管理から寄り添いの転換。マーケティング思考で実現する社員一人ひとりを見つめた人事施策

2022/12/14
管理から寄り添いの転換。マーケティング思考で実現する社員一人ひとりを見つめた人事施策

2022年9月29日に開催された「Owned Media Recruiting SUMMIT 2022 Vol.2」は、「マーケターとともに考える 人の心を動かす人事」と題して、マーケティングに着目。採用とマーケティングの重なりについて深掘りし、マーケティングの視点から人事を紐解き、より有効な採用アプローチやSNSによる採用情報の発信など、バラエティに富んだ4部のセッションが展開された。

レポート4本目で取り上げるSESSION2では、株式会社みずほフィナンシャルグループ グループCPOの秋田夏実氏と株式会社レノバ 執行役員CHROの永島寛之氏が、「マーケターの経験は人事にどう活きる? 転向人事が見るマーケティングと人事の共通点」というテーマで意見を交わした。モデレーターはIndeed Japan株式会社の小西航太が務める。

株式会社みずほフィナンシャルグループ グループCPO兼 株式会社みずほ銀行/みずほ信託銀行/みずほ証券 常務執行役員
秋田夏実氏
みずほフィナンシャルグループのグループCPOとして、グループ全体の組織開発、人材開発、健康経営、多様な人材の活躍の推進等に取り組む。みずほフィナンシャルグループ入社前は、アドビの副社長(バイスプレジデント)として、⽇本のマーケティングおよび広報を統括。それ以前は約20年にわたり金融業界に身を置き、マスターカードの日本地区副社長、シティバンク銀行デジタルソリューション部長などを歴任。
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株式会社レノバ 執行役員CHRO
永島寛之氏
大学にてマーケティングを学んだ後、東レおよびソニーにて海外事業の新規市場開拓に従事。米国駐在を経て、ニトリホールディングスに入社し、組織・人事責任者として、タレントマネジメントの観点から、採用、育成、人事制度改革を指揮。レノバ参画後は、CHROとして中長期の事業戦略と連動した組織・人材戦略の立案と人事施策実行を担い、世界のエネルギー変革のリーダー(グリーン人材)の育成に注力している。
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Indeed Japan株式会社 Site Lead, Japan GM Offices
小西航太
2015年にIndeed Japan入社。Indeed Japanでは、営業部門の責任者として10名から300名規模への組織拡大を牽引した後、2019年よりシニアマネージャーとして採用チームを率いる。現在はサイトリードとして日本の事業統括に従事。
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【SESSION2】マーケターの経験は人事にどう活きる? 転向人事が見るマーケティングと人事の共通点

SESSION2では、マーケターの経験を持つ秋田氏と永島氏が「マーケターの経験は人事にどう活きる? 転向人事が見るマーケティングと人事の共通点」というテーマについて議論した。

秋田氏は、国内外の複数の金融機関における20年以上のキャリアを経て、前職はアドビで副社長を務めた。2022年5月、みずほフィナンシャルグループのグループCPO、および、みずほ銀行などグループ企業の常務執行役員に就任。それまで携わってきたマーケティングや広報の領域から、人事領域へキャリアチェンジした。グループ全体の組織開発、人材開発、ウェルビーイングや健康を意識した経営などに取り組んでいる。

永島氏は、東レ、ソニーにおいてグローバルマーケティングに携わった後、2013年にニトリへ。ニトリの新卒採用担当、人材教育マネージャー、組織開発室室長を経て、2022年4月、自然再生エネルギー事業を手がけるレノバの執行役員CHROに就任した。人材市場においてグリーン人材の獲得や育成に取り組んでいる。

それぞれの自己紹介に続き、永島氏がマーケティング観点で人事に取り組むことの意義について見解を述べた。

永島
マーケティング領域の視点から考えると、人事領域はブルーオーシャンだと感じます。マーケティングのナーチャリング(顧客育成、顧客化)の考え方が人事では採用や育成に転用できたり、カスタマーエクスペリエンスの考え方がキャリア構築につながっていったり。人事領域にはマーケティング的な要素が多いのですが、マーケティングほど深く追求されていません。

