSは使いたくないという気持ちはよくわかります。

しかし、そこには根本的な誤解があります。残念ながら、SNSを使わなくても炎上する時代になっているのです。例えば面談のときに暴言を吐いたら、その応募者がSNSに投稿して炎上するかもしれません。不適切な行為をすること自体が炎上のリスクになるわけです。SNSを使わないと、どういうことが炎上するのか肌感覚でわからないので、むしろ危険かもしれません。

なぜ炎上が起こるかというと、ユーザーの口コミ力が強くなったからです。裏を返せば、「あの会社いいね」と思ってもらえれば、ユーザーが口コミでどんどん広げてくれて応募者が増えることにもつながります。リスクが大きくなった反面、リターンも大きくなっているのです。

みんなが自動車を運転してどこでも行けるようになった一方で、交通事故のリスクがあるように、SNSを使って誰もが発信できることによってコミュニケーションの幅が広がったけれども、炎上のリスクがある。だからこそ、運転免許講習のように、社員に対するSNS発信講習が必要です。炎上した場合には、大炎上にならないように失言があれば認め、すぐ謝罪するようにします。

徳力基彦氏

各SNSプラットフォームの特性を理解し、ストックとフローを組み合わせる

――SNSプラットフォームには様々なものがあり、それぞれユーザーにも特性があります。どのプラットフォームを選び、どうプラットフォーム同士の活用を連動させればいいでしょうか。

徳力 業種や職種によって違いますが、基本は対象となる求職者がいるプラットフォームを選択するべきですね。また、そのプラットフォームで自社の魅力をうまく説明できるかを基準に選ぶといいでしょう。

年代が高めのビジネスマンであればFacebook、外資系志向ならLinkedIn、幅広い層であればTwitterやInstagramが有効でしょう。TikTokはフォロワー数に関係なく「おすすめ」に動画を表示するロジックが働くので、知名度が低い企業にもチャンスがあると言えます。YouTubeのショート動画やInstagramのリールも同じような仕組みになっており、対象者に刺さるコンテンツを作ることができれば知名度を上げるチャンスです。プラットフォームの連携は、ストックとフローの組み合わせで考えます。例えば、ストック価値が高いnoteは、多くがTwitterかFacebookを経由して、もしくは検索エンジンからアクセスされることが多いです。そこで、拡散力があり、フロー価値が高いTwitterでできるだけたくさんの人とつながっておいて、noteに誘導できるようにしておくパターンがいいでしょう。

オウンドメディアで情報発信する意味を検討し、持続可能な体制やKPIを築く

――企業でSNSの情報発信を続けるには人的ソースの確保も大切です。企業の価値観やカルチャーをよくわかっている内部の人間が作るべきという考え方もあれば、外部のライターに第三者的な視点で見てもらったほうがいいという考え方もあります。

徳力 プロに任せる予算があるのなら任せるのもいいですが、無理なく続けられる状態を作ることの方が重要です。広告を打てばすぐに結果が出ますが、オウンドメディアはストック価値の方が大きいという特徴があります。5本だけ記事を作って終わりなら、企業のホームページに載せておけば充分です。オウンドメディアは、企業がどういうことをしているかがオンライン上で見えるように、定期的に発信し続けられる仕組みを作ることこそが大切です。

ポイントは投資対効果をきちんと見ることです。毎月数百万円を払うのであれば、投資対効果が合っていないと思います。1人の社員が空き時間に週に1本記事を書くぐらいのコストで数百人が読み、そのうちの数人が応募してくれたら充分ペイする。効果測定が短期で測れない分、大きな金額をいきなりかけるのではなく、スモールスタートで始めてみるのがいいと思います。

――効果測定が短期で測れないとのことですが、KPIはどう設定すればいいでしょう。

徳力 どうしてもインプレッションやページビューなどに注目する方が多いですね。採用広告も「10万人に打てます」「バナーが100万人に表示されます」といった広告手段を使うことがあると思いますが、そもそも10万人を募集したいんでしたっけという話です。

