社員主導で“自社らしさ”を伝え、採用数を3倍、人物マッチ度を2倍にしたFCE Holdingsの採用ブランド戦略


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株式会社FCE Holdingsは、教育研修事業、DX推進事業、出版事業を手掛けている。企業イメージの転換を目的とした「リブランディングプロジェクト」では、「どのような求職者に向けた発信なのか」が明確に伝わる採用サイトを構築。
企業カルチャーをユニークなキーワードによって的確に伝える採用サイトと、FCEを体現するメッセージを伝えるオウンドメディア「FaCE!」が評価され「Owned Media Recruiting AWARD 2022」(以下、アワード)に入賞した。「自社にあった人材を効果的に惹きつけるオウンドメディアリクルーティングの理想形」と、公益財団法人連合総合生活開発研究所 主幹研究員で、アワードの審査員を務めた中村天江氏は高く評価する。
中村氏が聞き手となり、FCE Holdings リレーション推進部 ブランド戦略室 室長・安宅奈津子氏にインタビューを実施して、リブランディングプロジェクトの背景や過程に迫った。




非常に詳細なペルソナを設定し、求める人材像を検討


中村 この度は入賞おめでとうございます。FCE Holdingsは採用のリブランディングにより、採用選考における「人物マッチ度」を向上し、採用数を3倍に増やしました。オウンドメディアからの直接応募も0人だったのが今では100人を超え、劇的な躍進を遂げています。Webのコンテンツも素晴らしいですね。
安宅 ありがとうございます。「この賞をいつか取るぞ」と思って戦略的に採用ブランディングに取り組んできたのですごく嬉しいです。
中村 そうだったんですね。ではさっそくですが、「リブランディングプロジェクト」の概要をご説明いただけますか。
安宅 当社は子ども向けの教育プログラムを提供する事業からスタートしました。そのため「教育会社」というイメージが強かったです。実際は人材育成コンサルやDX支援コンサルなど新規事業に取り組んでいたのですが、旧来のイメージが浸透していたことから求職者と求める人材にギャップが生じ、イメージを転換する必要がありました。
そこで人事と広報を「リレーション推進部」という一つの部署に統合して、まずは30名の学生・新卒へヒアリングすることから、リブランディングプロジェクトを始めました。サイトを見てどのようなイメージを持ったか、採用フローを通じて会社をどう認識したかなど徹底的に聞いたところ、見えてきたものはやはり我々の課題感と同じでした。「教育会社」「安定性」といったイメージを持った方が多く、ブランディングの方向性を間違えていたことを認識し、現状把握ができました。
次に行ったことは、詳細なペルソナの設定です。
中村 FCEのペルソナはすごいですね。採用したい人材の高校時代のアルバイト、大学の部活、大学時代のエピソードなど非常に具体的です。
安宅 以前からMust要件、Want要素といった要件定義をもとに募集をしていたのですが具体的な人物像までは決めておらず、ぼんやりとしていました。今回、リブランディングプロジェクトに際し、趣味、経歴、影響を受けた出来事などを細かく定め、求める人物像を本格的に考えました。「この人が来たらドンピシャで採用する」という理想の一人です。そして、いかにこの人の心を動かすことができるかだけを突き詰めて考えました。
代表を含め、リレーション推進部みんなで考えたのですが、他の社員も「ぴったりだ」と納得していました。
中村 「採用サイトとオウンドメディアでなぜこんなに一貫性のある表現ができたんですか」という質問をしようと思っていましたが、ペルソナのエピソードを伺い腑に落ちました。理想の一人について社内で共通認識をつくることができたからこそ、コンテンツや表現すべてが、“FCEさんらしさ”につながっていったのでしょうね。
採用のコンセプト策定からWebの設計・デザインまで、すべて社員で担う


中村 採用のコンセプトはどのように決めていったのでしょうか。
安宅 採用のコンセプト決めのブレストはドツボにはまってしまい、2、3週間くらい考え続けました。他社さんの打ち出し方を調べてみたり、ペルソナに近い社員に「どのワードが一番心にぐっとくるか」といったアンケートを取ったり。最終的に「企てろ」というコンセプトが弊社のカルチャーにバチッと決まったことが、もう一つの大きな転機です。
中村 採用のコンセプトを考え、それを共通認識にすることはとても難しいと思います。外部の専門家にサポートしていただいたんですか。
安宅 いえ、すべてインハウスです。採用コンセプトから採用サイトの設計・デザインも含めて、Webデザインが得意なメンバーなどとともに自社メンバーだけで行いました。
デザインはWebデザインが得意なメンバーが担当しました。関わったメンバーはこの会社に数年在籍しているメンバーが多く、弊社のカルチャーやFCEらしさの感覚が通じ合っています。だからこそ、自社で制作を行うことにしました。
中村 採用サイトのコンセプトが「企てろ」に固まった後、掲載するコンテンツはトントン拍子で決まっていったのでしょうか。
安宅 はい、コンセプト決定まではすごく苦労しましたが、コンテンツは比較的簡単に決まりました。「企て」とはどういうことか、社員それぞれの体験で話してもらうことによって解像度を上げ、当社が考える「企て」を体験できる設計にしています。
企業文化を疑似体験できるユニークなコピーで、人物マッチ度を向上