また、マーケティングは、テクノロジーによってマス・マーケティングからターゲット・マーケティングへ発展してきています。同様に、人事においても、ここ10年くらいの間にHRテックが入って、マスから個人へフォーカスできるようになってきました。人事領域におけるマーケティング思考の可能性を感じています。

社員一人ひとりの好奇心や価値観に寄り添い、エンゲージメントを高めていく

小西航太

小西が最初のトークテーマに挙げたのは、「これからの人事に求められる視点・大事にすべきこと」。今後の人事のあるべき姿勢について、両氏はどう考えているのか。

秋田氏は「エンゲージメント向上」を挙げた。社員が会社の向かおうとしている方向に共感し、会社の未来を自分ごと化していることがエンゲージメントの高い状態。エンゲージメントを考えるうえで、Z世代の価値観や日本人の働き方観の変化だけでなく、「大退職時代」などグローバルで見られる現象も含め、社員と経営の距離や結びつきに課題があると指摘した。

特に、資源に乏しい日本の場合、人的資本の重要性は高く、主体的・自律的に行動できる人材の育成と獲得が不可欠だと述べる。そのためにも、人事は従来の「管理する人事」から「社員一人ひとりに寄り添い、サポートする人事」への転換が求められるという。

秋田夏実氏
秋田
それは人を起点としたアプローチであり、実は、マーケターがずっとやってきたことなのです。顧客体験として社外に提供してきたことを、社内の人材に向けて、社員が輝けるために、社員を後押しするために提供していくということですね。

さらに秋田氏は、寄り添う人事になるために求められることは、社員のインサイトをしっかり理解して深掘りすることだと述べた。対象者と膝詰めで対話するなかで得られる定性的な声に加え、定量的な調査も絡めながらインサイトを把握していく。人事側から社員に近づき耳を傾けることで、人事がすべきアクションがあぶり出されるのだという。

一方、永島氏は「好奇心と価値観に寄り添う」を挙げた。例えば、社員のエンゲージメント向上のための施策や人的資本開示の義務化など、人事が対応すべき事柄は次々と現れる。取り巻く環境の変化が早いため、結局、どこに向き合えばいいのかわからなくなり、本質的なレベルで議論がなされていないという。

永島寛之氏
永島
人事が今やるべきことは、社員の好奇心や価値観に向き合うことだと思います。マーケティングで行われるターゲットの洞察と分析、ナーチャリングといった一連の動きと同じです。とはいえ、それはけっこう大変なことで、しゃかりきに取り組んでも向き合いきれません。

そのため重要なことは2つあると、永島氏は続ける。

永島
1つ目は、テクノロジーの力を借り、情報を整理して統合的に理解を進めること。2つ目は、会社として、人事として、社員の好奇心や価値観に向き合い未来を作っていく意識を持つことです。ただ、人事だけで進めるのは難しい。各部門がバラバラに考えるのではなく、連動して何を目指すのかを考える必要があります。その点は、まさしくマーケティングから学ぶことではないでしょうか。
小西
社員一人ひとりの好奇心や価値観に寄り添いながら、人事だけでなく会社として取り組むことが、結果的に、すべてのエンゲージメントにつながっていくイメージですね。
秋田
社員を巻き込んでいく力は大事ですよね。人事だけで決めたものは、社員にきちんと響かない。会社全体をハーモナイズさせながら、さらに重要なのは、未来への舵取りである経営戦略に合わせた人事戦略を考えながら進めることです。人事はなかなかタフな立ち位置にあると感じます。

マーケターの着眼で導いた人事施策であるアルムナイ活用と従業員体験向上

(左)秋田夏実氏、(右)永島寛之氏

人事を取り巻く状況をマーケター視点で考察したところで、小西は「どのような取り組みをすると良いと考えるか」とたずねた。

秋田氏は、先述したインサイトの理解と深掘りから共鳴を創出していくことが重要になると述べる。特にポイントとなるのが、社員のサスティナブルなエンゲージメント醸成だという。みずほフィナンシャルグループでは、3つの方針を掲げているという。

