“大退職時代”に重要性を増す採用ブランディング
Indeed採用ストラテジストが語る日米国の労働市場から学ぶ採用戦略最前線

“大退職時代”に重要性を増す採用ブランディング

2022/09/01

日本の採用市場において転職がより一般化し、ジョブ型採用も広がり始めるなど、企業と人の関係が変化しつつある。米国では、HRテクノロジーがいち早く導入されHRに変革が起きている。

経済がグローバル化するなか、米国における採用市場の動向を見つめ、日本との相違点や共通点を探ることは、日本の採用がどう変わっていくかを考えるにあたって大きなヒントを得られるのではないか。

そこで今回は、Indeedの米国の採用ストラテジスト(*1)であるジェフリー・ジョンソンのインタビューをお届けする。

*1 採用責任者や担当者に向け、採用トレンドをはじめとするHR情報の発信、Indeedの製品ポートフォリオを活用して採用活動を最適化する方法などのアドバイスや支援を行う

前編では、コロナ禍が米国の採用市場に与えたインパクトに焦点を当てる。同時に、米国の採用市場で起きている地殻変動のなかで、重要性を増している採用ブランディングについて語ってもらった。

ジェフリー・ジョンソン
18年間にわたる採用キャリアにおいては、Indeedを主な採用ツールとして用い、多くの求職者の仕事探しをサポート。2016年にIndeedに参画後は、採用ストラテジストとして企業の採用担当者の支援を行い、現在は採用ストラテジストチームを率いる。企業に向けて、Indeedのデータや業界トレンド分析を用いた有効な採用戦略の立案やコンサルティング、セミナー等でのプレゼンテーションを行う。
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コロナ禍が米国にもたらした「大退職時代」

Indeed Japan 今回は、採用市場の変化が先行して起きている米国の状況を知ることで、日本の採用市場の将来を占うことができるのではと思い、ジェフリーさんに米国の状況を教えていただければと思います。

これまで日本の採用市場は、終身雇用、新卒一括採用など、日本独自の状況が続いてきました。企業は毎年、数十万人規模の新卒を採用して配属し、定期的に異動もあります。米国のように特定のジョブに対して雇用が行われるのとは対照的です。

しかし、ここ数年で日本の採用市場に変化も見られます。世界経済の影響やビジネス環境の変化を受けて、従業員がジョブディスクリプションに基づいて業務をしたり、新しい挑戦をしようと転職したりする人が増え始めてきました。

まずは、米国の採用トレンドから教えてください。コロナ禍の前後で、どのように変化したのでしょうか。

ジェフリー・ジョンソン(以下、ジョンソン) コロナ禍の影響がまだ出ていない2020年2月1日と比較して、2022年2月1日の時点で、Indeed上の求人数は60.4%増加しました。2021年の夏以降、求人数に対して求職者数が下回る状況が続いています。完全に人手不足の状況であり、雇用主は優秀な人材をどう引き止め、あるいは獲得するかに頭を悩ませています。採用や既存社員の定着施策において、企業は戦略変更を求められているのです。

コロナ禍が起きた直後の求人数
コロナ禍が起きた直後に求人数は激減したが、21年にかけて回復し、その後は22年になっても求人数は増加傾向が続いている

このような現象から、現在は大退職時代(great resignation)と言われています。当初は失業保険(*2)目当てではないかという推測がありましたが、コロナ禍において実施されたリサーチやデータから、失業保険の存在だけが大退職時代の理由ではないことがわかりました。

*2 米国政府は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年3月、通常の失業保険に対する上乗せ措置を導入した

他の原因は何かと言うと、おそらく仕事への再評価が始まったのだと思われます。コロナ禍になって多くの仕事がオンラインになりました。急に生活の変化を強いられましたが、それに慣れてくると、あらためて仕事が自分にとって何を意味するのかを考えるようになりました。自分と家族の安全を重視するようになり、オフィスではなくても仕事できることがわかりました。

コロナ禍は、人々が立ち止まって、今の仕事で本当に幸せかを問う機会をもたらしました。もっと精力的に仕事がしたい、もっと高い報酬が欲しい、リモートで働きたい、など、より幸せになるために、それまでの仕事を辞め新しい機会を求めて動き始めた人が少なからずいます。

さらに、米国で人材が流動的なのは社会的な背景もあります。米国では公的年金制度が確立されておらず、人々は401(k)プラン(*3)などを使って自分で積み立てをしています。公的年金制度がある日本とは異なり、同じ会社に長く勤務するインセンティブがないのです。

*3 米国の確定拠出年金制度のうち、内国歳入法401条項を根拠とするもの。従業員は任意で給与から拠出金を出し(企業も上乗せして拠出するケースが多い)、自らの責任で運用を行う。従業員の持分が明確なので、転職時も拠出してきた年金をスムーズに移行できる

