管理から寄り添いの転換。マーケティング思考で実現する社員一人ひとりを見つめた人事施策

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2022年9月29日に開催された「Owned Media Recruiting SUMMIT 2022 Vol.2」は、「マーケターとともに考える 人の心を動かす人事」と題して、マーケティングに着目。採用とマーケティングの重なりについて深掘りし、マーケティングの視点から人事を紐解き、より有効な採用アプローチやSNSによる採用情報の発信など、バラエティに富んだ4部のセッションが展開された。
レポート4本目で取り上げるSESSION2では、株式会社みずほフィナンシャルグループ グループCPOの秋田夏実氏と株式会社レノバ 執行役員CHROの永島寛之氏が、「マーケターの経験は人事にどう活きる? 転向人事が見るマーケティングと人事の共通点」というテーマで意見を交わした。モデレーターはIndeed Japan株式会社の小西航太が務める。



【SESSION2】マーケターの経験は人事にどう活きる? 転向人事が見るマーケティングと人事の共通点
SESSION2では、マーケターの経験を持つ秋田氏と永島氏が「マーケターの経験は人事にどう活きる? 転向人事が見るマーケティングと人事の共通点」というテーマについて議論した。
秋田氏は、国内外の複数の金融機関における20年以上のキャリアを経て、前職はアドビで副社長を務めた。2022年5月、みずほフィナンシャルグループのグループCPO、および、みずほ銀行などグループ企業の常務執行役員に就任。それまで携わってきたマーケティングや広報の領域から、人事領域へキャリアチェンジした。グループ全体の組織開発、人材開発、ウェルビーイングや健康を意識した経営などに取り組んでいる。
永島氏は、東レ、ソニーにおいてグローバルマーケティングに携わった後、2013年にニトリへ。ニトリの新卒採用担当、人材教育マネージャー、組織開発室室長を経て、2022年4月、自然再生エネルギー事業を手がけるレノバの執行役員CHROに就任した。人材市場においてグリーン人材の獲得や育成に取り組んでいる。
それぞれの自己紹介に続き、永島氏がマーケティング観点で人事に取り組むことの意義について見解を述べた。
また、マーケティングは、テクノロジーによってマス・マーケティングからターゲット・マーケティングへ発展してきています。同様に、人事においても、ここ10年くらいの間にHRテックが入って、マスから個人へフォーカスできるようになってきました。人事領域におけるマーケティング思考の可能性を感じています。
社員一人ひとりの好奇心や価値観に寄り添い、エンゲージメントを高めていく

小西が最初のトークテーマに挙げたのは、「これからの人事に求められる視点・大事にすべきこと」。今後の人事のあるべき姿勢について、両氏はどう考えているのか。
秋田氏は「エンゲージメント向上」を挙げた。社員が会社の向かおうとしている方向に共感し、会社の未来を自分ごと化していることがエンゲージメントの高い状態。エンゲージメントを考えるうえで、Z世代の価値観や日本人の働き方観の変化だけでなく、「大退職時代」などグローバルで見られる現象も含め、社員と経営の距離や結びつきに課題があると指摘した。
特に、資源に乏しい日本の場合、人的資本の重要性は高く、主体的・自律的に行動できる人材の育成と獲得が不可欠だと述べる。そのためにも、人事は従来の「管理する人事」から「社員一人ひとりに寄り添い、サポートする人事」への転換が求められるという。

さらに秋田氏は、寄り添う人事になるために求められることは、社員のインサイトをしっかり理解して深掘りすることだと述べた。対象者と膝詰めで対話するなかで得られる定性的な声に加え、定量的な調査も絡めながらインサイトを把握していく。人事側から社員に近づき耳を傾けることで、人事がすべきアクションがあぶり出されるのだという。
一方、永島氏は「好奇心と価値観に寄り添う」を挙げた。例えば、社員のエンゲージメント向上のための施策や人的資本開示の義務化など、人事が対応すべき事柄は次々と現れる。取り巻く環境の変化が早いため、結局、どこに向き合えばいいのかわからなくなり、本質的なレベルで議論がなされていないという。

そのため重要なことは2つあると、永島氏は続ける。
マーケターの着眼で導いた人事施策であるアルムナイ活用と従業員体験向上

人事を取り巻く状況をマーケター視点で考察したところで、小西は「どのような取り組みをすると良いと考えるか」とたずねた。
秋田氏は、先述したインサイトの理解と深掘りから共鳴を創出していくことが重要になると述べる。特にポイントとなるのが、社員のサスティナブルなエンゲージメント醸成だという。みずほフィナンシャルグループでは、3つの方針を掲げているという。
1:自立性の伸長と専門性の強化
2:インクルーシブな組織づくり
3:働きやすい環境の構築
3つの方針のもと社員のエンゲージメント向上を図るうえで、特に2と3は、マーケティング的な発想と相性がいいと述べる。
これら方針に沿って、様々な施策を打ち出すなか、秋田氏が特に注目しているのがアルムナイネットワーク(アルムナイとは中途退職者の意)の強化だという。
一方、永島氏が掲げたのは、エンプロイー・エクスペリエンス(EX/従業員体験)だ。
それこそ、人事が社員を対象としたマーケターたる所以だという。
マーケティング思考を活かし、人事に大切な立場や時間をつないでいく視点を得る
ここでセッションは終盤を迎える。これまで議論してきたことを受け、小西は人事が取り入れると良いマーケティングの考えや視点をあらためて問いかけた。
秋田氏が挙げたのは、EXとCustomer Experience(CX)の相互補完だ。EXの充実は高付加価値なCXをもたらし、その経験がEXの質に反映されるように、循環の関係にあるという。

一方の永島氏は、「オンボードとオフボード(*1)」という言葉をフリップに記した。オフボードは、今回のセッションのなかで書き足したというが、アルムナイとも深く関わってくる。
*1 オンボードとはオンボーディングのことで、入社時に行われる施策や手続き。オフボードとはオフボーディングのことで、退職時に行われる施策や手続き
ここでセッションは時間に。今回のセッションを通じ、社員へのフォーカスや、一人ひとりの価値観に基づくエクスペリエンスの創出といったキーワードが挙げられた。あらためて人事とマーケティングの考え方をつなげることの意味が確認され、視聴者にとって刺激のある時間となったはずだ。