1:自立性の伸長と専門性の強化
2:インクルーシブな組織づくり
3:働きやすい環境の構築

3つの方針のもと社員のエンゲージメント向上を図るうえで、特に2と3は、マーケティング的な発想と相性がいいと述べる。

これら方針に沿って、様々な施策を打ち出すなか、秋田氏が特に注目しているのがアルムナイネットワーク(アルムナイとは中途退職者の意)の強化だという。

秋田
外資系企業では、いわゆる出戻り社員を歓迎する傾向にあります。比較的早く組織に順応できるうえ、ほかの企業で得た経験や学びが自社に還元されるからです。弊社でも2年前からこの活動をスタートさせていますが、アルムナイの重要性について、さらに社内の理解を深めていきたいと考えています。実は、離れてもなお、会社に親しみを持ち続けてくれるアルムナイが多いのです。また、アルムナイと良い関係を築くことは、現役社員のエンゲージメント向上にもつながります。

一方、永島氏が掲げたのは、エンプロイー・エクスペリエンス(EX/従業員体験)だ。

永島
消費者と企業のつながりの質を高めるのがマーケティングの本質的な考え方で、これは人事にも当てはめることができます。そのためには、前述のように社員の好奇心や価値観に耳を傾ける必要があるでしょう。例えば、本人の興味がない部門に移動させたり、スキルに合っていない間違えた配置をしたりすると、社員と組織がどんどん離れていってしまう。会社の目指す価値観と個の価値観をマッチングさせるところに、人事の役割があると思います。

それこそ、人事が社員を対象としたマーケターたる所以だという。

永島
さらに、EXを高めるにはタレントマネジメントが不可欠です。高評価の社員だけを優遇するマネジメントはダメです。例えば、ある人の評価に波があるときは、その背景にある理由を探ります。各従業員のエクスペリエンスを見て対応することが大事で、しかも365日見ていく必要があります。さらに、様々なデータを統合して解像度を上げていく必要もあるため、テクノロジーの活用が必須と言えるでしょう。

マーケティング思考を活かし、人事に大切な立場や時間をつないでいく視点を得る

ここでセッションは終盤を迎える。これまで議論してきたことを受け、小西は人事が取り入れると良いマーケティングの考えや視点をあらためて問いかけた。

秋田氏が挙げたのは、EXとCustomer Experience(CX)の相互補完だ。EXの充実は高付加価値なCXをもたらし、その経験がEXの質に反映されるように、循環の関係にあるという。

秋田夏実氏
秋田
前職のアドビには「カスタマーゼロ」という言葉がありました。マーケター自身が自社のサービスの最初のカスタマーであり、第一のファンであれという意味が込められています。今、私は人事であると同時に、一社員でもあります。どうしたらより良い働き方を実現できるか考えることは、他人事でなく私自身の体験を高めることでもあります。より良いEXがより良いCXとなり、CXが良くなればビジネスも上向きます。それが結果として、再びより良いEXに循環していくということですね。

一方の永島氏は、「オンボードとオフボード(*1)」という言葉をフリップに記した。オフボードは、今回のセッションのなかで書き足したというが、アルムナイとも深く関わってくる。

*1 オンボードとはオンボーディングのことで、入社時に行われる施策や手続き。オフボードとはオフボーディングのことで、退職時に行われる施策や手続き

永島
様々なやり方あると思いますが、一番大事なのはオンボードとオフボードを意識し、自社の姿や自社がどこに向かっているかを明確にすることではないでしょうか。採用活動において採用だけを意識すると、採用する側もされる側も入社がゴールになってしまいます。そうではなく、企業でどのようにキャリアを築いていくかという「入社の先」を見せる考えがあれば、オウンドメディアの作り方も変わってくるでしょう。その視点は、マーケティングの考え方と共通すると思います。

ここでセッションは時間に。今回のセッションを通じ、社員へのフォーカスや、一人ひとりの価値観に基づくエクスペリエンスの創出といったキーワードが挙げられた。あらためて人事とマーケティングの考え方をつなげることの意味が確認され、視聴者にとって刺激のある時間となったはずだ。

https://indeed-omrj.com/post-0208
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