人材獲得難時代にあって、採用ブランディングが重要に

Indeedの採用ストラテジストであるジェフリー・ジョンソン

Indeed Japan 米国の企業は、このような人々の働き方の変化についてどのぐらい理解しているのでしょうか。

ジョンソン 業界や企業により理解度に差があるのが現状です。また、理解していたとしても、実際どの程度対応できるかは業界によって異なります。

コロナ禍による打撃を最も受けたのは、小売業と観光サービス業です。ともにリモートワークが難しい業界であり、苦戦しています。このように現場に人が必要で柔軟な働き方が難しい業界では、シフト制を選択できるようにしたり、賃金アップ、入社時に支払われるサインオンボーナス(契約金)、年金などをインセンティブにしたりする動きがあります。

2020年にIndeedが行った調査によると、米国で求職者が重視することの上位3つは、「賃金」「スケジュールの柔軟性」「ワークライフバランスの改善」です。雇用する企業側も、この3つを重視して採用活動をしています。

Indeed Japan 米国から学ぶことは多そうです。では、働く人の変化に対し、米国の企業はどのように戦略を変えているのでしょうか。

ジョンソン 求職者は、特に安全性についての考え方が変わり、これまでは許容できたものが許容できなくなっており、働き方の柔軟性などを求めています。

このような求職者のニーズに対応すべく、企業は報酬や福利厚生、柔軟な働き方、ワークライフバランスなどの面で改善し、それを求職者に伝える必要があります。

求職者は、これまで以上に企業の下調べをしています。例えばIndeed、Glassdoor(*4)のようなオンラインのジョブプラットフォームをはじめ、様々なチャネルを積極的に活用する動きが見られます。

*4 現在働いている従業員や元従業員が匿名で会社をレビューするWebサイトを米国で提供しており、Indeedと同じくリクルートグループに属する

人材を探している企業は、この人たちに対して、給与、福利厚生はもちろん、自社のカルチャーや自社で働くことの意義をどのように説明するのかを考え直さなければなりません。つまり、雇用主が採用をするにあたり、自社をブランディングする“採用ブランディング”の重要性が高まっています。

パーパスやカルチャーを伝える場としてのオウンドメディアリクルーティング

Indeed Japan 日本では、これまでは求職者が応募するのを待ったり、人材エージェンシーを使ったりするなど、どちらかというと受け身の企業が多かったのですが、状況が変わってきています。

リクルートが2021年に行った転職活動者の意識・動向調査でも、日本の求職者が特にパーパスを重視する傾向があり、帰属意識、信頼性、企業のバリュー、柔軟性などの優先順位が上がっていることが見てとれます。

このような変化に対し、企業側も市場にいる求職者にメッセージを送ることが重要だと気付き始めています。Indeed Japanが2018年から推奨しているオウンドメディアリクルーティングでも、オウンドメディアを使って自社のパーパスやカルチャーについて情報発信することが重要だと伝えています。

採用ブランディングが先行している米国から見て、採用ブランディングにこれから取り組もうとする日本企業に何かアドバイスはありますか。

ジョンソン 採用ブランディングは、消費者に対するコンシューマーブランディングと同じように、重要なものとして取り組まなければなりません。製品体験が良くない企業の製品を消費者が購入しないように、採用体験が悪いと、その企業に求職者は就職しません。

企業は求職者に自社について知ってもらい、採用体験を改善する必要があります。そこでは自社のカルチャーがどのようなものかを透明性をもって見せることが重要です。求職者は自分と同じような価値観をもつ企業や人と働きたいと思っているため、どんな人が働いているのかを見せることは効果があります。

Indeedは企業に対し、実際に働いている社員を見せることを推奨しています。小売店なら、最前線で顧客と接している人もいれば、バックオフィスで働いている人もいます。求職者は両方を見たい、知りたいと思っています。これにより、自分がそこで働くことを具体的にイメージしやすくなります。

実際に働いている人が書き込んでいるレビュー(口コミ)も重要です。求職者はレビューをチェックし、レビューがあれば反応してアクションを起こします。消費者から商品やサービスに関して問い合わせがあれば応じるように、求職者とのやりとりにおいてもオープンでレスポンス性を高くすることが大事です。

また米国では、ダイバーシティ、インクルージョン、帰属意識、同一労働・同一賃金、働き方の柔軟性などを重視する傾向が続いています。例えば企業も、国際女性デーやプライド月間(*5)などに参加したら、それについて情報発信すると良いでしょう。

*5 毎年6月に行われ、LGBTQ+のコミュニティーやジェンダーの多様性を祝うパレードや、LGBTQ+の権利啓発のイベントが開催される

採用ブランディングは継続的な取り組みです。1年に1度だけ取り組めば終わり、1度設定すれば終わりというものではありません。ブランドが進化していることを求職者に見せ、継続的にエンゲージメントを高める必要があります。

https://indeed-omrj.com/post-0199
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  1. “大退職時代”に重要性を増す採用ブランディング
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