中村 採用サイトをリニューアルしたことで採用数だけでなく、人物マッチ度も向上しています。マッチ度の目標はどのタイミングで決めたのですか。
安宅 マッチ度に関しては「上げていこう」という目標意識はありましたが、数値目標は置いていません。ただ、面接で語られる内容が、「新規事業に挑戦したい」「学生時代から課題意識を持ち、自らの意志で問題解決に臨んだ」といった起業家マインドが感じられる内容にしたいという定性的な目標はありました。
中村 実際に応募者層は変わりましたか。
安宅 「志向性、資質が明らかに変わってきた」というフィードバックは面接官からもらいました。私も一次面接に出て手応えを感じています。「起業」「経営力」「新規事業を経験」というワードが学生から聞かれるようになり、成長意欲、独立意欲の高い応募者が集まるようになりました。
中村 採用サイト内には、「ド真剣」「集合天才」「明るいカオス」といったパワフルでかつ個性的なキーワードが散りばめられています。そういった表現は会議をしてもなかなか出てこないと思うのですが、なぜあのような言葉を紡ぐことができたのでしょうか。
安宅 単に「真剣」だとちょっとニュアンス違うよねというところがあり、私たちが感じる当社の文化を集約したら、その言葉になりました。私たちにあるものと、設定したペルソナが求めるであろう部分の重なる部分を求職者に伝えたうえで、「この文化いいよね」「FCEらしいっていいよね」と言ってくれる人こそ、当社が求める人材だと定めました。そのなかで、当社らしさは何なのだろうと議論を重ねて、私たちの持つ文化を疑似体験できるような言葉で伝えていこうと考えていました。
中村 個性の強い言葉は、受け手によって合う合わないがはっきり分かれます。そのことで母集団がしぼられ、応募者が減ってしまう恐れもあると思うのですが。
安宅 そこは気にしませんでした。私たちにとって理想の採用は、例えば10人の枠があったら、ペルソナとして描いているのような人が10人応募してきて全員が入社すること。それが応募者にとってもプラスだと考えています。
合うかどうかわからない会社に入社して結果的にフィットしないよりは、応募段階で合うか合わないか判断ができるほうがいい。新卒採用説明会でも代表が「当社の考え方に共感できる方は進んでください。共感できなかったら他社さんに行ってください」と直接伝えることもあります(笑)。それがお互いにとってウィンウィンだと思っています。
中村 審査でもその点を高く評価しました。採用活動は、企業にとっては事業成長の、個人にとってはキャリア形成のための発展的な取り組みです。一方で、応募者数を増やせば増やすほど、たくさんの不合格者を出すというジレンマがあります。自社にあった人材だけに訴求してコミュニケーションできれば、採用活動が持つ構造的な負を乗り越えることができます。
採用サイトよりも、オウンドメディアで生々しさを伝える


中村 一方で、オウンドメディア「FaCE!」はどのような位置付けですか。
安宅 採用ブランディングは、求職者に認知してもらい、興味を持ってもらい、好意を抱いてもらって、愛着に変えるというフローで考えています。採用サイトの役割は認知から好意を持ってもらうまで。採用サイトで発信するコンテンツにはどうしても公式感が出てしまうので、そこから好意や愛着までには到達しづらいかなと考えています。ですので、オウンドメディアの役割は、そこから愛着を持ってもらい「ここで働いてみたい」と思ってもらうことだと捉えています。
2019年、Owned Media Recruiting SUMMITに参加した1カ月後に立ち上げたオウンドメディア「FaCE!」では、様々な出来事や人を通して伝え、リアル感や生々しさを採用サイトでの情報に付け加えていく役割があると思っています。
中村 採用サイトにはなく、オウンドメディアにはあるコンテンツは具体的にどんなものですか。
安宅 オウンドメディアではより多角的にFCEが伝わるようにコンテンツを制作しています。具体的には、「出来事」「ビジネス」「カルチャー」「仲間たち」という4つのテーマと、「チャレンジ失敗前提」「既存概念の打破」など6つのFCEらしさを伝える要素をかけ合わせています。


また、二次面接の参加者全員、ご縁がなかった方も含めて、採用サイトや「FaCE!」はどうでしたか、どのコンテンツを見て志望度が上がりましたか、どんな企業イメージを持ちましたかといったことをヒアリングしています。そうしないと自分たちがいいと思ったものと、応募者がいいと思うものや抱くイメージがずれていってしまう。ちゃんと聞いて合わせなければと感じています。
成功のポイントは「私たちらしさ」を確固たるものにしたこと


中村 「採用数を増やしたい」と考える企業にアドバイスをお願いします。
安宅 特に良かったなと思うのは、求める人物像を明確にしたことと、“らしさ”の追求に力を入れたことです。それによって、発信すべきことが何なのかが明確になりました。このオウンドメディアの立ち上げの前には、全社員を集めて「私たちらしさって何だろう」と考えるワークショップを行いました。
中村 一連の取り組みは、新卒に限らず経験者採用にも波及していますか。
安宅 はい、「FaCE!」は中途採用の応募者がよく読んでくれていて、面接でも記事に関連して質問してくださることがよくあります。「FaCE!ほど社員をたくさん出しているオウンドメディアはないです」「この会社入ったらこういう仕事するんだというイメージがわきました」といったフィードバックもよくもらいます。中途採用の方はいろいろな仕事を知っているからこそ、インタビューを通じて入社後のイメージができ、それが決め手になるのだと思います。
中村 今後のプランを教えてください。
安宅 二つ取り組みたいことがあります。一つは動画。今回、採用動画賞を受賞された株式会社ガイアックスさんの動画を見て刺激を受けました。私たちらしさを体験していただけるコンテンツを、さらに増やしたいと考えています。
もう一つは、チャレンジする人に役立つメディアを新しく立ち上げてみたいですね。今は当社のことを伝えるメディアですが、これからは求める人材に有益な情報を提供した会社が支持され、選ばれるように思うんです。当社は「チャレンジあふれる未来をつくる」というミッション&ビジョンを掲げています。チャレンジする人を応援するメディアを通じて当社を知ってくれたら嬉しいですし、そうでなくても読んだ人が前向きな気持ちになってくれたらいいですね。