本当に来て欲しい数人の心を動かせばいいわけですから、量よりも質を求めてるはずです。ただ、質となると指標がなかなかないので量を見てしまう。特に、SNSはフォロワー数が可視化されてしまうので、ライバル企業と比較しがちです。目的とKPI設定を取り違えないように気を付けるべきでしょう。会社を好きになってもらう、入社してほしい人に応募してもらうために、情報発信をするべきです。

求職者がメディア化した今、求職者の心を動かすことに注力する

徳力基彦氏

――求職者の心を動かすために、どんなことに気を付けるべきでしょうか。

徳力 求職者に会社の良さを綴ったメッセージをぶつければ、彼らの心を動かせると考える企業が多いのですが、これは宣伝行為です。SNSにおいて宣伝は避けられます。最初(前編)にお伝えしたとおり、ソーシャルメディア時代は企業と求職者の力関係が逆転しているので、宣伝自体が機能しないのです。

求職者の力が強くなったことの本質は、求職者全員がメディア化したということです。企業が一方的に情報発信を頑張るのではなく、求職者が「あの会社面白い」「あの会社で働いてみたい」と言ってもらえるようにする、彼らの口コミを活かそうと発想を変える必要があります。

――求職者の心が動いたと判断するポイントはどこにあると考えればいいですか。

徳力 とても難しいですが、コメントでしょうか。滞在時間や「いいね」率という数字で見ることもできなくはないのですが、やはり「感動した」「こんな会社とは知らなかった」「意外とこの会社面白い」といったコメントやツイートが付くようになると見えてきます。

しかし、最初の頃はコメントは付きませんし、ツイートもしてもらえません。コミュニケーションはいきなり正解にはたどり着きません。反応が出るまでは、社内の人に聞いてみる。厳しいこと言われるかもしれませんが、それを参考にしながら場数を踏んでいくしかありません。

――SNSによる情報発信の効果を中期長期的考えていこうとする場合、それを経営層が理解し、チャレンジさせてくれる胆力が必要かもしれません。

徳力 続けていくには、小さい成功を積み上げていくしかありません。就職のように人生がかかっている行為は、おそらく情報力が浅い記事の量だけを増やしてもきっと動かない。スパム的なバナーを出して数百万インプレッションを出したところで、それを見て応募者が激増すると思えません。逆に、「あの会社はあんなサイトにも広告を出している。センスない」と、その企業のことを嫌いになる人が増えてしまうこともあります。定量的なことだけを見ていると、定性的なことは見えないことがあるので注意したいですね。

うまく続けている企業の話を聞くと、例えば入社した社員に入社を決めた理由を聞くと、「あの記事を読みまして⋯⋯」という話が出てくると言います。最近も、元テレビ朝日アナウンサーの大木優紀さんが、ベンチャー企業の令和トラベルさんに入社するきっかけがnoteの記事だったという話がありました。そうした事例がだんだん出てくると思います。質がよければ、最終的には量にも響いてくるはず。

企業の思いをオンライン上にストックしておくことを、僕はよく「オンライン上の分身」と呼んでいます。オンラインに分身がいて、「この会社はこんな会社だよ」と、検索経由やSNS経由でいろんな人にずっと話してくれている。喩えるなら就職説明会で社員が1人ずっと立っていて、通りかかる人に会社の良さを説明している状態です。

オウンドメディアは長く続けていれば、オンライン上の分身がいろんな人と話してくれて、それが会社を選択する決め手になるかもしれない。それによって効果は証明されていくはずです。

https://indeed-omrj.com/post-0197
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この連載の記事一覧
  1. 採用情報発信において、SNSと向き合うことが避けられない理由
  2. 求職者と企業の力関係が変わった今、SNSで採用情報を発信する意味
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